痛風・尿酸ニュース

飲酒と尿酸

山本 徹也(大阪暁明館病院 検診センター長)

酒の醸造は5000~6000千年前中国で始まったとされており、歴史書「史記」では夏の初代国王禹(う)の頃、儀狄(ぎてき)が酒の醸造を発明したと記載されています。また古代ギリシャでは2800年頃前頃、ワインの製造がおこなわれ、古代ギリシャのシンポジウム(酒宴/饗宴)や、 テ ルモポリウム(現代のレストラン/パブ)ではワインがふるまわれたと言われています。お酒は理性をつかさどる大脳皮質の活動を低下させ、抑制されていた大脳辺縁系(本能や感情をつかさどる部位)を活発にさせます。その結果、飲酒者に爽快な気分を与えるため、お酒は古代より好んで飲まれてきました。しかし過剰の飲酒は肝臓の障害(脂肪肝、肝炎、肝硬変)、脳の障害(精神障害、認知症、ウエルニッケ脳症など)、膵臓障害(急性膵炎、慢性膵炎)、癌の発症(咽頭癌。喉頭癌、食道癌など)、痛風、その他(循環器疾患、糖尿病など)の多くの病気を発症させるため、飲酒量を制限することが必要とされています。国が推進する「健康日本21」では、節度ある飲酒量: 1日2ドリンク以内(エタノール20g以内)、生活習慣病のリスクを高める飲酒量:男性 1日4ドリンク以上(エタノール40g以上)、女性2ドリンク以上(エタノール20g以上)と記載されています。女性がなぜドリンク数が少ないかというとアルコール(エタノール)の代謝速度が女性は遅いためと言われています。

今では常識となっている酒に起因する痛風の発症を最初に発表したのはイギリスの内科医Sir Alfred Baring Garrod (1819-1907)で、彼はアルコール飲料が痛風の原因の最たるものだと定義しています。実際アルコール飲料を摂ると血清尿酸値が増加しますが、節度ある飲酒では尿酸値は変化しません。しかし生活習慣病のリスクを高める飲酒量ではアルコール飲料の種類にかかわらず血清尿酸値は増加します。飲酒による血清尿酸値の増加は現在のところ2つの機構によっていると考えられています。一つはアルコールの代謝に伴ってヌクレオチドのATPが分解し、その最終代謝産物である尿酸が肝臓で産生され、血清尿酸値が増加すると言われています。もう一つは大量飲酒の時認められる現象です。アルコールの代謝に伴って乳酸が血中に増加し、この乳酸が腎での尿酸の排泄を抑制するため、血清尿酸値が増加すると言われています。いずれにしろ飲酒は血清尿酸値を増加させるので、尿酸の増加(高尿酸血症)による尿酸塩結晶の沈着が関節内、腎臓や皮下に生じ、それぞれ痛風発作(痛風関節炎)、痛風腎、痛風結節の原因になります。特に痛風に罹患している患者さんは節度ある飲酒が求められますが、いろいろ事情があって、なかなか実行できないケースが多いようです。うまくアルコール飲料の摂取を減らせた患者さんでは血清尿酸値は正常化し、発作も消失しておりアルコール飲料が痛風に深くかかわっているケースがあることを実感しているこの頃です。

 

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