痛風・尿酸ニュース

プリン体はからだに良い?

箱田 雅之(安田女子大学家政学部管理栄養学科 教授)

プリン体は、尿酸の元になるとのことで、忌み嫌われる存在となっています。プリン体フリーのビールがヒットしました。日本人は、尿酸についてのリテラシーが高いとも言えます。海外では、痛風は食べすぎ飲みすぎの人がなる病気として、恥ずべきものととらえられているようです。また、医師も海外では尿酸コントロールに対する意識が低く、痛風の方に尿酸降下薬(海外ではほとんどアロプリノール)を処方した後、血液検査を1回もしないということもあるようです。さて、体内で尿酸の元になるプリン体として、ATPがあります。ご存知のように、ATPはエネルギーの貯蔵物質であり、1日の消費量は延べ60kgにもなるとされます。心臓、脳、筋肉、ありとあらゆる活動に、ATPが必要です。また、ATPは大腸菌から植物に至るまで利用されています。尿酸降下薬の中で、アロプリノールやフェブキソスタット、トピロキソスタットは、尿酸の生成を抑制します。この結果、尿酸になる途中の物質が溜まることになりますが、この物質(ヒポキサンチン)はサルベージ経路を通じて再利用され、少ないエネルギーでATPに再生されます。ATPを一から合成する場合はよりはるかに少ないエネルギーです。したがいまして、上記の尿酸生成抑制薬は、エネルギーの節約に結び付くことになります。すべての細胞でATPが使用されていることを考えると、これは決して見逃せない一面です。実際に、心臓の酸素不足で起こる病気である狭心症を、アロプリノールが改善したという研究結果も発表されています。鎌谷先生のグループは、尿酸生成抑制薬に加えて、プリン体の一つであるイノシンを投与することによって、体内でのATPを増加させることができることを示されています。アルツハイマー病やパーキンソン病などの脳疾患では、不要な物質が神経細胞に蓄積することによって生じると考えられていますが、それらの物質の分解には、エネルギーが必要です。尿酸生成抑制薬とイノシンの併用が、パーキンソン病に有効であったという初期の研究結果も発表されています。今後の益々の研究の発展が期待されるところです。このように考えますと、尿酸生成抑制薬を使用していれば、ATPの元になるプリン体は、からだに悪いとは言えなくなると思われませんか。むしろ、からだに良い可能性があると考えられます。プリン体は、うま味成分でもあり、美味しいものを食べることはからだに良いということになります。魚は、血管に良い食品として知られていますが、プリン体が多いことから、制限するよう食事指導が行われることが多くあります。しかし、尿酸生成抑制薬を使用していれば、魚のいいとこ取りができ、痛風や高尿酸血症の患者さんでもお勧めの食材となります。薬剤の使用によって、食事に対する考え方を変えることができる、いえ、変えるべきであると言えるかもしれません。

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