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研究成果

2014年度研究助成成果

当財団が2014年度に助成した研究助成の成果である論文リスト・概要報告を掲載します。

【鳥居痛風学術賞】

大内 基司  
獨協医科大学医学部薬理学講座 准教授
【研究テーマ】
血清尿酸値と尿中NAG活性、arterial sriffnessとの臨床的関連の検討

【共同研究者】 安西 尚彦、大谷 直由、小原 信、三枝 太郎
【論文】
Association Between Pulse Wave Velocity and a Marker of Renal Tubular Damage (N-Acetyl-b-D-Glucosaminidase) in Patients Without Diabetes

【田辺三菱賞】

岡田 随象
東京医科歯科大学 テニュアトラック講師
【研究テーマ】
Target exon sequencingを用いた尿酸値関連多型の同定

【共同研究者】 Eli A. Stahl

【研究報告】
国際共同研究を通じて実施された、血清尿酸値に対するアジア人および欧米人集団における大規模ゲノムワイド関連解析の結果(文献1・2)を用いた責任遺伝多型の解明に関わる研究を実施した(下図参照)。両方のゲノムワイド関連解析結果における上位領域内(P < 10-6)の遺伝子exon領域を選択した。欧米人およびアジア人集団1,000名を対象に米国Mount Sinai Hospital(NY, USA. Eli A. Stahl博士)において対象exon領域に対するdeep exon sequencingを実施した。Exon領域ゲノムのキャプチャーにはNimbleGen Sequence capture technology(Roche)を使用した。SequencingにはIllumina HiSeq2000(Illumina)を使用した。Variant callingおよびrare variant解析等の遺伝統計解析については、米国Harvard Medical SchoolおよびBroad Instituteとの共同研究を通じて実施し、現在SKAT-O等のrare variant risk testを用いた疾患リスク評価を行っている。(図略)
参考文献および研究期間内における主要な成果
1. Okada Y, Sim X, Go MJ, Wu JY, Gu D et al. (2012) Meta-analysis identifies multiple loci associated with kidney function-related traits in east Asian populations. Nat Genet 44:904-909.
2. Kottgen A, Albrecht E, Teumer A, Vitart V, Krumsiek J, ..., Okada Y et al. (2013) Genome-wide association analyses identify 18 new loci associated with serum urate concentrations. Nat Genet 45:145-154.
3. Finucane HK, Bulik-Sullivan B, Gusev A, Trynka G, Reshef Y, ... Okada Y et al. (2015) Partitioning heritability by functional annotation using genome-wide association summary statistics. Nat Genet 47:1228-1235.
5. Okada Y, Raj T, Yamamoto K. (2016) Ethnically shared and heterogeneous impacts of molecular pathways suggested by the genome-wide meta-analysis of rheumatoid arthritis. Rheumatology 55:186-189.
6. Lenz TL, Deutsch AJ, Han B, Hu X, Okada Y et al. (2015) Widespread non-additive and interaction effects within HLA loci modulate the risk of autoimmune diseases. Nat Genet 47:1085-1090.
7. Joshi PK, Esko T, Mattsson H, Eklund N, Gandin I, ... Okada Y et al. (2015) Directional dominance on stature and cognition in diverse human populations. Nature 523:459-62.
8. Okada Y, Momozawa Y, Ashikawa K, Kanai M, Matsuda K et al. (2015) Construction of a population-specific HLA imputation reference panel and its application to Graves’ disease risk in Japanese. Nat Genet 47:798-802.
9. Locke AE, Kahali B, Berndt SI, Justice AE, PersLiu TH, ..., Okada Y et al. (2015) Genetic studies of body mass index yield new insights for obesity biology. Nature 518:197-206.
10. Liu H, Irwanto A, Fu X, Yu G, Yu Y, ..., Okada Y et al. (2015) Discovery of six new susceptibility loci and analysis of pleiotropic effects in leprosy. Nat Genet 47:267-271.
【論文】
Construction of a population-specific HLA imputation reference panel and its application to Graves’ disease risk in Japanese

【研究助成】

谷口 敦夫   
東京女子医科大学附属膠原病リウマチ痛風センター 教授
【研究テーマ】
痛風における尿酸代謝とウロモジュリンの関連について

【共同研究者】 市川 奈緒美、大澤 彦太

【背景と目的】ウロモジュリン(uromodulin)遺伝子(UMOD)は家族性若年性高尿酸血症性腎症の原因遺伝子であるが、GWASにより慢性腎臓病の疾患感受性遺伝子としても同定されている。痛風とUMODの関連については否定的な報告が多い。しかし、疫学的には痛風は慢性腎臓病のリスクであることが報告されている。そこで、我々は、痛風の病態におけるウロモジュリンの役割に注目して、研究を行っている。今回は、痛風患者の尿中uromodulin排泄量と腎機能およびUMOD遺伝子多型との関連を検討した。【対象と方法】対象は当施設に通院している一次性特発性男性痛風症例324例である。UMODに関連するSNPsとしてrs293393、rs6497476を選択し、TaqMan法で遺伝型を決定した。尿中ウロモジュリンは既報を参考にELISA法で測定した。【結果】尿中ウロモジュリン排泄量はUMOD遺伝子多型rs4293393において AA 11.30±11.81μg/ml、AG 9.67±8.36μg/mlであり、有意差を認めなかった。また、rs6497476では CT 10.67±9.36μg/ml、TT 11.31±11.86μg/mlで有意差を認めなかった。一方、各々の多型の遺伝型はeGFRと関連を認めなかった。尿酸クリアランス、尿中尿酸排泄量が測定されていた症例で、eGFR>60であった症例において、尿酸排泄低下型と尿酸産生過剰型にわけて尿中ウロモジュリンを測定したが、尿酸排泄低下型では平均10.39μg/ml、尿酸産生過剰型では平均12.23μg/mlであり有意差を認めなかった。【考察】今回の検討ではウロモジュリンのタンパク量あるいはUMOD遺伝型と痛風の病態(尿酸動態、腎機能)との関連は認められなかった。今回は尿中ウロモジュリンはスポット尿で測定したが、ウロモジュリンの排泄量に日内変動がある可能性は否定できない。また、尿中ウロモジュリン測定と蓄尿による高尿酸血症の病型分類には時間的な開きがあった。今後は蓄尿での尿中ウロモジュリン排泄量の定量を行い、尿酸代謝との関連を検討する必要があると思われる。また、今回検討したSNPsと尿中ウロモジュリンとの関連は認められなかったが、今後さらにSNPsを増やして検討を続ける予定である。

金子 希代子
帝京大学薬学部臨床分析学研究室 教授
【研究テーマ】
魚類に含まれるプリン体の分類と食事療法への応用

【共同研究者】 山岡 法子、福内 友子
【概要報告】
 不飽和脂肪酸を多く含む魚の摂取は心筋梗塞のリスクを下げることが知られている。これらの魚類には光沢を持つものが多く、体表面の光沢はグアニン結晶によると報告されている。一方、プリン体の影響を調べた論文では、ヒポキサンチン、IMP、アデニン、AMP、およびGMPの負荷は血清尿酸値を上昇させるが、グアニンの負荷は上昇させなかった。魚類のプリン体含量は概ね100-200 mg/100gと肉類と同等であるが、光沢を持つ魚類はグアニンの比率が高い分、血清尿酸値への影響が少ないと予想される。そこで本研究では、光沢のある魚類に含まれるプリン体について検討した。
 光沢のある魚を食品ごとに処理し、凍結乾燥後、過塩素酸による加水分解、または加水分解なしの状態でHPLCの試料とし、カラム:Shodex Asahipak GS-320HQ、カラム温度:35℃、移動相:150 mMリン酸ナトリウム緩衝液(pH 2.8)、流速:0.6 mL/min、波長:260 nmのHPLC条件で測定した。ピークの同定は、キサンチンオキシダーゼ、グアナーゼまたはウリカーゼを用いて行った。
 過塩素酸で塩基に分解されたプリン体をA、G、HX、Xとして測定した結果では、ムツの皮(プリン体総量382.3 mg/100g)はプリン体の77.6%をGとして含有し、光沢を持つマイワシ(210.4 mg)、サンマ(154.9 mg)もGとして各々47.6%, 31.8% 含有していた。太刀魚は、A 11.9、G 276.9、HX 94.6、X 2.8 mg/100gとプリン体総量386.1 mg/100g含有し、Gを71.7%含んでいた。さらに太刀魚は、UAを175.9 mg含んでおり、五塩基合計は562.0 mgだった。太刀魚を身と皮に分けて測定したところ、太刀魚の身では、プリン体合計149.2 mg/100gで、そのうちG 19.5、UA 18.3 mg含まれていた。また太刀魚の皮では、プリン体合計1081.8 mg/100gと非常に高い値を示し、そのうちG 847.2、UA 96.8 mg含まれていた。Gの比率は78.3%、UAと合計すると944.0 mg、比率は87.3%と、皮のプリン体の大部分をGとUAが占めていた。太刀魚の皮に含まれる尿酸の役割に興味が持たれる。また、太刀魚の皮をX線回折分析したところ、グアニンが存在することを確認した。
 グアニンは血清尿酸値を上げにくいと報告されている。光沢のある魚ではグアニンの比率が多く、それらは通常のpHでは溶出しなかった。このことから、光沢のある魚類は光沢を持たない魚類と比べて、血清尿酸値への影響は大きくないと考えられる。
 
【業績】
(1) Kiyoko Kaneko, Yasuo Aoyagi , Tomoko Fukuuchi , Katsunori Inazawa , and Noriko Yamaoka. Total purine and purine base content of common foodstuffs for facilitating nutritional therapy for gout and hyperuricemia. Biological and Pharmaceutical Bulletin 37 (5), 709-721, 2014
(2) 加納 貴則、福内 友子、山岡 法子、金子希代子。光沢のある魚類に含まれるプリン体について。第48回 日本痛風・核酸代謝学会総会 2015、2、19-20(19日)、東京

山内 高弘
福井大学医学部内科学(1)血液・腫瘍内科講師
【研究テーマ】
新規抗腫瘍性ヌクレオシドアナログ、ベンダムスチンの作用機序の解明と耐性の克服

【共同研究者】 上田 孝典

1、背景
ベンダムスチンはアルキル化薬のナイトロジェンマスタード構造と代謝拮抗薬であるプリンアナログ様構造を併せ持つ化合物で、再発又は難治性の低悪性度B細胞性非ホジキンリンパ腫またはマントル細胞リンパ腫治療に適応を有する。本薬の殺腫瘍細胞作用機序として、アルキル化によるDNA損傷作用、p53 依存性及び非依存性のアポトーシス誘導、有糸分裂期チェックポイント抑制による分裂期崩壊誘導が推測されている。しかしながら、本薬の作用機序についての過去の報告では、ヌクレオシドアナログとしての視点からの検討はなされていない。

2、目的
ベンダムスチンの抗腫瘍効果を、代謝拮抗薬としてDNA合成阻害の点から解明する。さらに本薬の耐性細胞を樹立し、耐性機序を解明し、その克服法を検討する。

3、方法
1、ベンダムスチンが臨床的に最も効果的な悪性リンパ腫由来の培養細胞株を選択した。
2、ベンダムスチンによる細胞の増殖抑制効果、アポトーシス誘導、細胞回転について、XTT法、フローサイトメトリー法で解析した。
3、細胞に低濃度ベンダムスチンの存在下に長期培養し耐性細胞を樹立した。

4、結果
1、B細胞性リンパ腫細胞DBを選択した。
2、DB細胞においてベンダムスチンの50%増殖抑制濃度は70μMであった(XTT法)。
3、DB細胞は50μMベンダムスチンにより48時間後10%がアポトーシス死に誘導された(フローサイトメトリー法によるsub G1分画比率にて計算)。
4、本薬により細胞周期は24時間後S期が増加し、48時間後にG2/Mに蓄積した(フローサイトメトリー法によるPI染色)。
5、ベンダムスチン耐性細胞を2種類作成した。耐性細胞1はベンダムスチン200μM存在下に、耐性細胞2は250μM存在下に増殖可能であった。

5、結論
本研究の結果、ベンダムスチンはS期からG2M期に作用することが推測された。薬剤の作用点がDNA合成期にあり、腫瘍細胞はそのダメージをG2Mチェックポイントにより対処を試みる、それがG2M期の蓄積に反映されていると推測された。今後、DNA合成阻害、DNA修復の観点から殺細胞効果を検討する。さらに、耐性細胞のクローニングを経て耐性株を樹立し、感受性株との対比において耐性機序を解明しその克服について検討していく。

久留 一郎
鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻遺伝子再生医療学講座(再生医療学部門)教授
【研究テーマ】
臓器に共通して発現する尿酸輸送体を介した高尿酸血症の心臓障害機構の解明

【共同研究者】 Nani Maharani

[背景] 我々は4種類の尿酸トランスポーター(UAT)が腎臓のみならず、臓器に共通して発現することを初めて見出し、尿酸を細胞内に取り込むGLUT9及びMCT9と尿酸を汲み出すABCG2及びMRP4の4つの臓器に共通したUATが発現すると推定している。この事実は4種類のUATの機能を介して細胞内に取り込まれた尿酸が細胞障害性を働く可能性を示唆する。我々は心臓に4種類のUATを介してROSの活性化やERKのリン酸化が起こり心房のKv1.5チャネルを増加させることで催不整脈性に働く可能性明らかにするために以下の目的で研究を行った。[目的] 細胞内尿酸の心房筋での病態の分子基盤を解明し、その制御による臓器障害の新たな治療の開発を目指す。[研究計画] 1)高尿酸血症によるKv1.5チャネルの発現:高尿酸血症はKv1.5チャネル蛋白質を増加したが、そのmRNA量に影響しなかった。2)UATを介する細胞内尿酸流入が心臓のROS発生に及ぼす作用の検討: 高尿酸血症はROSを増加し、NADPH oxidase (NOX)とキサンチン酸化酵素(XO)の阻害薬で抑制した。3)細胞内尿酸によるERK経路を介する心筋リモデリングの検討:尿酸による心房筋のERKのリン酸化は抗酸化薬やNOXならびにXO阻害薬で抑制され、尿酸により上昇したKv1.5を抑制した。4)高尿酸血症モデルラットを用いた高尿酸血症によるKv1.5発現と心房細動誘発に及ぼす効果:オキソニンサン処理ラットを用いることで、高尿酸血症が心房筋Kv1.5チャネル蛋白の発現増加を来し、ランゲンドルフ潅流を用いた研究から、高尿酸血症は心房不応期の短縮と期外刺激による心房細動の誘発を促進した。

松尾 洋孝
防衛医科大学校分子生体制御学講座 講師
【研究テーマ】
痛風のゲノムワイド関連解析と遺伝要因の全容解明に向けた研究

【共同研究者】市田 公美、高田 龍平、中村 好宏
【論文】
NPT1/SLC17A1 Is a Renal Urate Exporter in Humans and Its Common Gain-of-Function Variant Decreases the Risk of Renal Underexcretion Gout

Genome-wide association study of clinically defined gout identifies multiple risk loci and its association with clinical subtypes

荻野 和秀
鳥取大学医学部附属病院検査部 准教授
【研究テーマ】
左室拡張障害に対するキサンチンオキシダーゼ阻害の効果
- キサンチンオキシダーゼ活性と酸化ストレスの関与 -

【共同研究者】衣笠 良治、加藤 雅彦、久留 一郎、山本 一博
【論文】
Depletion of Uric Acid Due to SLC22A12 (URAT1)Loss-of-Function Mutation Causes Endothelial Dysfunction in Hypouricemia

高田 龍平
東京大学医学部附属病院 薬剤部 講師/第一副部長
【研究テーマ】
尿酸降下薬が尿酸トランスポーターに与える影響に関する研究

私達は、ATP-binding cassette transporter G2 (ABCG2/BCRP)の遺伝子多型と高尿酸血症・痛風の発症リスクの関連性に着目し、ABCG2が高容量性の尿酸排出トランスポーターであり、痛風の主要な病因遺伝子であることを見出しました(Matsuo H, Takada T, Ichida K, et al. Science Translational Medicine, 2009)。
 つづいて、ABCG2が消化管から糞中への尿酸排出を担うこと、ABCG2の機能低下による高尿酸血症が消化管への尿酸排泄の低下によることを、ABCG2ノックアウトマウスを用いたin vivo実験と臨床サンプルを用いた解析により示すことができました。さらに、ABCG2機能の低下に起因する腎外尿酸排泄低下型高尿酸血症が存在することを明らかにし、新たな高尿酸血症の病態分類を提案することができました(Ichida K, Matsuo H, Takada T, et al. Nature Communications, 2012)。
 しかしながら、ABCG2による尿酸輸送については未だ不明の点が多く、重要な研究課題が多く残されています。このような背景のもと、本研究は、種々の尿酸降下薬がABCG2を介した尿酸輸送にもたらす影響について調べることを目的として立案されました。
ABCG2発現細胞から細胞膜小胞を単離し、ATP依存的な尿酸輸送について詳細な輸送実験を行った結果、複数の尿酸降下薬がABCG2による尿酸輸送に対する阻害活性を有することが明らかとなりました。ABCG2阻害は血清尿酸値の上昇を引き起こすと考えられることから、ABCG2機能を阻害しない尿酸降下薬を開発することができれば、既存の尿酸降下薬よりも強力な尿酸低下作用をもたらすことが期待されます。

大坪 俊夫
九州大学病院腎・高血圧・脳血管内科講師
【研究テーマ】
亜硝酸とトピロキソスタットの併用は、腎虚血再灌流障害を軽減し腎移植に有効か?

【共同研究者】芳賀 祥江、土橋 卓也

【背景・目的】
キサンチン酸化還元酵素(XOR)は、プリン体代謝の最終段階でヒポキサンチンからキサンチン、キサンチンから尿酸の2段階の産生を調節している。病態によっては、活性酸素(ROS)や一酸化窒素(NO)を産生するため、虚血再灌流障害、心不全、生体防御など様々な病態への関与が報告されてきた。虚血再潅流障害に関しては、XORより産生されるROSが組織障害を引き起こし、XORの阻害薬により組織障害が軽減することが報告されている。最近虚血・低酸素・アシドーシスなどのeNOS活性が低下する病態においては、XORを介した亜硝酸からのNO産生が臓器保護的に働く可能性が報告され、亜硝酸投与でさらに臓器保護効果が増強されることが報告されている。以上の報告より、虚血時の亜硝酸投与はXORを介したNO産生を亢進し臓器保護的に働き、再灌流時のXOR阻害は活性酸素産生を抑制し組織保護的に働く可能性が考えられる。今回、腎移植などの虚血障害、再灌流障害をきたす病態への応用を視野にXORを介した虚血再灌流障害を最も軽減する方法の検討を行った。
【方法】
腎虚血再潅流障害モデルマウスを作成し、亜硝酸並びにXOR阻害薬(アロプリノール、トピロキソスタット)の投与時期における臓器保護効果の違いを1)血液中のBUN, Cr、2)組織学的障害の評価、3)炎症・線維化関連遺伝子の発現、4)活性酸素産生量の評価により比較検討を行った。
【結果と考察】
腎虚血再灌流障害モデルにおいて、亜硝酸の虚血前投与は活性酸素産生抑制、炎症マーカーの発現低下等を介して、腎障害の程度を軽減した。予備実験のアロプリノールを再灌流直前に腹腔内投与を行ったモデルも腎機能の改善を認めた。亜硝酸を投与しない条件では、アロプリノールの投与は虚血前でも、再灌流直前でも大きな違いは認めなかった。今後、亜硝酸投与とアロプリノール投与を組み合わせたモデルを作成し最適投与時期の検討を行う。更に、アロプリノールとトピロキソスタット投与による腎保護効果の違いを比較検討する。

清水 徹  
社会医療法人祐生会みどりヶ丘病院非常勤嘱託
【研究テーマ】
Helical CT による痛風に合併する腎結石の実態についての研究

【共同研究者】北田 一史、堀 浩
研究の背景
痛風には尿路結石が高率に合併することが知られているが,その実態に関する研究は進んでおらず,依然として不明な点が多く残されている.その原因の一つは,痛風患者における尿路結石合併の有無の判定が,尿路結石の病歴すなわち結石排出,手術,あるいは腹痛,血尿などの臨床症状の既往に基づいて行われてきたことにある.
申請者らがhelical CTを用いて調べたところ、実際に結石保有がCTで確認された症例(stone carriers)の腎結石有病率は34%であったのに対して,結石の既往歴を有する症例(stone formers)の有病率(正確には累積罹患率)は18%であった.つまり,結石合併の有無を「病歴」で判定すると,実際に腎結石を保有している患者の約半数は見逃されてしまうことになる(Shimizu, et al : J Urol 189, 2013).その結果,stone formerの臨床像は,stone carrierの臨床像を正確に表していない可能性がある.腎結石合併の有無による臨床像の違いは,病歴ではなく,CTで確認された症例に基づいて検討する必要がある.
方法
CTイメージにおける結石の定義については,いまだに定まった基準はないので,再現性を維持するために一定のLimitationを付加しておく必要がある.今回,申請者らは単純CTで腎臓を検査した際,冠状面で測定した結石陰影が直径 ≧1mm,かつCT値 >120HUのものを「腎結石」と定義した.
Unenhanced helical CTにおける3DCTを用いると,腎結石の位置,分布とともにLaterality (両側性か片側性か) を容易に確認することができる.痛風患者350例を両側群、片側群,結石なしの3群に分けて,治療前の血清尿酸値 (Sua),尿酸代謝動態,腎機能,メタボリック・シンドローム(Mets)の有病率を群間比較した.腎機能はクレアチニンクリアランス(Ccr),血清クレアチニン値(Scr),腎糸球体濾過率(eGFR)で評価した.Metsの有無は日本肥満学会の基準に準じて判定した.
結果 
1. 痛風患者の腎結石有病率は31%(108 / 350)であり,腎結石がCTで確認され 
症例の約60%には尿路結石の病歴はなかった.
2.CTで腎結石が認められた108例中,58例が両側性,50例が片側性であった.
3.108例の腎結石保有例中,66例(61%)は2個以上の結石を有し、その中の22 
例(33%)は4個以上の多発性結石保有者であった.
4.350例を両側結石群,片側結石群,結石なし群の3郡に分けて,Tukey-Kramer試験で多重比較したところ,両側腎結石群のSua,Scrは結石なし群より有意に高く,eGFRは有意に低かった (P=0.0001, P<0.001, P=0.043).クリアランス比(Cua/Ccr)や尿酸排泄量から推定した高尿酸血症の成因,Metsの合併率およびMetsのコンポーネントには3群間に有意差は認められなかった.

考察
痛風患者には,両側に結石が多発性に形成される群と,片側性で単発性あるいは少数の結石を合併する2つのタイプがある.片側性結石の形成は、尿路系の局所的、解剖学的異常に伴う尿流停滞が主な原因と推定されるのに対して,両側性で多発する結石の形成には、結石成分の過飽和状態,尿濃縮,酸性尿など全身的な因子が関与していると思われる.痛風における両側性で多発性腎結石群の血清尿酸値は,結石合併のない群と比較すると有意に高値であり,同時に腎機能も低下している.この両側性多発性の腎結石群は,痛風で認識されている高率の尿路結石合併や腎障害の進行などの主役を演じる存在と考えられる.
結論
1. 痛風における腎結石の有病率は約30%である.
2. 痛風の合併する腎結石の半数以上が両側性で多発性である.
3. 痛風においては血清尿酸値が高いほど両側性で多発性腎結石の形成が促進され,腎機能も障害される.

今回の研究結果は2018年4月にInternational Journal of Rheumatic Diseasesに投稿し,11月に受理された.この報告の重要なポイントは,痛風には両側性,多発性に腎結石を合併する群があって,この群の腎機能は明らかに低下していることである.痛風における腎障害の機転については諸説があるが,痛風すなわち高尿酸血症が持続した状況下での腎機能障害の発生機序は,従来の説とは異なった視点からも検討する必要があることを示している.

今回の報告に関連する論文

1.Shimizu T, Hori H, Umeyama M, Shimizu K: Characteristics of gout patients according to the laterality of nephrolithiasis: A cross-sectional study using helical computed tomography.
Int J Rheum Dis. 2018 Nov 28. doi: 10.1111/1756-185X.13443. Epub ahead of print]

2.Shimizu T, Kitada H, Umeyama M, Hori H, Takasaki N: Novel evaluation of nephrolithiasis as a complication of gout: a cross-sectional study using helical computerized tomography.
J Urol. 2013 May;189(5):1747-52. doi: 10.1016/j.juro.2012.11.076. Epub 2012 Nov 15.

3.Shimizu T, Hori H: The prevalence of nephrolithiasis in patients with primary gout: a cross-sectional study using helical computed tomography.
J Rheumatol. 2009 Sep;36(9):1958-62. doi: 10.3899/jrheum.081128. Epub 2009 Jul 15.

4.清水 徹,堀 浩, 梅山正登: 痛風患者の腎CTで観察される腎錐体部のHigh Density Area.痛風と核酸代謝 38(2),129-35,2014 (痛風・核酸代謝学会研究優秀論文賞)

5.清水 徹,今西 努, 加藤 大,堀 浩,三上康夫: 痛風患者に合併する腎結石 ― helical CTによる観察.痛風と核酸代謝 26(2),137-41,2002 (痛風・核酸代謝学会研究優秀論文賞)

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