痛風・尿酸ニュース
痛風と心血管病の関係の進歩
久留 一郎(日本痛風・尿酸核酸学会副理事長/鳥取大学医学部ゲノム再生医療学講座再生医療学分野教授)
2020年も余すところ2か月弱と成りました。今年はコロナウィルス感染症のパンデミックのためにステイホームやリモートワークが推奨されています。そのために体重増加、飲酒量の増加や運動不足といったように生活習慣が乱れやすく、また患者さんの受診抑制も続いていることから、高尿酸血症・痛風患者さんの尿酸コントロールの悪化が懸念されます。2019年の国民生活基礎調査では我が国の痛風患者さんの数が125万人となり、2016年の時より15万人増加しました。高尿酸血症・痛風診療の重要性が年々増しています。
本年5月に米国リウマチ学会から痛風管理ガイドライン(ACR2020)が発刊されました。米国では痛風を発症していない無症候の高尿酸血症患者さんへの尿酸降下薬の使用は推奨されておらず、高尿酸血症に対しての尿酸降下薬の使用が保険で認められている我が国とは事情が大きく異なります。さらに、ACR2020では痛風を起こしている患者さんでさえも、初回の痛風発作であれば尿酸降下薬の使用を推奨していません。尿酸塩結晶が関節に沈着することで発症する痛風関節炎患者に対しても尿酸降下薬の使用を制限している米国の治療方針は医療経済的には利点があるのかもしれせんが、米国では痛風結節を有するような重症痛風が大変多く深刻な問題であることを考えると患者さんにとってデメリットが大きいのではと懸念します。
良くご存知のように我が国の高尿酸血症は血清尿酸値が7mg/dlを超える状態と定義しています。血清尿酸値が7mg/dlを超えますと尿酸塩結晶が出来て関節軟骨表面などに沈着します。この尿酸塩結晶が何かのはずみ(運動などの物理的な刺激や、尿酸降下薬を服用して尿酸値が急速に低下するなど)で剥がれると白血球やマクロファージなどの細胞がこの尿酸塩結晶を貪食し化学物質を分泌して、痛風関節炎が起こります。このように高尿酸血症は私たちの体内の尿酸塩結晶が出来る血清尿酸値です。さて、痛風関節炎の診断は関節に穿刺針を入れて関節液を採取し、関節液中に存在する尿酸塩結晶を証明することがゴールデンスタンダードです。しかし、関節穿刺は痛みを伴うので、患者さんにとって侵襲なしに関節内の尿酸塩結晶を証明でき、尿酸をコントロールすると尿酸塩結晶が消失する様子を観察する方法が進歩してきました。最近では関節超音波検査やDual energy CT(DECT)で患者さんに侵襲を与えることなく関節に沈着した尿酸塩結晶を見ることが出来るようになり汎用されています。病気の診断によく使われるCTスキャンが進歩したDual energy CT(DECT)というCTを用いると体内に存在する尿酸塩結晶を見る(可視化)ことが出来るようになりました。DECT とは,管電圧の異なる2種類のX線で患者さんのCTを撮影する技術です.現在のCTは,1つの管電圧(Single-energy CT:通常120kVp)で撮影を行いCT値の情報を得ていますが,CTの値に不正確さがあることが知られていました。DECTは,管電圧の異なる2種類のX線のデータを用いて、様々なエネルギーのX線画像を得ることができます。この方法の特徴は物質毎の情報を得ることが可能となる点です.このDECTを用いて関節に存在する尿酸塩結晶を可視化できるようになり、米国リウマチ学会の痛風分類基準(2015年)にもDECTによる尿酸塩結晶の診断の重要性が加わっています。さて、痛風患者さんの心臓や血管に尿酸塩結晶が沈着しているという病理学的な報告は以前からありましたが、2018年~2020年に掛けてDECTを用いて冠動脈や胸部・腹部大動脈に尿酸塩が沈着している様子を鮮明に映し出すことが可能となってきています。最近の報告では、DECTで発見された尿酸塩結晶の容積が心血管病と関連することも報告されました。痛風の治療は血清尿酸値を6mg/dl以下にコントロールすることが重要ですが、血清尿酸値を6mg/dl以下にすると確実に関節液の中の尿酸塩結晶が消失するとされています。そうであるならば、尿酸降下薬を服用して血清尿酸値を6mg/dl以下にするとDECTで見える心臓や血管に沈着した尿酸塩結晶が消失するかは興味深い所です。血清尿酸値の適切な管理が痛風のみならず心血管イベント抑制にも重要であることが証明される日も近いかもしれません。しかし勿論、血清尿酸値を上げない生活習慣が重要なことは言を待ちません。日本痛風・尿酸核酸学会のホームページにウィズコロナ・ポストコロナの時代において高尿酸血症・痛風患者さんの“ニューノーマル”として気を付けるべき生活習慣修正のポイントが示されていますので、是非訪問していただけると幸甚です。
HOME » 痛風と尿酸について知りたい方へ » 痛風・尿酸ニュース » 痛風と心血管病の関係の進歩