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痛風・尿酸ニュース

血清尿酸値が小腸上皮障害のマーカーでもあることがわかりました!

松尾 洋孝(防衛医科大学校 分子生体制御学講座 准教授)

「血清尿酸値が小腸上皮障害のマーカーである」ことが最近までの研究により明らかになりましたので、ご紹介します。まずは、その研究の背景から説明いたします。尿酸トランスポーターABCG2遺伝子の機能低下型変異が、腎臓だけでなく腸管における尿酸排泄機能の低下を引き起こし、痛風・高尿酸血症の原因となることを以前、市田先生、高田先生らと共同で報告しておりました(Ichida, Matsuo, Takada, et al. Nat Commun, 2012)。そこでは、高尿酸血症における新規の主要な発症メカニズムとして、主に腸管からの尿酸排泄が低下する「腎外排泄低下型」を報告しました。それまで、体外に排泄される尿酸は約3分の2が腎臓から、残り約3分の1が腸管から排泄されることが知られておりました。しかしながら、腸管に排泄された尿酸はすぐに腸内細菌で分解されることから、ヒトでの腸管排泄低下の証明が難しく、上記の論文のその解析の部分はAbcg2ノックアウトマウスを用いて侵襲的な解析を実施することにより、ようやく証明することができました。今回の研究では、ヒトの腸管からの生理学的な尿酸排泄機構をどうにかヒトにおいて証明することを目標にして、血液透析患者と急性腸炎の患者のそれぞれの血清尿酸値とABCG2機能を解析し比較する研究を実施しました。まず、血液透析患者106名と健常者106名のABCG2遺伝子を解析したところ、血液透析患者ではABCG2の機能低下に伴い血清尿酸値が有意に上昇しました(図)。血液透析患者ではほぼすべての尿酸が腸管から排泄されることから、ABCG2がヒト腸管における尿酸排泄を生理学的に担うことが初めて示唆されました。さらに、我々は腸管の炎症で小腸上皮障害が存在すると、ABCG2による腸管の尿酸排泄機能が低下し、高尿酸血症を引き起こすのではないかと考え、同じ論文の中で、急性腸炎患者67名の急性期・回復期の血清尿酸値とABCG2遺伝子を解析しました。その結果、我々の予測通り、脱水の影響を補正しても、急性期ではABCG2の機能低下により血清尿酸値が有意に上昇することを見出せました(図)。脱水についてはCDCの臨床分類を指標にして解析しましたが、BUN,ヘマトクリットなどの脱水の指標となりうる臨床データを用いて補正しても同様の結果が得られましたので、上記の所見に自信を持つことができました。従来、急性腸炎などの消化器疾患患者が高尿酸血症を呈するのは脱水のためと考えられてきましたが、本研究はABCG2の機能低下が血清尿酸値の著しい上昇の主要な原因であり、血清尿酸値が急性腸炎などの消化器疾患における小腸上皮障害のマーカーとして有用であることが示唆されました。

まとめますと、本研究により以下の4つのことを示すことができました。

(1) 腸管からの尿酸排泄がABCG2を介して生理学的に存在していることをヒトにおいてはじめて証明することができました。

(2)腸管の上皮細胞において、尿酸の吸収だけでなく排泄を担うトランスポーターがあることを改めて示すことができました。

(3)消化器疾患による小腸上皮障害があって高尿酸血症をきたす場合には、腎負荷型(従来の産生過剰型)の機序の存在も想定され、その場合は尿酸合成阻害薬の適応の可能性があることが予測されることが分かりました。

(4)小腸上皮障害のマーカーとして尿酸値が有用であること初めて示されました。

一般に、小腸障害は、カプセル内視鏡やバルーン内視鏡でのみ評価が可能ですが、経時的な評価に向かないことや、保険適応、費用、患者負担などの問題もあり、経時的に安価で非侵襲的な小腸障害のマーカーが以前より望まれていました。本研究により上記の4点が明らかとなり、血清尿酸値が、安価で侵襲も少なく、経時的にモニタリング可能なマーカーとして、これまでにない視点から、さらに臨床の場で活用されることが期待できます。
 そのため、本研究は尿酸の重要性を新たな視点から提唱するものであり、尿酸代謝や痛風・高尿酸血症の医療・予防の観点からも極めて重要な意義を有するものであると考えております。

また、このような研究を実施できたのは、信頼できる多くの学内外の先生方との共同研究を実施できたおかげであると痛感しています。この場を借りて深く御礼申し上げます。皆さまには、引き続きご指導ご鞭撻のほどよろしくお願い申し上げます。

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図.ヒト小腸による尿酸排泄の生理学的モデルと病態生理学的モデルの提唱
ヒトの腸管からの生理学的な尿酸排泄を初めて証明し(腎不全症例の解析により解明)、また、急性腸炎による尿酸上昇の病態生理学的メカニズムを小腸上皮障害に伴う尿酸排泄不全であることを世界に先駆けて報告しました。
(Matsuo, et al. Sci Rep, 2016)

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