痛風・尿酸ニュース
日本発の尿酸降下薬が続々
細谷 龍男(東京慈恵会医科大学 名誉教授)
もう40年以上前のことで恐縮ですが、私が医師になった頃は痛風や高尿酸血症に対して使用できる薬は限られていました。尿酸生成抑制薬(キサンチオキダーXOR阻害薬)ではアロプリノール一剤のみであり、尿酸排泄促進薬とではプロベネシドとベンズブロマロン位なものでした。プロベネシドは尿酸排泄促進薬とはいえ、他のいろいろな物質の排泄に影響を及ぼすことが知られており、例えば抗生物質のペニシリンの腎からの排泄を抑制することが知られていました。このためまだ戦後間もない頃にペニシリンの十分な供給がない時代にペニシリンとプロベネシドを併用すると、ペニシリンの有効血中濃度が維持され、ペニシリンの使用量の節約になるとして、プロぺネシドが使われたほどで、現在でも添付文書にこのペニシリンの血中濃度の維持が効能効果として書かれています。要するにプロベネシドは偶然に尿酸低下作用があることが判明したため使用されていたので、純粋な尿酸排泄促進薬とはいえず、また尿酸低下作用も十分ではなく、だんだん使われなくなりました。それにかわって尿酸排泄促進薬とし、使用頻度が上がった薬がベンズブロマロンでした。ベンズブロマロンは尿酸低下作用も強く、プロベネシドにとってかわる薬剤として期待されました。しかしベンズブロマロンにもいくつかの薬剤の排泄に影響することが判明しており、とくに心筋梗塞や脳梗塞、心房細動などによく使用されるワーファリンとの併用が難しいため、必ずしも使用しやすい薬剤とは言えませんでした。しかもベンズブロマロンの発売後、かなりの年月を経てから重篤な肝障害が副作用として散見されるようになり益々使いにくい薬となってしまいました。
一方の尿酸生成抑制薬のアロプリノールは、まれではありますが、スティーブンジョンソン症候群や骨髄抑制などの致死的な副作用が知られていました。またアロプリノールやその活性代謝産物であるオキシプリノールのどちらも腎臓から尿中に排泄されるため、腎機能低下例では使用量を減らさなくてはいけないという欠点もありました。
このような状況であったので私が講演なので話してきたことは、「このような患者にこの薬を使ってはならない」「この薬の使用しているときにはこのような薬を併用してはいけない」などと「べからず調」の講演で、後向きのさぞおもしろくないものであったのではないかと反省しています。ところが前回の山中先生の第一報にもあったように、最近日本から尿酸生成阻害薬として2011年にフェブキソスタットが2013年にトピロキソスタットがアロプリノール以来40年振りに開発されました。どちらの薬剤もXORに対して特異性が高く、また腎臓以外にも消化管への排泄経路もあわせもち腎機能低下例にも使用し易くなっています。そしてさらに尿酸に対してかなり特異的に排泄促進効果が認められるトチヌラドという尿酸排泄促進薬が開発され、2020年に承認され発売される予定です。
なぜ世界中で尿酸降下薬の開発を競いあっていたなかで、我国から3つもの新薬が開発できたのでしょうか。私はそれは痛風・尿酸核酸代謝の基礎的な研究が世界のトップレベルにあったためと考えてます。その中でもとりわけ西野武士先生等のXORの詳細な反応機序、立体構造の解明、さらには遠藤仁先生等の尿酸輸送のみならず多くのトランスポーターの発見やその体系化がこれらの新薬の開発に多大な貢献したのではないかと考えてます。それに加え、日本痛風・尿酸核酸学会や痛風・尿酸財団で基礎研究者、臨床研究者がいつも同席して議論を重ね、また研究支援を行ってきたことが功を奏したのではないかと思っています。これで私も消極的でない前向きの講演をできるのではないかと安堵しています。
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