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痛風・尿酸ニュース

高い尿酸値を治療しなくても良いの?

仲川 孝彦(滋賀医科大学再生医療開拓講座)

3年ほど前に、New England Journal of Medicine (NEJM)に二つの論文が掲載された。その二つの検討に共通する結論は、尿酸値を薬物治療で低下させても腎臓を保護しないという内容であった。通常、世界でのトップクラスに位置する臨床医学誌NEJMには、厳選に審査された大規模な臨床試験の結果が掲載されている。その多くは、臨床的疑問点を解決するような検討であり、したがって、掲載された論文の結果は、臨床的問題に対する解答といった意味合いをもつことが多い。今回の二つ検討は、長年の臨床的疑問である“尿酸は単なるマーカーであるのか、あるいは腎臓病の危険因子か?”というものに対する解答を得ようとしたものであるので、そういう意味で、今回の結果が“その解答”であるという印象を多くの臨床かに与えてしまう可能性がある。しかし、本当に高尿酸血症を治療しなくても良いのだろうか?

NEJMの二つの検討結果に違和感を覚えるのは私だけではない様である。実際に、世界中から多くのコメントが寄せられており、それらが同雑誌に同時に掲載されている。そもそも、尿酸に関する研究が盛んになったのは2000年頃からであり、最近では多くの臨床検討も報告されている。そして、それらの論文の多くが、(決してすべての論文ではないが、)尿酸降下薬の有用性を報告していることを鑑みると、この時点での違和感は、なぜ今回のNEJMの結果は過去の報告とは矛盾したものになったのか?ということであろう。

NEJMの論文を吟味してみると、その対象者の選別がその矛盾理由の一つであるという可能性が浮かび上がってくる。例えば、1型糖尿病の腎機能を検討したStudyでは、30年以上も糖尿病歴がありながら腎機能は全く正常に近い状態にある患者であった。糖尿病を発症すれは腎臓障害が生じる患者が多いことを考慮すると、今回の患者集団は特に腎障害を起こしにくいケースであると判断できる。しかも、検討開始時の血圧は全く正常であるばかりではなく、血清尿酸値も正常であるといった状況であった。つまり、今回のNEJMの検討は、腎機能も尿酸値も血圧も正常である患者に対して行なった検討であり、そのためこの状況では尿酸降下の腎臓における効果を明らかにするのは極めて難しい状況であったと考えられる。実際に、臨床の現場では、このような状態の患者に対して尿酸効果療法を行うような医療従事者はいないのではないだろうか。

今回示された結果は、言うまでもなく尊重しなくてはいけないものではあるが、現時点で重要なことは、今回の対象者は極めて特殊な集団り、報告された結果が必ずしも多くの腎臓病患者に対しては当てはまらないということであろう。したがって、 “尿酸に関する臨床的疑問”に対する臨床的解答はまだ得られていないと判断できるのではないだろうか。現時点ではまだ、臨床疑問に対する解答を今後の尿酸研究に期待する段階である。

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