研究成果
2021年度研究助成成果
当財団が2021年度に行った研究助成の成果である論文リスト・概要報告を掲載します。
【痛風財団研究助成】
中杤 昌弘
名古屋大学大学院医学系研究科総合保健学専攻 実社会情報健康医療学・准教授
【研究テーマ】
エピゲノムワイド関連研究による尿酸・腎機能関連DNAメチル化サイトの探索
【共同研究者】市田 公美、松尾 洋孝、市原 佐保子、横田 充弘
【研究成果】
1、背景
尿酸はプリン体の最終産物であり、肝臓での産生や腎臓・小腸からの排泄により調整される。高尿酸血症及び痛風は遺伝要因が強いことが知られており、尿酸に寄与する遺伝要因の特定はこれらの疾患の病態学的な解明につながり、新たな予防や治療法の策定が期待できる。我々はこれまでに尿酸のゲノムワイド関連研究(GWAS)を実施し、多数の尿酸関連遺伝子座の同定に成功してきた。しかしながら、尿酸関連SNPだけでは痛風発症機構の全貌は未だ解明できていない。SNP以外のゲノム情報も尿酸の調節に寄与していると考えられる。
これまで尿酸との関連が未探索だったゲノム情報として、DNAメチル化などのエピゲノム情報が挙げられる。疾患や体質に関わるDNAメチル化を探索するためのアプローチとしてエピゲノムワイド関連研究(EWAS)が近年注目されている。近年、複数人種を対象としたコンソーシアム(CKDGen)で尿酸のEWASが報告されている(Nat Commun 12:7173(2021))。この研究では、ヨーロッパ人、アフリカ系アメリカ人、南アジア人、サハラ以南のアフリカ人を対象としており、日本人を含む東アジア人を対象としていない。
(略)
5、結論と今後の展望
本研究では尿酸のEWASを実施した。既報の尿酸関連DNAメチル化サイトが、日本人でも同様の関連があることを確認した。これらの結果は、日本人においても尿酸の調節及び痛風の発症にDNAメチル化が関与している重要な知見となる。
同定されたDNAメチル化サイトがどのような機能をもって尿酸の調節に関与しているかはいまだ報告がない。DNAメチル化サイトは転写に影響し、結果タンパク質量を調節することが知られているため、現在DNAメチル化サイトとタンパク質濃度との関連を評価している。
6、学会発表・論文発表
同定したDNAメチル化とタンパク質との関連を評価でき次第、学会発表と論文執筆を開始する。
小川 亜希子
東北大学 加齢医学研究所助教
【研究テーマ】
新規核酸型液性因子m6A の代謝異常による疾患病態解明
【研究成果】
学会発表
1)2022年4月 日本眼科学会総会 招待講演(シンポジウム)
「RNAモドミクスが開拓する新しい眼内病態生理学」
2)2022年4月 第25回眼科分子生物学研究会 一般講演(口頭)
「緑内障術後線維化におけるRNA修飾の変動」
3)2022年7月 RNA学会 口頭発表
「Metabolic regulation of modified RNA in immunity and disease」
4)2022年12月 日本分子生物学会 ポスター発表
「Activation of the urotensin- II receptor by remdesivir induces cardiomyocyte dysfunction」
5)2023年2月 第56回日本痛風・尿酸核酸学会総会 優秀演題賞候補セッション(口演)
「RNA由来修飾核酸の代謝酵素の同定」
受賞
1)2023年9月第82回日本癌学会学術総会JCA2023 Woman Scientist Plenary Symposium Award(内定、受賞講演予定)
2)2023年3月第3回北澤克明記念緑内障学研究助成(北澤賞)
「エピトランスクリプトームによる緑内障病態解明への挑戦」
3)2023年2月第56回日本痛風・尿酸核酸学会総会最優秀演題賞、座長推薦演題
「RNA由来修飾核酸の代謝酵素の同定」
4)2022年9月2022年度アステラス病態代謝研究会優秀発表賞
「RNA由来新規内分泌因子の探索による緑内障病態解明」
5)2022年6月 第15回資生堂女性研究者サイエンスグラント
6)2022年4月第25回眼科分子生物学研究会ベストプレゼンテーション
発表論文
研究テーマの主要な成果については現在論文作成中であり未だ公開されていないが、本テーマに関連し、助成期間中に採択された論文は下記の通りである。
1)Akiko Ogawa, Seiya Ohira, Yuri Kato, Tatsuya Ikuta, Shota Yanagida, Xinya Li, Yukina Ishii, Yasunari Kanda, Motohiro Nishida, Asuka Inoue, and Fan- Yan Wei1.
Activation of the urotensin‐ II receptor by remdesivir induces cardiomyocyte dysfunction.
Communications Biology, 2023, in press.
2)小川 亜希子、松尾 紀孝、齋藤 一創、魏 疱研.
COⅥD‐ 19ワクチン接種後のRNA修飾代謝物排泄の変動.痛風と尿酸・核酸(日本痛風・尿酸核酸学会誌)2022年46巻2号p.105‐ 113
著書・総説
1)小川亜希子.「シグナル情報伝達を担うRNA修飾由来の新しい眼内液性因子」
あたらしい眼科<<基礎研究コラム>>(メディカル葵出版、東京)2023年5月(脱稿済)
2)小川亜希子、魏疱研.「シグナル情報伝達を担うRNA由来液性因子」
医学のあゆみ(医歯薬出版株式会社、東京)280巻3号、pp.232‐ 233.2022年
3)魏疱研、小川亜希子。「タウリンによるミトコンドリア機能制御とミトコンドリア病」
腎臓内科(科学評論社、東京)15巻5号、pp.483-493.2022年
安西 尚彦
千葉大学大学院医学研究院 教授
【研究テーマ】
構造活性相関に基づく尿酸トランスポーターMCT9 (SLC16A9)の多選択性基質認識機序の解明
【共同研究者】竹下 浩平、橋本 弘史、平山 友里、霊園 良恵、北村 里衣
【研究成果】
論文
・Otani N, Ouchi M, Mizuta E, Morita A, Fujita T, Anzai N, Hisatome I. Dysuricemia – A new concept encompassing hyperuricemia and hypouricemia. Biomedicines. 2023 in press
・Jinakote M, Jutabha P, Anzai N, Ontawong A, Soodvilai S, Inchai J, Vaddhanaphuti CS. Interaction of buspirone and its major metabolites with human organic cation transporters. Fundam Clin Pharmacol. 2023 in press
・Saito S, Sakamoto S, Higuchi K, Sato K, Zhao X, Wakai K, Kanesaka M, Kamada S, Takeuchi N, Sazuka T, Imamura Y, Anzai N, Ichikawa T, Kawakami E. Machine-learning predicts time-series prognosis factors in metastatic prostate cancer patients treated with androgen deprivation therapy. Sci Rep. 2023 Apr 18;13(1):6325.
・Zhao X, Sakamoto S, Wei J, Pae S, Saito S, Sazuka T, Imamura Y, Anzai N, Ichikawa T. Contribution of the L-Type Amino Acid Transporter Family in the Diagnosis and Treatment of Prostate Cancer. Int J Mol Sci. 2023 Mar 24;24(7):6178.
・Pae S, Sakamoto S, Zhao X, Saito S, Tamura T, Imamura Y, Sazuka T, Reien Y, Hirayama Y, Hashimoto H, Kanai Y, Ichikawa T, Anzai N. Targeting L-type amino acid transporter 1 in urological malignancy: Current status and future perspective. J Pharmacol Sci. 2022 Dec;150(4):251-258.
・Ishibane M, Hashimoto H, Kaneko M, Saito S, Pae S, Saito S, Reien Y, Hirayama Y, Higashi-Kuwata N, Mitsuya H, Anzai N. Effects of a novel hepatitis B anti-viral drug E-CFCP in renal organic acid transporters. J Pharmacol Sci. 2022 Dec;150(4):201-203.
学会発表
・北山沙笑、宮本大資、佐藤奈々、永田宏次、安西尚彦、市田公美、岡本 研.
尿酸トランスポーターURAT1高発現HEK293細胞のエネルギー代謝物解析. 第56回日本痛風・尿酸核酸学会総会(2023.2.23-24)
高田 龍平
東京大学医学部附属病院薬剤部 講師/第一副部長
【研究テーマ】
新規尿酸トランスポーターと血清尿酸値変動薬に関する研究
【研究成果】
論文
1) OAT10/SLC22A13 Acts as a Renal Urate Re-Absorber: Clinico-Genetic and Functional Analyses With Pharmacological Impacts.
Toyoda Y, Kawamura Y, Nakayama A, Morimoto K, Shimizu S, Tanahashi Y, Tamura T, Kondo T, Kato Y, Ichida K, Suzuki H, Shinomiya N, Kobayashi Y, Takada T, Matsuo H.
Front Pharmacol. 2022 Apr 6;13:842717.
2) Identification of a dysfunctional exon-skipping splice variant in GLUT9/SLC2A9 causal for renal hypouricemia type 2.
Toyoda Y, Cho SK, Tasic V, Pavelcova K, Bohata J, Suzuki H, David VA, Yoon J, Pallaiova A, Saligova J, Nousome D, Cachau R, Winkler CA, Takada T, Stiburkova B.
Front Genet. 2023 Jan 17;13:1048330.
3) Vitamin C transporter SVCT1 serves a physiological role as a urate importer: functional analyses and in vivo investigations.
Toyoda Y, Miyata H, Uchida N, Morimoto K, Shigesawa R, Kassai H, Nakao K, Tomioka NH, Matsuo H, Ichida K, Hosoyamada M, Aiba A, Suzuki H, Takada T.
Pflugers Arch. 2023 Apr;475(4):489-504.
鶴田 文憲
筑波大学 生命環境系 助教
【研究テーマ】
HPRT1による性差特異的なミクログリア成熟の制御
【共同研究者】照屋 林一郎
【研究成果】
<論文発表>
① Autism-associated mutation in Hevin/Sparcl1 induces endoplasmic reticulum stress through structural instability.
Taketomi T, Yasuda T, Morita R, Kim J, Shigeta Y, Eroglu C, Harada R, Tsuruta F.
Sci Rep. 2022 Jul 13;12(1):11891.
2 Cold shock protein RBM3 is upregulated in the autophagy-deficient brain.
Nakamura J, Aihara T, Chiba T, Tsuruta F.
MicroPubl Biol. 2022 :10.17912/micropub.biology.000695.
3 Mutations in Hevin/Sparcl1 and risk of autism spectrum disorder.
Taketomi T, Tsuruta F.
Neural Regen Res. 2023 Jul;18(7):1499-1500.
④ ミクログリアの発生・分化・多様性獲得のメカニズム
浅見奈都・照屋 林一郎・鶴田 文憲
BIO Clinica 2023年3月号「proteinopathy最前線」
⑤ 発達期ミクログリアの多様性制御
照屋 林一郎・鶴田 文憲
Medical Science Digest 2022年12月号 「グリアデコード:新領域の発展性」
1は本課題と部分的の重複、4,5において本課題を紹介、本課題の原著論文は現在執筆中
1,2が原著論文、3,4,5が総説
<学会発表>
1 第45回 日本神経科学大会 Neuro2022,
2022年6月30日-7月3日、那覇
照屋林一郎 岡島智美 上田健太郎 鶴田文憲
HPRTによるミクログリア形態の多様性を生み出す新たなメカニズム
2 第16回神経発生討論会
2023年3月10日-3月11日 早稲田大学 先端生命医科学センター
照屋林一郎 高橋(岡島)智美 上田健太郎 鶴田文憲
A novel mechanism for microglial maturation in developmental stage mediated by purine metabolisms
中村 晋之
九州大学病院 腎・高血圧・脳血管内科
【研究テーマ】
血清尿酸値が急性期脳梗塞発症後の転帰に及ぼす影響に関する検討
【共同研究者】北園 孝成、鴨打 正浩、吾郷 哲朗、脇坂 義信、松尾 龍
【研究成果】
1. 研究の背景
脳卒中は健康寿命に関わる最大の疾患であり、脳梗塞発症後の組織修復や機能転帰に関連する病態の解明は、機能回復治療の開発にとって重要な課題である。申請者らは基幹病院7施設共同で急性期脳血管障害患者の詳細な臨床情報を取得し登録する福岡脳卒中データベース研究(Fukuoka Stroke Registry)を行っている。登録患者は1.7万人を超え、退院後10年にわたる追跡予後調査を実施している(追跡率90%)。
高尿酸血症は高血圧や慢性腎臓病などの動脈硬化危険因子に合併するだけでなく、尿酸そのものが炎症を引き起こし、動脈硬化を促進するため、脳卒中を含む心血管イベント発症の独立した危険因子として関与することが報告されている。一方で、尿酸は種々の中枢神経疾患に対して酸化ストレスを軽減し神経保護作用をもたらす抗酸化物質としての役割が示唆されており、脳梗塞後に尿酸そのものを投与し転帰が改善したとの報告もある。
しかし、これまでに行われた脳梗塞発症時の尿酸値と脳梗塞後の臨床転帰との関連性を検討した研究によると、正、負、Uカーブなど様々な相関の報告があり、実臨床における尿酸値と脳梗塞転帰との関連性は未だ定かではない。この要因の一つとして、脳梗塞発症後に尿酸値が大きく変動しやすいことが挙げられる。過去、脳梗塞急性期における尿酸の低下と神経学的重症度との関連性を示した報告が1報のみあるが、脳梗塞後の機能転帰との関連は明らかではない。
2. 研究の目的
血清尿酸値と急性期脳梗塞後の転帰および神経症状との関連について、特に脳梗塞急性期における尿酸値の低下に焦点を当て、多施設共同脳卒中データベースを用いて明らかにする。
以下略
研究成果の発表(学会・論文リスト)
1. Nakamura K, Ueki K, Matsuo R, Kiyohara T, Irie F, Wakisaka Y, Ago T, Kamouchi M, Kitazono T, on behalf of the Fukuoka Stroke Registry Investigators. Decrease in serum uric acid levels is associated with unfavorable outcomes after ischemic stroke. The 10th Korea-Japan Joint Stroke Conference, Osaka, 2022.9.
* 現在論文投稿中である(Nakamura K et al. In submission)。
松尾 洋孝
防衛医科大学校 分子生体制御学講座・准教授
【研究テーマ】
痛風・高尿酸血症と低尿酸血症による新型コロナ感染症のリスク解析とその予防にむけた研究
【共同研究者】岡田 随象
【研究成果】
【研究の背景】
COVID-19重症化のリスクとなる基礎疾患として、日本から「痛風・高尿酸血症がCOVID-19のリスクを3倍以上に高め、他の生活習慣病よりも高い」ことが複数報告されている。また、低尿酸血症もCOVID-19の重症化リスクとなる可能性が報告されている。ただし、その詳細や関連機序は不明なままである。
研究の目的
尿酸の観点から日本人におけるCOVID-19の感染リスクと重症化リスクの評価を行い、予防対策につなげることを目的とする。
(略)
申請者らの痛風・高尿酸血症を対象としたアジア最大規模の痛風のGWAS (Nakayama A, et al. Ann Rheum Dis, 2020)や血清尿酸値のGWAS(図2:Nakatochi M, et al. Commun Biol, 2019)を用いた研究については、現在検討が進められているところである。本研究では、日本独自の解析により、尿酸関連疾患におけるCOVID-19の感染リスクと重症化リスクの詳細が明らかになることが予期される。本研究により、尿酸の観点からのCOVID-19の予防対策に役立つことが期待される。
1. Shirai Y, Nakayama A, Kawamura Y, Toyoda Y, Nakatochi M, Shimizu S, Shinomiya N, Okada Y, Matsuo H (Last, corresponding author). Coffee consumption reduces gout risk independently of serum uric acid levels: Mendelian randomization analyses across ancestry populations. ACR Open Rheumatology, 4(6):534-539, 2022. 本論文は、防衛医科大学校より公式発表『「コーヒーを飲む」習慣により、痛風を発症しにくくなる~血清尿酸値とは無関係な予防効果を確認~』が実施されました。
西宮 健介
東北大学循環器内科学助教
【研究テーマ】
冠動脈に生じる結晶性炎症を標的とした系統的画像研究
【共同研究者】大田 英揮、大山 宗馬、Guillermo J. Tearney
【研究成果】
研究の背景:
冠動脈に内在するコレステロールとカルシウムの結晶はマクロファージ・インフラマソーム活性化を介して局所にサイトカインを誘導し動脈硬化を進展させる。結晶性炎症を論拠に行われたCOLCOT試験によって, コルヒチンの虚血性心疾患二次予防の有効性が示された。申請者は複屈折感受型光干渉断層法を開発し冠動脈に尿酸塩結晶の存在を見出した後, 尿酸塩結晶を弁別できるDual-energy (DE) CTを心臓に応用した。
研究の目的:
結晶性炎症を新規画像診断法で系統的に評価し, その病態を解明すること
(略)
今後期待される成果:
CT-FAI, DECTは外来診療で施行可能である。実用性と費用対効果に優れた画像診断法によってリスク層別化を行い, 抗炎症治療を適応できれば, 健康寿命延伸と医療費削減に貢献することが期待できる。
研究成果:
学会発表:
第87回 日本循環器学会総会 (福岡)
1. 西宮健介、Guillermo J. Tearney、安田聡: Novel Imaging Approaches to Discover Pathogenetic Roles of Coronary Calcification and Other Crystalline Components (プレナリーセッション)
2. 竹内智、西宮健介、安達歩、大山宗馬、進藤智彦、神戸茂雄、羽尾清貴、白戸崇、浪打成人、高橋潤、安田聡: A multicenter study of association between coronary crystals-related neutrophil extracellular traps and post-PCI flow impairment in acute myocardial infarction patients (英語口述)
古橋 眞人
札幌医科大学 循環器・腎臓・代謝内分泌内科学講座 講師
【研究テーマ】
COVID-19原因ウイルスSARS-CoV-2の宿主側受容体ACE2と尿酸との関連についての検討
【研究成果】
学会発表
1.尿酸とCOⅥD-19の原因ウイルスSARS-CoV-2の宿主側受容体ACE2との関連についての検討
古橋眞人、酒井晶子、日中希尚、東浦幸村、森和真、小山雅之、大西浩文、斎藤重幸、島本和明
第55回日本痛風・尿酸核酸学会(2022.2.17-18)
2.血清尿酸値は女性において収縮期血圧の経時的な上昇と関連する:線形混合効果モデルでの解析
森和真、田中希尚、東浦幸村、小山雅之、塙なぎさ、大西浩文、古橋眞人
第55回日本痛風・尿酸核酸学会(2022.2.17-18)
論文リスト
1.Mori K, Furuhashi M, Tanaka M, Numata K, Hisasue T, Hanawa N, Koyama M, Osanami A, Higashiura Y, Inyaku M, Matsumoto M, Moniwa N, Ohnishi H, Miura T. U-shaped relationship between serum uric acid level and decline of renal function during a 10-ycar period in female subjects: BOREAS-CKD2.Hypertens Res 44: 107-116, 2021
2.Furuhashi M, Higashiura Y, Koyama M, Tanaka M, Murase T, Nakamura T, Akari S, Sakai A, Mori K, Ohnishi H, Saitoh S, Shilmamoto K, Miura T. Indepcndent association of plasma xanthinc oxidoreductase activity with hypertension in nondiabetic subjects not using medication. Hypertens Res 44: 1213-1220, 2021
3. Furuhashi M, Sakai A, Tanaka M, Higashiura Y, Mori K, Koyama M, Ohnishi H, Saitoh S, Shilnamoto K. Distinct Regulation of U-ACE2 and P-ACE2(Urinary and Plasma Angiotensin-Converting Enzyme 2) in a Japanese General Population. Hypertension78: 1138-1149, 2021
4.Mori K, Furuhashi M, Tanaka M, Higashiura Y, Koyama M, Hanawa N, Ohnishi H. Serum uric acid level is associated with an increase in systolic blood pressure over time during a 10- year period in female subjects: Linear mixed-effects model analyses. Hypertens Res 45: 344-353, 2022
原 英樹
慶應義塾大学医学部微生物学免疫学特任准教授
【研究テーマ】
尿酸結晶によるインフラマソーム炎症の誘導機序の解明
【共同研究者】坂本 啓
【研究成果】
痛風は血中尿酸濃度が上昇することで尿酸が結晶化し、足や手の関節に沈着することで激しい痛みにおそわれる疾患であることから、痛みの発症機序の解明が治療戦略に重要となる。尿酸結晶が生じるとマクロファージなどの食細胞によって貪食され、細胞内外の受容体が活性化することで炎症応答を惹起する。この炎症応答が痛みの原因の1つであるが、なかでも細胞内受容体を介したインフラマソーム応答が近年注目されている。自然免疫機構であるインフラマソームは異物センサーの1つとして機能しており、尿酸結晶を含む内因性の異常代謝産物やアラーミンなどのdamage-associated molecular patterns(DAMPs)を感知する役割を果たしている。インフラマソームの主な構成因子は、細胞内受容体、アダプター分子apoptosis-associated speck-like protein containing a CARD(ASC)、タンパク分解酵素カスパーゼ1前駆体であり、細胞内受容体が異物を感知することでインフラマソーム複合体を形成する。インフラマソーム複合体が形成されるとカスパーゼ1前駆体が活性型となり、基質である炎症性サイトカインinterleukin-lβ (IL- lβ)前駆体やIL-18前駆体を切断することで生物活性を有する活性体へと変換させる。また、カスパーゼ1は膜傷害タンパク質ガスダーミンDも活性型へと変換させることで膜傷害を伴うプログラム細胞死パイロトーシスを誘導する。
以下略
【論文】
該当なし
【著書】
原英樹. 尿酸結晶とインフラマソーム. 「リウマチ科」Vol.68, No.4, 412-420, 2022年
【学会発表】
Hara H. Advances in research of innate immune sensors and diseases. 第51回日本免疫学会
総会. 2022年12月8日、熊本 国際シンポジウム・オーガナイザー
藤原 めぐみ
日本医科大学助教
【研究テーマ】
神経細胞エネルギー強化による若年性アルツハイマー病の予防的戦略
【共同研究者】西野 武士、岡本 研
【研究成果】
概要報告
【本研究の概要と目的】
ダウン症(DS)では、早期からアルツハイマー病(AD)を高頻度に発症する。DSではプリンde novo合成系が優位であり、慢性的なPRPP不足による細胞内ATP合成低下がプロテアソーム活性を低下させて変性タンパク質蓄積による神経細胞死を招くと考えられる。我々は電磁波照射による瞬間的な除タンパク法を確立し、この方法を用いて脳内ATP濃度を正確に測定した。
本研究の最終的な目的は、DSにおける脳神経内のSalvage経路を増強し、細胞内ATPを増加させることで、DSにおけるADの病態抑制効果をもたらすかどうかを評価することであった。本研究ではまず、TcMAC1マウスの脳内ATPが減少するかどうか、減少するとしたらいつから減少し、病理像との関連性があるかどうかを検証した。一方、細胞レベルでは、アミロイドβ(Aβ)を発現させ、ATP再合成経路の基質となるヒポキサンチン(Hx)の添加が細胞内ATPレベルの増加とそれにともなうAβ凝集体抑制効果を示すか検証した。
(略)
【総括】
本研究では、16週齢のMAC1マウスにおいては脳内ATPの低下はみられなかったものの、99週齢のMAC1マウスの海馬CA1領域において脳神経ニューロンにおいてNissle染色での変形および電子顕微鏡像での細胞小器官の密度増加を伴う変性ニューロンの増加が認められた。これは同じ99週齢の同腹仔では認められなかったため、MAC1マウス特有の病変であると考えられたが、99週齢マウスは1対しかおらず、脳内ATPは測定できなかった。このため、今後は脳内神経ニューロンにおける変性像がどの週齢で出現するのかを検証し、その週齢でATPの低下がみられるのかどうか、またATP増強薬により病変形成の抑制が認められるかどうかを検証する。
一方、細胞レベルでは、GFP融合型Aβペプチド発現系および可溶性Aβ取り込み実験において、Hx添加により細胞内ATP量が増強したにも関わらず、細胞内のAβ凝集体の蓄積量は減少しなかった。発現系においては、細胞内ATP量の増加がAβの発現自体も増加させていた可能性があったため、可溶性Aβ取り込み実験も並行して行った。取り込み実験においては、細胞内での凝集体形成が予想よりもはるかに大きく、培地に添加する可溶性Aβ量をより少なくして検討する必要があると考えられた。今後、条件を変更して再度検証する予定である。
草野 輝男
日本医科大学助教
【研究テーマ】
哺乳類におけるキサンチン酸化還元酵素活性変換の役割
【研究成果】
研究の概要
キサンチン酸化還元酵素(XOR)は、脱水素酵素型(XDH)と酸化酵素型(XO)のコンフォメーションをとる。生物界に広く存在するXORはそのほとんどがXDHである。哺乳類においても正常な組織ではXDHとして発現・機能しているが、障害を受けた組織ではXOコンフォメーションに変換(D→O変換)している。XORは乳汁中に分泌されているが、そのほとんどがXOである。申請者は、乳汁でのDO変換にはラクトペルオキシダーゼ(LPO)が関与し、その生成物ヒポチオシアン酸による、XDHへのジスルフィド形成が重要であることを明らかにした。本研究ではLPOによるD→O変換の分子機構を明らかにしその生理作用および局在を明らかにした。本研究の成果は学術誌(Redox Biology)および学会(第95回日本生化学会大会)にて報告した。
【原著論文】
Teruo Kusano, Tomoko Nishino, Ken Okamoto, Russ Hille, Takeshi Nishino,
「The mechanism and significance of the conversion of xanthine dehydrogenase to xanthine oxidase in mammalian secretory gland cells」
Redox Biology, Volume 59, February 2023, 102573
【国内学会】
口頭発表
熊谷 翠, 斎藤 志ほ, 草野 輝男, 岩崎 俊雄, 松村智裕,
「SDS-PAGE後にゲル内固定されたヒトアルカリホスファターゼ触媒活性は回復するか?」2T-17e-L04 (lP-412)
第95回日本生化学会大会(2022年11月9日~11日、名古屋)
ポスター発表
草野 輝男, 西野 武士,
「キサンチン酸化還元酵素の活性変換機構:臓器局在および生理作用」3P- 112
第95回日本生化学会大会(2022年11月9日~11日、名古屋)
齋藤 佑一
千葉大学医学部附属病院循環器内科特任助教
【研究テーマ】
プリン代謝におけるキサンチン酸化還元酵素に注目した虚血性心疾患患者の冠動脈プラーク形成メカニズムの解明
【共同研究者】小林 欣夫
【研究成果】
1. 研究概要
冠動脈プラーク形成メカニズムにおける尿酸の意義は未だ明らかではないが、プリン代謝に関与するキサンチン酸化還元酵素(XOR)が重要な役割を果たしているかもしれないという背景をもとに、申請者らは冠動脈疾患患者を対象としてXOR活性と血管内皮機能および血圧変動の関連を検討した。
2. 現在までの進捗状況
当該研究の結果は、既に論文として発表した(Medicina (Kaunas). 2022;58:1423)。同論文の謝辞において、痛風・尿酸財団からの助成を受けている旨を記載している。結果として、XOR活性・血管内皮機能・血圧変動の間に、直接的な関連はみられなかった。
3. 研究のまとめ・展望
一般的な理解としては、尿酸高値の患者における動脈硬化進展傾向には血管内皮機能障害などが関与していると思われたが、われわれのデータは直接的にはそのような関係を示さなかった。今後は異なる患者集団や表現型(血糖変動など)に焦点をあて、さらに尿酸やプリン代謝が冠動脈硬化に与える影響を検証していく。
論文
Systemic Endothelial Function, Plasma Xanthine Oxidoreductase Activity, and Blood Pressure Variability in Patients with Stable Coronary Artery Disease
Takashi Hiraga, Yuichi Saito, Kazuya Tateishi, Naoto Mori, Takayo Murase, Takashi Nakamura, Seigo Akari, Kan Saito, Hideki Kitahara and Yoshio Kobayashi
藏城 雅文
大阪市立大学大学院医学研究科代謝内分泌病態内科学講師
【研究テーマ】
尿酸のCOVID-19重症化における意義の解明
【共同研究者】日浦 義和
【研究成果】
背景
高尿酸血症が、新型コロナウイルス(SARS-CoV-2)感染症(COVID-19)の死亡リスクに関連することが、本邦から報告された(J Infect. 2020)。しかしながら、低尿酸血症とCOVID-19重症化との関連は十分に検討されおらず、またCOVID-19重症化機構として想定されている炎症との関連も十分な検討が行われていない。そこで、COVID-19重症化における血清尿酸値低値の意義を明らかにするために本研究を行った。
(略)
結語
非高尿酸血症COVID-19患者においては、尿酸値が低値であると抗炎症作用が発揮できず、炎症の増加を介して重症COVID-19の進行に寄与することが示唆された。
〇論文
Biomedicines. 2023 Mar 10;11(3):854.
Inflammation Related to Association of Low Uric Acid and Progression to Severe Disease in Patients Hospitalized for Non-Severe Coronavirus Disease 2019
Masafumi Kurajoh, Yoshikazu Hiura, Ryutaro Numaguchi, Yasutaka Ihara, Takumi Imai, Tomoaki Morioka, Masanori Emoto, Yukio Nishiguchi
〇学会発表
第56回日本痛風・尿酸核酸学会総会
非高尿酸血症COVID-19患者における血清尿酸値と炎症・COVID-19重症化との関連
藏城雅文
佐山 美紗
千葉大学医学部附属病院薬剤師
【研究テーマ】
化学構造から高尿酸血症誘発薬剤を予測する新規手法の確立
【共同研究者】鈴木貴明、石井伊都子
【研究成果】
【背景】
臨床で薬剤はある効能。効果を期待して使用されるが、それ以外の予期せぬ効果を副作用として示すことが多々ある。薬効の異なる薬剤であっても共通した副作用を示すことがあるが、その要因として薬剤の共通する部分構造がある共通の標的に作用していることが考えられる。本研究では、薬剤の副作用として血中尿酸値の変動に着目する。血中尿酸値の変動に重要な役割を担っているのが、腎臓の近位尿細管細胞に発現する尿酸トランスポーター、URAT1である。本研究では、URAT1への関与が既知の薬剤からURAT1に作用する薬剤の化学構造の特徴を見出し、同様の特徴を有する薬剤がURAT1に作用するかを検証する。最終的に、化学構造の類似性から、URAT1へ作用して血中尿酸値の変動を起こしうる薬剤を発見する方法論を確立することを目的とする。
(略)
【今後の展望】
本研究における検索で見出した薬剤のURAT1への作用様式をより詳細に調べていきたい。具体的には、薬剤がURAT1の基質となるのか、また、URAT1による尿酸再吸収促進活性があるのか調べることを考えている。また、データベースをよリー般化し、FDAにより認可されている薬剤に対して検索を行い、URAT1に作用する可能性のある薬剤候補を得ている。得られた薬剤候補が実際にURAT1に対する活性を有するか調べることで、化学構造の類似性を元に尿酸値変動を起こしうる薬剤が発見できるのか、さらなる検証を進めていく。
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