痛風・尿酸ニュース

高血圧と尿酸

土橋 卓也(日本痛風・尿酸核酸学会理事/社会医療法人製鉄記念八幡病院理事長)

新型コロナウイルス感染症の流行に伴う度重なる緊急事態宣言の発令で国民は長期にわたる自粛生活を余儀なくされています。自粛生活は運動不足、過食(間食や加工食品の使用頻度増加)、飲酒増加などを介して高血圧や糖尿病など生活習慣病を有する患者さんに悪影響を及ぼす可能性が指摘されています。しかし、わが国の昨年の年間死亡数は11年ぶりに減少しました。コロナ対策による感染症の激減が主たる要因ですが、心疾患や脳血管疾患による死亡も減少したという意外な結果でした。リモートワークによる通勤や職場でのストレス、夜の宴会、会食の機会が減ったことなどが心血管病の抑制に作用したのかもしれません。

さて、私が、高血圧の臨床と研究に従事してから約40年になりますが、研究を始めたころから、高血圧の関連要因として尿酸が検出され、肥満や飲酒などを考慮しても関与が示唆されることを経験し、不思議に思っていました。その後の国内外の多くの研究で高血圧に高尿酸血症が合併しやすいこと、尿酸が高い人は高血圧になりやすいことが報告され、その因果関係が議論され続けています。臨床の現場では、高血圧患者の多くが、肥満、糖尿病、脂質異常症、慢性腎臓病(CKD)など既知の心血管リスクを有しており、Total risk managementが重要と考えていますが、高血圧だけをとってもガイドラインが提唱する厳格な降圧目標を達成するためには、多剤併用療法が必要で、他のリスク管理のための投薬が重なるとpolypharmacyとなり、服薬アドヒアランスの低下を招きかねません。また肥満や糖尿病、CKD合併者の血圧管理には利尿薬の併用が有効ですが、高尿酸血症の存在がその使用を躊躇させます。高血圧患者において尿酸低下療法が心血管イベントを抑制し、予後を改善するというエビデンスはありませんが、尿酸値が高い状態を見て見ぬふりをするのも抵抗があります。高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン(第3版)では、高血圧に合併した高尿酸血症の治療方針について「血清尿酸値が8.0mg/dL以上であれば、尿酸降下薬の使用を考慮する」と記載していますが、考慮して投薬するのか、見送るのかは主治医の判断に委ねられます。患者さんに「どうしましょうか」と問うと「先生はどう思いますか」と聞かれます。多くの場合、痛風発症予防はもとより腎機能低下抑制などを期待して治療を勧めることになりますが、多剤服用者では、服薬アドヒアランスの維持が前提となります。

高血圧患者を診療する医師にとって、血圧、血糖、脂質ほど明確な「悪人」ではなく、ちょっとやっかいな「ちょい悪おやじ」のような存在である尿酸との付き合いに、日々頭を悩ませています。

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