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痛風・尿酸ニュース

アロプリノールとフェブキソスタットと痛風

谷口 敦夫(公益財団法人結核予防会 複十字病院 膠原病リウマチ科)

2018年に発表されたCARES試験の結果は大変な驚きであった。これは、フェブキソスタット投与中の心血管疾患の発生をアロプリノールと比較する多施設二重盲検ランダム化試験である。心血管疾患の既往がある痛風約6200例を対象とし、観察期間は32か月であった。その結果、「心血管疾患による死亡」と「全ての原因による死亡」がフェブキソスタット投与群で有意に多かった。このため、米国ではアメリカ食品医薬品局(FDA)がフェブキソスタットについて、重篤な、あるいは生命にかかわるリスクがあるとして、いわゆる黒枠警告を発表した。最も著名な痛風研究者の一人であるChoi氏らはFDAの警告を補足する論文を発表し、尿酸降下薬の第一選択はアロプリノールであり300〜800mg/日まで投与可能であること、アロプリノールと尿酸排泄促進薬との併用も有効であることを記載した。フェブキソスタットを尿酸降下薬として第3選択に位置づけたとも解釈でき、CARES試験には問題点も多いが、それを認識したうえでの提言であった。CARES試験の問題点ついてはここでは触れないが、結果の解釈を困難にしていることは間違いなく、2020年に発表されたアメリカリウマチ学会の痛風のガイドラインでもこのことに触れている。このため、FDAの警告に反対する意見は当初からあった。このような中で、注目されていたのが欧州で行われていたFASTという研究であった。これは痛風患者を対象としたフェブキソスタットとアロプリノールの心血管イベントや死亡を比較する大規模なランダム化非盲検試験で、その結果がついに2020年11月にランセット誌に掲載された。対象は少なくとの1つの心血管疾患リスクを持つ痛風約6000名で、観察期間は約48か月であった。フェブキソスタット投与群はアロプリノール投与群と比べて、「心血管疾患の発生」や「心血管疾患による死亡」、「原因を問わない死亡」のリスクにおいて非劣性であった(実質上、両群での違いは無かった、と考えてよい)。これはCARES試験とは異なる結果であった。CARES 試験とFASTの手法は異なっている。対象症例では、心血管疾患の既往歴のある症例はFASTの方が少ない。FASTでは重症心血管疾患がある場合は対象から除外されている。重症心血管疾患を合併する痛風に対するフェブキソスタットの心血管疾患発生に対する影響の評価には不十分ととらえられる可能性がある。しかし、CARES試験ではアロプリノールとフェブキソスタットの投与が血清尿酸値の降下速度という観点からは明らかに不平等で結果に影響した可能性があるが、FASTではこれが回避されている。また、FASTの方がCARES試験よりもフォローの質が高い。したがって、CARES試験とFASTの対象患者における心血管疾患合併の程度に違いをもってCARES試験の結果を優先すべきことにはならない。FASTの結果が出たことで、前述のような規制の再考は考慮されるべきだろう。一方、新たな課題として、FASTでは内分泌疾患の発生や虚血をともなわない不整脈による入院がフェブキソスタット群で高く、新生物(良性、悪性含む)の発生はアロプリノール群で高かったことが示された。目が離せない状況は今後も続くと思われる。痛風は変化に富む疾患だと思う。

 

White WB, et al. N Engl J Med 2018;378:1200、Choi H, et al. Arthritis Rheumatol 2018;70:1702、FitzGerald JD, et al.  Arthritis Care Res (Hoboken) 2020;72:744、Mackenzie IS, et al. Lancet. 2020; 1745、Bardin T, et. FAST: Lancet 2020;396:1704

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