HOME » 痛風と尿酸について知りたい方へ » 痛風・尿酸ニュース » 古い薬のコルヒチンが現代の新しい治療に?

痛風・尿酸ニュース

古い薬のコルヒチンが現代の新しい治療に?

益田 郁子(十条武田リハビリテーション病院 リウマチ科部長)

3000年以上前にみいだされたコルヒチンは、現在も使われている薬のなかでもっとも古い薬剤のひとつです。およそ紀元前1550年のエジプトの医学本(Ebers Pupyrus)に痛みや腫れに対してコルヒチンを使うとあるのが最古の記載だそうです。1世紀にはギリシャの医師で薬剤師のPedanius Dioscoridesがイヌサフラン(colchium)を痛風の治療に用いたと薬局方に記載しています。以来、痛風の薬として世界各地で使われるようになり1800年代にはコルヒチンとして精製されました。このように長い歴史がある薬なのですがFDAが正式にコルヒチンを急性痛風発作の治療や予防、家族性地中海熱の治療薬として認可したのは2009年になってからでした。近年はそれ以外にベーチェット病、心膜炎、冠動脈疾患、肝硬変ほか、多くの疾患に適応外使用されています。さらにはCOVID-19の治療としての検討も行われているようです。コルヒチンには抗炎症作用・抗線維化作用があり、近年痛風に伴う急性炎症の分子メカニズムについての理解が深まり、コルヒチンによるいくつかの経路を介した抗炎症のメカニズムについても光があたるようになってきました。そういうことでCOVID-19においてコルヒチンの抗炎症作用に期待が高まったようです。後ろ向きコホート研究ではコルヒチンは患者の死亡率を下げ回復を早めたということが示されました(Plos One 2021 Mar 24;16(3):e0248276)。また他の最近の前向き研究では酸素療法の期間と入院期間を短縮することが報告されました(RMD Open 2021 Feb;7(1):e001455)。COLCORONAという前向き研究ではCOVID-19在宅患者にコルヒチンを使用したほうが複合しおよび入院の割合が減少しました(medRxiv2021.2021 Jan 27. https://www.medrxiv.org/context/10.1101/2021.01.26.21250494v1)。ただしROCOVERYという他の研究では28日目の死亡率をプライマリーエンドポイントとすると通常治療とコルヒチンを足した治療には有意差がでなかったようなので(Pharm J.2021 Mar 8.https://pharmaceutical-journal.com/article/news/recovery-trials-halts-recruitment-to colchicine-arm-due-to-lack-of-convincing-evidence)、まだコルヒチンが本当に有用なのかは今もたくさんの治験が継続しているようで結論はでていません。安い既存の薬(約7円/錠)がCOVID-19に有効となると、薬品会社は困るかもしれませんが。

コルヒチンの抗線維作用で血管内皮の肥厚を抑制し炎症サイトカイン産生を抑制する抗炎症作用が動物実験ですでに示されているので、心膜炎や動脈硬化の治療や予防としての臨床研究も進んでいます。

痛風治療としてはコルヒチンは痛風発作時にできるだけ早期に2錠効果なければ1時間後にもう1錠という発作治療法、そして尿酸降下療法開始時の痛風発作予防目的の連日1錠内服のコルヒチンカバーと、有用に使える薬です。一方コルヒチンは、薬剤としては治療域が狭く、CYP3A4で代謝されるために併用薬との薬剤相互作用に気を遣う薬でもあります。たとえば痛風患者さんには高脂血症の合併が多くよく使われるスタチンでCYP3A4代謝のアトロバスタチンやシンバスタチンではなく、CYP3A4代謝ではないプラバスタチンやロスバスタチンに換える配慮が必要です。

こういった私たち痛風治療医が使い慣れている薬が痛風以外の疾患の治療に使われ始めたということは、親戚の子が有名人になったような、なんだか自分のことでないのに誇らしい気がしてしまうのですが、この分野の研究者はさらに増えると予想するので痛風やコルヒチンの薬理作用にさらに光があたっていくことを期待したいと思います。

HOME » 痛風と尿酸について知りたい方へ » 痛風・尿酸ニュース » 古い薬のコルヒチンが現代の新しい治療に?

PageTop