痛風・尿酸ニュース

薬物動態と尿酸動態

高田 龍平(東京大学 医学部附属病院 薬剤部 教授/薬剤部長)

薬学部出身の私は、学生時代は“医薬品を中心とした様々な化学物質の体内での動きと、薬理効果や毒性発現の関連性を追究する学問分野”である『薬物動態学』分野の研究室に所属し、薬物輸送体(薬物トランスポーター)に関する研究をしていました。博士課程の間は、Breast Cancer Resistance Protein(略してBCRP)(または、ATP-binding cassette transporter G2、略してABCG2とも呼ばれます)という乳がんの多剤耐性に関わる薬物トランスポーターについての基礎研究を行い、学位を取得しました。

その後、病院薬剤部に就職し、臨床業務、教育と並行して、学部生・大学院生の研究指導を行っていたところ、共同研究のご縁をいただき、上述のABCG2による尿酸輸送についての研究を進めました。その結果、ABCG2が初めて見つかった生理的に重要な尿酸排出トランスポーターであり、その機能低下が高尿酸血症および痛風のリスクになること、ABCG2が腸からの尿酸排泄を担い、新たな病型分類である腎外排泄低下型高尿酸血症の原因となることなどを明らかにすることができました(「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版)」にも反映されています)。

さらに、ABCG2と尿酸降下薬との相互作用に注目した解析を進めた結果、尿酸産生抑制薬フェブキソスタットが臨床で用いられる量でABCG2の輸送機能を阻害しうることが分かりました。ロスバスタチンは薬物の腸からの吸収がABCG2の機能により大きく変わる(ABCG2の機能が強いと吸収が妨げられてしまう)ことが知られていますが、上述の結果と海外のグループによる臨床薬理試験の結果(フェブキソスタットとの併用でロスバスタチンの血中濃度が上昇する)を根拠に、フェブキソスタットとロスバスタチンはお互いに併用注意であることが添付文書に記載されました。

その後も、まだまだ未解明の点が多い尿酸の全身動態制御機構を明らかにすべく、新たな尿酸トランスポーターを見出すこと、そのトランスポーターの病態生理学的意義や創薬標的としての可能性を解明することを目指して研究を進めています。薬物動態学的な視点や研究手法を活かし、基礎的にも臨床的にもインパクトのある成果を出していきたいです。

 

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