HOME »  2022年度研究助成成果

研究成果

2022年度研究助成成果

当財団が2022年度に行った研究助成の成果である論文リスト・概要報告を掲載します。

【痛風財団研究助成】

西澤 均
大阪大学大学院医学系研究科 内分泌・代謝内科学 講師
【研究テーマ】
肝由来XORの動脈硬化進展メカニズムの解明とその臨床応用
~NAFLD/NASHと動脈硬化症の連関~

【共同研究者】下村 伊一郎、前田 法一、藤島 裕也、喜多 俊文、川知 祐介

【研究成果】
【背景】
高尿酸血症について内臓脂肪蓄積の病態から解析を進め(Intern Med 2008)、肥満脂肪組織でヒポキサンチンの分泌が亢進すること(Obesity 2018)、血中XOR活性がNAFLD/NASH病態で上昇し、XOR阻害剤がNASHマウスの新生内膜増殖を抑制することを示し(JDI 2021, JCI insight 2021)、非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)病態において、XORが肝由来の液性因子として動脈硬化症の進展に関与している可能性があると考えた。
【目的】
① 臨床研究において、高尿酸血症のうちNAFLD併存集団を対象としたXOR阻害剤の動脈硬化に対する効果を検証した。
② 基礎研究にて、肝由来XORが直接動脈硬化に関わる機序について、遺伝子改変技術を用い検討した。
(略)
学会発表
【第43回日本肥満学会・第40回日本肥満症治療学会学術集会、2022年12月2日~3日、那覇・ハイブリッド開催】
西澤均:教育講演8「高尿酸血症と肥満症」:Webオンデマンド
西澤均:JASSO産業医研修会「職域におけるメタボリックシンドローム予防対策~高尿酸血症とNAFLD/NASH~」:12月3日
【第56回日本痛風・尿酸核酸学会総会、2023年2月23日~24日、東京都新宿区】
西澤均、川知祐介、赤利精悟、中村敬志:肝酵素上昇患者の血管進展性指標に対するXOR阻害薬(トピロキソスタット)の影響 ~BEYOND-UA study サブ解析~:2月24日
【第66回日本糖尿病学会年次学術集会、2023年5月11日~13日、鹿児島・ハイブリッド開催】
藤島裕也、喜多俊文、西澤均、前田法一、下村伊一郎:尿酸代謝と動脈硬化症:5月11日
【第96回日本内分泌学会学術総会、2023年6月1日~3日、名古屋・ハイブリッド開催】
川知祐介、藤島裕也、赤利精悟、中村敬志、西澤均、前田法一、星出聡、苅尾七臣、下村伊一郎:肝機能異常合併高尿酸血症患者の動脈硬化指標に対するXOR阻害薬の影響:6月3日

永森 收志
東京慈恵会医科大学准教授
【研究テーマ】
尿酸輸送超複合体の一細胞レベルでの機能・構造解析

【共同研究者】宮坂 政紀、WIRIYASERMKUL Pattama

【研究成果】
ヒト血中尿酸値の維持には、腎近位尿細管における尿酸輸送が大きく寄与し、URAT1、GLUT9、NPT1など少なくとも8種類以上の輸送体が関わることが示されている。代表者らは、Gene Expression Omnibus (https://www.ncbi.nlm.nih.gov/geo/) において公開されているsnRNA-seq (single nucleus RNA sequencing) データ (GSE118184、GSE131882) からヒト成人男性3人のデータを取得し、R及びPythonを用いてクラスター解析等を実施することで、これらの輸送体が必ずしも同一細胞に発現していないことを見いだし、論文として報告した (研究成果 論文1.Sakaguchi et al J Physiological Sci2024, 2023年11月26日受理)。解析に用いたコードについては、GitHubで公開した (https://github.com/yoshi- sci/urate-transporter-analysis)。
(略)
研究の成果である論文、学会発表
論文
1. Sakaguchi YM, Wiriyasermkul P, Matsubayashi M, Sakaguchi N, Sahara Y, Takasato M, Kinugawa K, Sugie K, Eriguchi M, Tsuruya K, Kuniyasu H, Nagamori S*, Mori E*. Equal contribution. Identification of three distinct cell populations for urate excretion in human kidneys. J Physiol Sci. 2024 Jan 2;74:1
*Corresponding author
学会発表
1.〇坂口 義彦, WIRIYASERMKUL Pattama, 永森 收志、一細胞解像度での腎尿酸輸送モデルの構築, 生理研研究会「上皮膜輸送と細胞極性形成機構の統合的理解を目指して」 2023年7月14日、東岡崎
2.WIRIYASERMKUL Pattama, 永森 收志、多階層的アプローチでトランスポーターの隠れた生理基質を明らかにする、生理研研究会 「細胞環境のシグナリングと計測」 2023年12月18日、東岡崎_

山本 伸也
京都大学医学部附属病院腎臓内科学助教
【研究テーマ】
エネルギー代謝からせまる人工冬眠における腎保護メカニズムの解明

【共同研究者】大久保 明紘、高橋 昌宏、山本 恵則、柳田 素子

【研究成果】
申請者は、先行研究でATP可視化マウスと二光子顕微鏡を用いて、生体腎で急性腎障害における1細胞レベルのATP動態の可視化に成功した (Shinya Yamamoto. J Am Soc Nephrol 2020)。さらに研究をすすめ、(1)生体ATP可視化技術を用いて、急性腎障害モデルである虚血再灌流時の糸球体のATP動態を検証した。次に、(2)ATP可視化マウスの腎臓のスライス培養系を立ち上げ、虚血性急性腎障害モデルを模倣する「低酸素培養」を確立し全領域でATP可視化に取り組んだ。さらに、(3)低体温療法下ではATP消費速度が低下し、尿細管細胞内のATPが保持され、急性腎障害の予後が著明に改善するという知見から着想し(Shinya Yamamoto. J Am Soc Nephrol 2020)、人工冬眠誘導マウスとATP可視化マウスを交配させ、冬眠による腎保護効果について生体ATPイメージングを用いて解析した。上記3テーマについて、助成金を使用させていただいたため、各テーマについて得られた知見と成果を報告する。
(以下略)
【学会報告】
発表1
学会等名:日本生理学会第100回記念大会 シンポジウム
発表日:2023年3月
発表者名:Yamamoto Shinya, Yamamoto Masamichi, Yamamoto Shigenori, Takahashi Masahiro, Okubo Akihiro, Yanagita Motoko
発表表題:ATPイメージングからせまる腎病態の解明
発表2
学会等名:第66回 日本腎臓学会総会 シンポジウム
発表日 :2023年6月
発表者名:山本伸也、高橋昌宏、山本恵則、大久保明紘、三井亜希子、柳田素子
発表表題:腎全領域のATPライブイメージングからせまる腎疾患病態の解明
発表3
学会等名:第53回日本腎臓学会西部腎臓学会 シンポジウム
発表日 :2023年11月
発表者名:山本伸也、高橋昌宏、山本恵則、大久保明紘、三井亜希子、山本正道、柳田素子
発表表題:ATP可視化による腎臓病の病態解明
発表4
学会等名:第65回日本腎臓学会学術総会 ンンポジウム
発表日:2023年6月
発表者名:山本伸也、高橋昌宏、山本恵則、大久保明紘、三井亜希子、柳田素子
発表表題:腎全領域のATPイメージングからせまる腎病態
【論文】
# l ATP dynamics as a predictor of future podocyte structure and function after acute ischemic kidney injury
現在Nature Communicationsにrevise投稿中
# 2 Visualization of intracellular ATP dynamics in different nephron segments under pathophysiological conditions using the kidney slice culture system
2024年5月にKidney International雑誌にacceptされております

山下 浩平
京都大学大学院医学研究科血液・腫瘍内科学 准教授
【研究テーマ】
炎症性疾患に対する新規治療法の探索-好中球細胞外トラップ制御からのアプローチ-

【研究成果】
① 研究の背景・目的
尿酸結晶刺激による関節内マクロファージのNLRP3インフラマソーム活性化、それに続くIL-1の産生により痛風関節炎が起こることが明らかとなり、この機序を抑制するコルヒチンやIL-1抗体薬が治療薬として使用されている。関節炎の消退については、炎症の発現に寄与した好中球細胞外トラップ(NETs)が炎症部位で凝集して、炎症性サイトカインなどを分解することにより炎症収束に作用することが報告された。この炎症におけるNETsの二面性は非常に興味深い現象であるが、他の炎症病態におけるNETsの意義やNETsが炎症制御の標的となり得るか否かは明らかでない。我々の研究で、川崎病血管炎でもNETsが炎症の発現と収束の両方に関わる所見が得られつつあり、現在NETsを標的とした治療の可能性を検討している。今回は川崎病モデルマウスを用いてNETs阻害剤投与実験を行い、NETsの病態形成における意義とNETsを標的とした炎症制御の可能性について検討を行った。
(略)
② 研究結果と進捗状況
 現在、この好中球のsubpopulationが炎症の発現にどのように関わっているのかという問いに対して、NETs形成におけるmolecule Xの役割の解明を進めている。また、組織におけるmolecule Xの発現が血管炎の重症度と相関するか否か、さらに、血液中のmolecule Xの発現動態を解析することにより、心臓血管病変の発症の有無や重症度予測が可能かどうかについても検討を進めている。

渡辺 彰吾
岡山大学大学院保健学研究科准教授
【研究テーマ】
キサンチン酸化還元酵素阻害薬による痩せ型NASH および動脈硬化への治療効果

【共同研究者】山元 修成、佐藤 生弥

【研究成果】
【緒言】現在,フルクトースが肝臓への脂質沈着を促進し,非アルコール性脂肪肝炎(NASH) のリスクを高めることが報告されており,その原因として尿酸が関与することが示唆されている。また,血管系においても,尿酸値と心血管疾患の罹患率の疫学調査が数多く行われており,それらには正の相関関係が認められる。しかし,尿酸値は肥満,高血圧,糖尿病などの動脈硬化の進展と関係する種々の因子によって影響を受けるため,尿酸上昇が動脈硬化発症の直接的な危険因子であり,介入すべきターゲットであるか否かは未だに意見が分かれている。そのような背景の中,尿酸上昇がNASH や動脈硬化の病因となりうる根拠として,キサンチン酸化酵素 (XO) が注目されている。XO は,肝臓,腎臓,血管内皮などの様々な臓器で働き,尿酸が産生される過程で酸化ストレス源である活性酸素種を発生させることが明らかとなっている。したがって,それらを阻害するXO 阻害薬は,尿酸や酸化ストレスの減少を介して,NASH や動脈硬化にも奏功する可能性がある。
本研究では,高フルクトースを負荷することで尿酸や酸化ストレスを上昇させた,ヒトのNASH と類似した病態を示す脳卒中易発性自然発症高血圧モデルラット (SHRSP5/Dmcr)を用いて,XO 阻害薬フェブキソスタットのNASH および動脈硬化に対する抗酸化作用を検討した。
(略)
【結論】XO 阻害薬フェブキソスタットは,尿酸や酸化ストレスの抑制により,SHRSP5/Dmcr ラットにおける肝臓・血管系に対して保護効果を示した。

山田 晴也
早稲田大学 人間科学学術院助教
【研究テーマ】
神経発生過程におけるプリン新生・再利用経路の機能解析

【共同研究者】榊原 伸一

【研究成果】
哺乳類、とりわけヒトは進化と共に大脳皮質の容積の割合を飛躍的に拡大させ、思考、言語、記憶などの高次脳機能を獲得してきた。哺乳類の大脳皮質の形成には、時空間的に制御された神経幹細胞の増殖と、その後のニューロン産生が重要である。全ての真核細胞のホメオスタシス維持に必須な分子であるプリンはDNAやRNA、ATP/GTP の原料である。プリンは脳の正常な発達に必須であり、その代謝異常は先天性てんかんや精神遅滞、レッシュナイハン症候群などの重篤な疾患を引き起こす。哺乳類は新生(de novo)経路と再利用(salvage)経路の2 種類のプリン産生経路を持ち、通常時はエネルギーコストの低いsalvage経路が使用されるが、細胞分裂など多量に核酸を必要とする際は、de novo 経路が駆動することが分かっている(図1)。しかし、脳の発達におけるプリン合成経路の時空間的な使い分けについては未だ不明であった。
本研究ではまず、「マウス脳において発生段階によって駆動するプリン合成経路が異なる」という仮説を検証した。発生の各段階(胎生13日目〜生後12日目)のマウス大脳皮質に含まれるPAICS(de novo酵素)とHGPRT (salvage酵素)タンパク質の発現量を比較したところ、胎生期にはde novo経路が優位に駆動し、生後付近でsalvage経路に切り替わることが明らかになった(図2)。
(以下略)

[学術論文]
・山田晴也, 佐藤彩佳, 榊原伸一, Nwd1によるプリノソーム形成を介した大脳皮質発生機構. Medical Science Digest. 49(3) 32-33 2023年3月
・Seiya Yamada* (Co-Correspondence), Kazuhiko Nakadate, Tomoya Mizukoshi, Ryosuke Kobayashi, Takuro Horii, Izuho Hatada, and Shin-ichi Sakakibara*. 2024. Induction of NASH in the Nwd1−/− mouse liver via SERCA2-dependent endoplasmic reticulum stress. bioRxiv. 2024-01.
(Communications Biologyに論文投稿中)
・Tomoya Mizukoshi; Seiya Yamada* (Co-Correspondence); Shin-ichi Sakakibara. 2023.
Spatiotemporal Regulation of De Novo and Salvage Purine Synthesis during Brain Development. eNeuro.
10, ENEURO.0159-23.2023. プレスリリース発表.

[学会発表]
・Tomoya Mizukoshi, Seiya Yamada, Shin-ichi Sakakibara. Brain development is regulated by the cooperation of two purine synthetic pathways. 第46回日本神経科学大会, 2023年8月. 仙台
・水越 智也, 山田 晴也, 榊原 伸一. 二つのプリン合成経路の協調は時空間的に脳発生を制御する. 第46回日本分子生物学会年会, 2023年12月. 神戸
・山田晴也, 中舘和彦, 堀居拓郎, 小林良祐, 畑田出穂, 水越智也, 榊原伸一. Nwd1遺伝子欠失はSERCA2依存性の小胞体ストレス亢進と肝臓のNASH様病態変化を誘導する. 第46回日本分子生物学会年会, 2023年12月. 神戸

山内 高弘
国立大学法人 福井大学医学部病態制御医学講座内科学(1) 血液・腫瘍内科教授
【研究テーマ】
新規バイオマーカーを用いたがん患者高尿酸血症新リスク分類の確立

【共同研究者】上田 孝典、森田 美穂子

【研究成果】
1、背景
がん化学療法開始直後にはいわゆる腫瘍崩壊症候群(Tumor lysis syndrome, TLS)が生じる。がん細胞の急速な崩壊により細胞から核酸が血中へ高負荷される。その結果生じる激烈な急性高尿酸血症は急性腎障害から致死的となるため即座の治療を要する。ガイドラインでは疾患毎のリスク分類と、リスク別治療方針が示される。低リスクでは補液を行い、中リスクではフェブキソスタットを使用し、高リスクではラスブリガーゼを使用する。しかし、治療介入の要となるリスク分類は疾患の性質、腫瘍量、抗がん薬の種類等の臨床所見に依存し、個々の患者さんにとっては必ずしも適切ではない。がん患者での急性高尿酸血症の至適マネジメントのためには、より正確に発症リスクを予測しうるバイオマーカーの同定が必須である。
(略)
5、結論
腫瘍崩壊症候群前後ではがん細胞核DNA内に含まれるプリン体の代謝過程にあるキサンチンとヒポキサンチンが治療開始翌日に増加していた。抗がん剤によりがん細胞が崩壊し逸脱したプリン体が代謝された結果と考えられた。本研究の更なる進展により、腫瘍崩壊症候群の正確なリスク評価と適時的な治療介入による急性高尿酸血症の至適マネジメントの確立により最適ながん治療を行うことができるであろう。

関根 舞
東京薬科大学助教
【研究テーマ】
Lesch-Nyhan症候群患者由来iPS細胞を用いた病態解析

【研究成果】
【方法】健常者(201B8)及びLND(B162)由来のiPS細胞を未分化維持培養した。iPS細胞から神経幹細胞及び神経細胞分化誘導を試みた。得られた細胞を各種抗体で免疫染色し、形態を比較した。また、培養培地成分を採取し、代謝物の変化を調べた。牛乳から精製したキサンチン酸化還元酵素(XOR)を培地に添加し、ヒポキサンチンを尿酸に変換させ、尿酸蓄積量を比較した。さらに、ヒポキサンチンから尿酸までの二段階反応に対するXOR阻害薬の阻害効果を調べた。

【成果】
B162の未分化状態においてHPRTの発現及び活性がないことを確認した。培養培地中の代謝物の解析よりLNSの代謝的特徴を有していることを確認した。しかし両細胞ともにXORの発現及び活性が認められず、プリン代謝における最終産物はヒポキサンチンであった。そこで牛乳から精製したXORを培地中に添加したところ、B162では顕著な尿酸蓄積が認められ、de no経路が亢進していることが示唆された。XORを添加することでより病態に近づけることができ、疾患モデルとしての有用性が示唆された。
LNSの高尿酸血症の治療としてアロプリノールが用いられているが、キサンチン結石が確認されている。キサンチン結石形成はキサンチン尿症でもみられ、これはグアニンがグアニンデアミナーゼによって生じたキサンチン由来とされている。しかしLNSにおいては詳細は不明である。XOR阻害薬の阻害解析はキサンチンから尿酸への1段階に対してのみ行われてきたことから、ヒポキサンチンからキサンチンヘの段階に対するXOR阻害解析を行なった。その結果、アロプリノールの主代謝物であるオキシプリノールは阻害効果が弱く、キサンチンが蓄積しやすいと考えられた。この成果は論文としてJBCに投稿し受理された。
(以下略)

古橋 眞人
札幌医科大学循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座教授
【研究テーマ】
COVID-19の重症化リスクと関連する尿酸とACE2についての検討

【研究成果】
COVID-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の宿主側受容体であるangiotensin-converting enzyme 2 (ACE2) はangiotensin Ⅱを分解してangiotensin-(1-7)を生成し、Mas受容体を介して古典的レニン・アンギオテンシン系に拮抗し、臓器保護的に働く。
SARS-CoV-2の感染により、ウイルスはACE2とともに細胞内取り込まれることによってACE2-Mas受容体を介した臓器保護が低下することが肺炎増悪の一要因と考えられている(Furuhashi M, et al. Hypertens Res 2020)。これまで主に齧歯類での検討からACE阻害薬やアンギオテンシン受容体拮抗薬(ARB)がACE2を増加させ、臓器保護の一因を担っていると報告されてきた。我々は以前、ヒトにおいてARBであるオルメサルタンが尿中ACE2(U-ACE2)を有意に上昇させる可能性を初めて報告した(Furuhashi M, et al. Am J Hypertens 2015)。一方、血漿ACE2濃度(P-ACE2)に関しては、性別、人種、肥満度、心血管疾患との関連が最近報告された。我々は最近、端野・壮瞥町研究のサンプル(n=605)を用いて、P-ACE2とU-ACE2を同時に測定したところ、両者に相関関係は認められず、興味深いことにP-ACE2は尿酸高値と、U-ACE2は尿酸低値と独立して関連することを見出した(Furuhashi M, et al. Hypertension 2022)。
(以下略)

学会発表
1.尿酸とCOⅥD-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の宿主側受容体ACE2との関連についての検討
古橋眞人、酒井晶子、日中希尚、東浦幸村、森和真、小山雅之、大西浩文、斎藤重幸、島本和明
第55回日本痛風・尿酸核酸学会(2022.2.17-18)
2.血清尿酸値は女性において収縮期血圧の経時的な上昇と関連する:線形混合効果モデルでの解析
森和真、田中希尚、東浦幸村、小山雅之、塙なぎさ、大西浩文、古橋眞人
第55回日本痛風・尿酸核酸学会(2022.2.17-18)

論文リスト
1.Furuhashi M, Sakai A, Tanaka M, Higashiura Y, Mori K, Koyama M, Ohnishi H, Saitoh S, Shimamoto K. Distinct Regulation of U-ACE2 and P-ACE2 (Urinary and Plasma Angiotensin-Converting Enzyme 2) in a Japanese General Population. Hypertension 78:1138-1149, 2022
2.Mori K, Furuhashi M, Tanaka M, Higashiura Y, Koyama M, Hanawa N, Ohnishi H. Serum uric acid level is associated with an increase in systolic blood pressure over time during a 10- year period in female subjects: Linear mixed-effects model analyses. Hypertens Res 45: 344-353, 2022

玉井 郁巳
金沢大学医薬保健研究域薬学系教授
【研究テーマ】
尿酸結合タンパク質CD38を介した尿酸の生理・病理作用に関する研究

【共同研究者】荒川 大

【研究成果】
研究の概要と進捗
血中の尿酸濃度(血清尿酸値SUA)は、腎臓、肝臓、消化管など複数の組織において多様な輸送体や酵素を介して維持されており、SUAを一定値に維持する生理的必要性が推定される。一方、SUAの変動は、痛風、腎・循環器・神経系疾患発症や薬物作用変動と関連するという報告が多くある。疾患発症メカニズムとして、高濃度では結晶化した尿酸がNLRP3インフラマソームを介して炎症作用を引き起こして痛風発作に至ることが知られている。また、高濃度に維持される生理的役割としては抗酸化作用が知られているが、臨床研究報告にあるような多くの尿酸の生理機能や病態との関連は必ずしも明確とは言えない。そこで本研究では、尿酸の生理・病理作用を司る尿酸結合タンパク質が生体には存在し、それが尿酸濃度を感知して生体作用を制御するという仮説を立てた。そこで、尿酸結合タンパク質の探索、対象タンパク質の機能等の調査、さらに血清尿酸値変動に伴う生理・病態の変動との対応性等の検討を行った。
(以下略)
論文発表
1) Wen S, Arakawa H, Yokoyama S, Shirasaka Y, Higashida H, Tamai I. Functional identification of soluble uric acid as an endogenous inhibitor of CD38. eLife, accepted. 2024. https://doi.org/10.7554/eLife.96962.1
2) Wen S, Arakawa H, Tamai I. Uric acid in health and disease: From physiological functions to pathogenic mechanisms. Pharmacology & Therapeutics. 256:108615, 2024. doi: 10.1016/j.pharmthera.2024.108615.
3) Fujita K, Isozumi N, Zhu Q, Matsubayashi M, Taniguchi T, Arakawa H, Shirasaka Y, Mori E, Tamai I. Unique binding sites of uricosuric agent dotinurad for selective inhibition of renal uric acid reabsorptive transporter URAT1. Journal of Pharmacology and Experimental Therapeutics. In press, 2024. doi: 10.1124/jpet.124.002096.

中西 弘毅
東京大学循環器内科 助教
【研究テーマ】
尿酸が左房の構造的・電気的リモデリングに与える影響の解明

【共同研究者】吉田 由理子、廣瀬 和俊、向井 康浩

【研究成果】

【背景】
心房細動は日常臨床において最も頻度の高い持続性不整脈であり、加齢とともに増加し、世界では3500万人、本邦においても約100万人が罹患している(1,2)。心房細動は、脳梗塞だけでなく心不全リスクを大きく上昇させることから、この発症・再発予防とハイリスク群への治療介入が極めて重要である(3)。心房細動に対するカテーテル治療は確立されつつあるが、依然として術後の再発が問題である(4)。一方、近年の研究で尿酸値の上昇が心房細動の新規発症や再発と関連する可能性が報告されているが(5,6)、その機序は明らかではない。これまで我々は、最新のスペックルトラッキング法を用いて心臓の早期リモデリング評価の重要性を示してきた。
(略)
【考察】
今回の検討では、血中尿酸濃度は、左房機能と比較して、左室機能の低下と強く関連していることが分かった。左室長軸方向の収縮は、左房下部の伸展に重要な役割を果たしており、今回の結果は尿酸値が左室機能障害を介して心房細動の病態に影響を及ぼしている可能性を示唆するものと考えられた。さらに、尿酸値が心不全発症のサロゲートマーカーとなることが近年明らかになってきており、今回の結果は心房細動患者における心不全発症の病態にも重要な情報を提供すると考えられる。現在、電気的リモデリングを反映する左房マッピングデータ解析を進めている。今後、尿酸高値への介入が潜在的な心機能障害の改善につながるか否かの検討が期待される。

藏城 雅文
大阪公立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学 講師
【研究テーマ】
キサンチン酸化還元酵素抑制の血糖コントロールにおける意義の解明

【研究成果】
背景
我々は、血漿中のキサンチン酸化還元酵素(XOR)活性が血糖コントロール状況と関連することを報告した(Sci Rep,2017)(Int J Endocrinol,2019) (Kidney Blood Press Res,2021)。さらに、XOR抑制薬の投与は血糖コントロールを改善させることがメタ解析で示されている(Front Endocrinol,2020)。しかしながら、XOR抑制が血糖コントロールに重要な役割を果たすインスリン分泌能および/またはインスリン抵抗性に影響を与えるのかは明らかとなっていない。
(略)
XOR阻害薬の使用とインスリン分泌能の亢進との関連は、血清尿酸値が低い患者では有意であったが、高い患者では有意ではなかつたことは興味深い。われわれの以前の研究で、形質XOR活性は血糖ヨントロール不良と関連することが示された。また、血清XOR活性は2型糖尿病発症リスクの上昇を予測するために使用できることが示された。さらに、メタアナリシスの結果、アロプリノールは低用量よりも高用量の方が血糖値を下げる効果が高いことが示され、血糖ヨントロールにXOR活性が関与していることが示された。一方、血清尿酸は血漿中XOR活性と正の相関があることが判明しており、これは尿酸値が血中XOR活性を反映していることを示唆している。今回の被験者では血中XOR活性は測定されなかったが、血清尿酸値の十分な低下によって反映されるXOR抑制は、2型糖尿病患者におけるインスリン分泌能の維持に重要であると考えられる。
結語
2型糖尿病患者において、XOR阻害薬服用はインスリン分泌の保持に寄与し、血清尿酸値のコントロール良好(6.0 mg/dL以下)状況下で強く発揮される可能性がある。

Association of xanthine oxidoreductase inhibitor use with insulin secretory capacity in patients with type 2 diabetes
Atsushi Kitamura, Masafumi Kurajoh, Yuya Miki, Yoshinori Kakutani, Yuko Yamazaki, Akinobu Ochi, Tomoaki Morioka, Katsuhito Mori, Tetsuo Shoji, Masanori Emoto
J of Diabetes Invest – 2024 -

經遠 智一
鳥取大学医学部再生医療学分野助教
【研究テーマ】
尿酸塩結晶の血管内皮細胞に及ぼす影響に関する網羅的研究

【共同研究者】久留 一郎

【研究成果】
はじめに
高尿酸血症による病態の原因物質の一つに、尿酸塩結晶がある。尿酸塩結晶の生成は関節部に限られ、そこに存在するマクロファージ等の貪食細胞が貪食することによって炎症反応が引き起こされるが、関節に限局されると考えられていた。しかし近年、尿酸塩結晶は大動脈等、関節以外にも見られることが確認された。
そこで、本研究では、高尿酸血症によって生じる尿酸塩結晶の関節以外の部位での影響について、特にヒト血管内皮細胞を用いて検討した。
以下略
学会報告
1. 2024年2月、第57回日本痛風・核酸尿酸代謝学会総会
經遠 智一, 勝倉 由夏, 久留 一郎
尿酸塩結晶がヒト血管内皮細胞へ及ぼす直接的影響の詳細な解析
2. 2024年1月、第52回日本免疫学会総会
Motokazu Tsuneto, Yuka Katsukura, Naruomi Yamada, Akika Fukawa, Ichiro Hisatome
Monosodium urate crystals directly induce the inflammatory activation of human endothelial cells in hyperuricemia
3. 2023年2月、第56回日本痛風・核酸尿酸代謝学会総会
經遠 智一, 勝倉 由夏, 久留 一郎
尿酸塩結晶がヒト血管内皮細胞へ与える影響の解析
4. 2022年12月、第51回日本免疫学会総会
Motokazu Tsuneto, Yuka Katsukura, Naruomi Yamada, Akika Fukawa, Ichiro Hisatome
Direct effects of monosodium urate crystal on human endothelial cells in hyperuricemia
論文
 T Notsu, Y Kurata, H Ninomiya, F Taufiq, K Komatsu, J Miake, T Sawano, M Tsuneto, Y Shirayoshi, I Hisatome: Inhibition of the uric acid efflux transporter ABCG2 enhances stimulating effect of soluble uric acid on IL-1β production in murine macrophage-like J774.1 cells. Hypertens Res. 2023;46:2368-2377

後藤 信一
東海大学医学部 総合内科専任講師
【研究テーマ】
高尿酸血症により心不全を呈する症例の検出および関連遺伝子の同定

【研究成果】
1. 研究概要
背景:高尿酸血症の患者は、心不全等の心血管疾患のリスクが上昇する。しかし、患者全例に対して尿酸降下薬を投与しても、リスクの低下は認められない上、非常に高い尿酸値で経過しているにも関わらず心血管疾患を生じない例もある。心臓の高尿酸血症に対する感受性は不均一だと考えられる。
目的:(1)高尿酸血症患者のうち心機能低下をきたす症例を検出し、(2)感受性を規定する遺伝子を同定する。
方法:(1)人工知能(AI)に心電図を学習させ、尿酸値の変化が心臓に与える影響(障害)を検出させる。作成したAIが高尿酸血症で心不全を生じる症例を検出しているか検証するため、患者群をAIの出力で層別化し、追跡して将来の心不全率に差がある事を確認する。(2)作成したAIの出力を用いてゲノムワイド関連解析を行う。これにより、AIが抽出した高尿酸血症による心臓への障害の関連遺伝子が同定される。
(略)
3. 研究のまとめ・展望
動物実験により、ここまでに抽出した遺伝子群がどのようなメカニズムで心機能障害をきたすかを解明するため、ノックアウトマウスを作成した。今後表現形の解析や分子生物学的検討により詳細なメカニズム解明を目指す。

程 継東
兵庫医科大学糖尿病内紛泌代謝科特別招聘教授
【研究テーマ】
肝細胞のミトコンドリアオートファジーにおける高濃度の尿酸とインスリン抵抗性の関連について検討

【共同研究者】山本徹也

【研究成果】
高尿酸血症は高血圧、高脂血症、耐糖能異常、肥満などの生活習慣病と高率に合併することがよく知られ、近年の研究では高尿酸血症自体も、メタボリックシンドローム、心血管病などの独立した危険因子となることが示唆されている。ミトコンドリアオートファジーは細胞内のミトコンドリアタンパク質を分解する経路で、ミトコンドリアの恒常性維持に有用と考えられている。しかし肝細胞においてインスリン抵抗性やミトコンドリアオートファジーへの高尿酸血症の関与については明らかにされていない。本研究は、肝細胞株と高尿酸血症モデル動物の肝細胞を用いて、高尿酸血症と肝インスリン抵抗性の関連、およびインスリン抵抗性とミトコンドリアオートファジーの関連を検討した。さらに、高濃度の尿酸が肝細胞のインスリン抵抗性を誘導すると同時に、AMPK/mTOR/PINK1信号でミトコンドリアオートファジーを代償的に活性化させ、ミトコンドリ機能を改善させることにより、インスリン抵抗性を軽減するのではと考え、研究計画をたてた。以下は研究計画を基づいて、今まで獲得した研究結果である。
以下略
【論文】
1.Cheng J,Xu C,Yu W,Xie D,Wang Q,Chen B,Xi Y,Yu L,Yan Y,Yamamoto T,Koyama H. High Uric Acid Orchestrates Ferroptosis to Aggravate doxorubicin-induced Cardiotoxicity via ROS-GPX4 Signaling, 第57回 日本痛風・尿酸核酸学会総会(2024)、鸟取市、(学会発表)
2.Cheng J, Yamamoto T, Koyama H. High Uric Acid Promotes Atherosclerotic Plaque Instability by Targeting Apoptosis via Autophagy 第56回日本痛風尿酸核酸学会総会(2023)、東京、(学会発表)
3.Yang H, Wang Q, Xi Y, Yu W, Xie D, Morisaki H, Morisaki T, Cheng J*. AMPD2 plays important roles in regulating hepatic glucose and lipid metabolism. Mol Cell Endocrinol. 2023 Nov 1; 577:112039. doi: 10.1016/j.mce.2023.112039. Epub 2023 Aug 10.
4.Yu W, Xie D, Yamamoto T, Koyama H, Cheng J*. Mechanistic insights of soluble uric acid-induced insulin resistance: Insulin signaling and beyond. Rev Endocr Metab Disord.2023 Apr;24(2):327-343.

大内 基司
獨協医科大学医学部薬理学学内准教授
【研究テーマ】
1,5-anhydro-D-glucitolと尿酸連関の検討

【共同研究者】藤田 朋恵、安西 尚彦、安武 正弘、大庭 建三、鈴木 達也、黒崎 祥史、森田 亜州華

【研究成果】
[本研究の概要]
尿酸は抗酸化作用を有し、同濃度ビタミンCと比しその作用は大きい。活性酸素種やフリーラジカルは恒常性維持に必要な可能性はあるが、過剰な存在は老化をはじめ様々な疾患・発癌等に影響するため、その制御が重要となる。我々は、1,5-anhydro-D-glucitol (1,5-AG)が加齢で低下 [1]、尿酸と正相関の関係 [2]にあることを報告してきた。さらに、SGLT2阻害薬による尿酸低下について、HbA1cごとの変動推移 [3]を報告した。SGLT2阻害薬内服にて尿糖は排出促進され、1,5-AGも尿中排泄が増加し血中濃度が低下する。直近では、腎臓でこの1,5-AGの抗酸化作用にも着目され、気運が高まっている [4]。
本研究は1,5-AGと尿酸の連関において、抗酸化作用を介した役割解明の足掛かり形成を目的とした。In vitro実験にて、尿細管培養細胞株のHK-2 cellを用い [5]、尿酸・1,5-AGの細胞内抗酸化力を検討した。酸化ストレス負荷として過酸化水素とmenadioneを用いた。その環境下にて、catalaseを中心にリアルタイム PCRにてmRNA発現量を評価した。濃度として0.25mM 尿酸と0.25mM 1,5-AG単独および混合を用い、細胞障害はAlamar Blue試薬を用いた細胞活性測定により評価した。
以下略
学会発表
【1】. ヒト尿細管培養細胞における生理的濃度の尿酸の役割 -グルコース類似体との相互作用の観点から- 森田亜須可、黒崎祥史、安西尚彦、大内基司. 第57回日本痛風・尿酸核酸学会総会. 鳥取. 2024年2月29日-3月1日 一般演題(口演)抄録あり

論文
【2】. Otani N, Ouchi M, Mizuta E, Morita A, Fujita T, Anzai N, Hisatome I.Dysuricemia—A New Concept Encompassing Hyperuricemia and Hypouricemia. Biomedicines 2023, 11(5), 1255;

https://doi.org/10.3390/biomedicines11051255

【3】. Kuwabara M, Fukuuchi T, Aoki Y, Mizuta E, Ouchi M, Kurajoh M, Maruhashi T, Tanaka A, Morikawa N, Nishimiya K, Akashi N, Tanaka Y, Otani N, Morita M, Miyata H, Takada T, Tsutani H, Ogino K, Ichida K, Hisatome I, Abe K. Exploring the Multifaceted Nexus of Uric Acid and Health: A Review of Recent Studies on Diverse Diseases. Biomolecules. 2023, 13(10):1519.

https://www.mdpi.com/2218-273X/13/10/1519

HOME »  2022年度研究助成成果

PageTop