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痛風・尿酸ニュース

“医師主導”から“患者や市民と共に創る”診療ガイドラインへの潮流

久留 一郎(国立病院機構 米子医療センター 病院長)

ご存じのように現在の医療は診療ガイドライン(GL)に従って行いますが、GLがどのような理念で作られているのかは意外と知られていないのではないでしょうか。GLの作成方法は時代と共に変わってきました。古くは専門家の意見を集約したGLでしたが、その後、論文より収集した情報を“科学的な根拠(エビデンス)”としてまとめ、その確実さを基準として診療上の推奨を出すエビデンスに基づいた“医師主導”のGLとなりました。高尿酸血症・痛風診療においても2002年に世界初のGL第1版が発刊されましたが、これはエビデンスを重視したGLでした。また2010年に発刊されたGL第2版は推奨に対しての患者個人の価値観や希望を初めて含むものでしたが、エビデンスや推奨に医師のコンセンサスを明記するのでやはり医師主導のGLでした。ところが2011年に米国医学研究所が新たなGLの定義を発表しました。エビデンスに基づいた推奨に患者の価値観や希望や個別性・多様性を反映させるGLとなり、より患者側に立ったGLを目指したものです。この潮流に従って、わが国でも2014年に設立された公益財団法人日本医療機能評価機構医療情報サービス事業 (Minds)がGL作成方法を大きく変更しました。重要度の高い医療行為について、エビデンスの評価や医療行為の益と害のバランスを考慮する科学的な立場に加えて、GLは患者の価値観や希望と医療経済といった医療環境に充分配慮することで患者と医療者が協同して意思決定が出来る推奨を提示できるように進化しています。2018年に発刊された高尿酸血症・痛風の診療GL第3版も臨床課題に対してのエビデンスの科学的評価に加えて患者の価値観や希望を含み医療経済の観点を踏まえてその推奨文を提示しました。このように“医師主導”のGLから“患者さんと共に創る”GLの時代が到来した訳です。

さて、2020年を境にして、さらなるGLの作成方法に変革が訪れました。医療行為のみならず健康に関する重要な課題もGLに包括されました。また患者・市民の参画という世界的な潮流を反映して医療利用者と提供者の意思決定を支援するGLという具合に対象が拡大されました。具体的に言えば、GL作成の初期段階から患者や市民代表が参画して推奨までの各段階に関与するという流れであり、まさに“患者・市民と医療者との共創のGL”へと進化しています。医療の現場では、まずは医師と患者が治療の選択肢の情報を共有して治療方針を共同して決定(shared decision makingと言います)するので、その基本となるGLが患者と医師とで共同して作成されることは極めて重要な意味を持ちます。しかし、“患者・市民と医療者が協同してGLを作る”ためには患者・市民のみなさんにガイドラインの作成の手順を十分に理解してもらうこと、即ち患者・市民の教育が重要です。国も患者・市民の皆さんのGLの理解を助ける教育に注力し始めました。高尿酸血症・痛風の知識の普及のみならず、GLがどのように作られるのかを患者や市民のみなさんへ啓蒙することが公益財団法人痛風・尿酸財団の新たな役割となるのではと思います。

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