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痛風・尿酸ニュース

ALL-HEART試験とその解釈について

桑原 政成(虎の門病院 循環器センター内科 医長)

2022年8月の欧州心臓病学会(European Society of Cardiology: ESC)で、英国のIsla S Mackenzie先生から、ALL-HEART試験の結果が報告され、10月8日に本論文が英国雑誌のLancetに掲載*された。ALL-HEART試験は、痛風の既往のない60歳以上の虚血性心疾患患者さんを対象として、脳心血管疾患のイベントを主要評価項目として、アロプリノール治療群と通常治療群とを比較した、前向きのランダム化比較試験である。英国の424施設の一般開業医を受診した6134人の患者さんが対象とされ、平均で4.8年間のフォローアップの後、最終的にアロプリノール群2853人(平均年齢 71.9歳、男性76.0%)、通常治療群2868人(平均年齢72.0歳、男性75.1%)が比較された。アロプリノールは、腎機能が正常(推定糸球体濾過量:eGFR≥60)な患者さんには初めの2週間は1日100㎎、次の2週間は1日300㎎、その後は1日600㎎、慢性腎臓病を認める(eGFR:30-59)患者さんには初めの2週間は1日100㎎、その後は1日300㎎の内服が行われた。主要評価項目である、心筋梗塞、脳梗塞、心血管死亡の複合評価で、両群間に差は認めず(ハザード比 1.04; 95%信頼区間 0.89-1.21)、また副次評価項目である、心筋梗塞、脳梗塞、心血管死亡においても、両群間で差は認めなかった。また、死亡者数は、アロプリノール群で288人、通常治療群で303人であったが、両群間で差は認めなかった。

ALL-HEART試験は、アロプリノールを用いて脳心血管疾患を予防できるかを検証した、数少ない大規模な前向き比較研究であり、痛風の既往のない60歳以上の虚血性心疾患患者さんに対して、脳心血管疾患の予防を目標としたアロプリノールの内服は効果を認めなかったという結果が示された。しかしながら、本研究の対象者のベースラインの血清尿酸値は0.34mmol/L(5.7 mg/dL)、アロプリノールの治療後では0.18mmol/L(3.0mg/dL)と低値を示しており、高尿酸血症(血清尿酸値 7.0mg/dLを超えるもの)を対象とされた研究ではないことに留意が必要である。またアロプリノール群における脱落率が57.4%と高かったことが示されており、本結果の解釈には注意が必要である。本研究の結果については、対象患者さんの背景や、内服継続の脱落率なども含め、慎重な評価をしていかなければ、間違った方向に導いてしまう可能性があると考える。アロプリノールなどの尿酸降下薬は、そもそも高尿酸血症・痛風の予防・治療の薬であるため、高尿酸血症がない患者さんが内服してもその効果は乏しい可能性が高い。高尿酸血症が続くと、血液中で不飽和状態となった尿酸が析出し、関節内などに尿酸塩結晶が形成され、その蓄積された尿酸塩結晶が何らかの刺激などで剥がれ落ちると、関節内での炎症が強く認められ、痛風発作が生じる。痛風が生じると、全身にも炎症が波及し、最近JAMAから報告された論文**によると、痛風発作後120日以内、特に60日以内に、脳心血管疾患のイベントが2倍近く認められることが示されている。これらの結果を総合的に判断すると、痛風発作の既往や、高尿酸血症を継続して認める患者さんに対して、痛風の発症予防に高尿酸血症の治療を行うことは適切と考えられる。高尿酸血症・痛風の治療ガイドラインに記載されている通り、高尿酸血症・痛風に対して、既往や合併症も考慮した適切な高尿酸血症・痛風の治療が望まれる。

*Isla S Mackenzie, Christopher J Hawkey, Ian Ford, et al. Allopurinol versus usual care in UK patients with ischaemic heart disease (ALL-HEART): a multicentre, prospective, randomised, open-label, blinded-endpoint trial. Lancet 400:10359.1195-1205.2022
** Edoardo Cipolletta, Laila J. Tata, Georgina Nakafero, et al. Association between gout flare and subsequent cardiovascular events among patients with gout. JAMA 328:440-45.2022

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