理事長通信
第21号 Recommendationを「推奨」と訳するか「勧告」と訳するか?
今年は台風の当たり年のようで、先日も迷走する台風10号に振り回されました。被災された皆様にお悔やみを申し上げます。
台風だけでなく、大雨や洪水で災害が予想される場合に、気象庁から注意報や警報が出ますが、緊急安全確保だとか、高齢者等避難だとか、大雨特別警報だとか、種類が多すぎて混乱してしまいます。専門家は、個々の状況に応じて細かく知らせようと思っているのでしょうが、情報の受け手の我々は戸惑ってしまいます。実際、そういう意見が多いらしく、どの災害でも、「特別警報」「危険警報」「警報」「注意報」と一本化する内容で、今年度内にも見直しをするとの報道がありました。
特に、以前は、「避難指示」と「避難勧告」とがあり、このふたつは何が違うのかわからない人が多かったと思います。「指示」というと強制力があるので、避難しなければない状況ですが、「勧告」というと、避難したほうが良いですよ、という程度の意味です。幸い2021年に「避難勧告」の表現が廃止され、現在では、「避難指示」に一本化されましたので、避難指示が発令された場合は「全員避難する」ことが求められるようになり、ずいぶんすっきりしました。情報の発信は、発信する人の都合ではなく、受ける人のためのものであることを認識して、誰でも理解できる平易な言葉を使って伝えてほしいと思います。このことは、医学医療においても肝に銘じるべきことかと思いました。
Recommendationの和訳に「推奨」と「勧告」があります。日本語にすると「勧告」は「推奨」よりも強い表現で、強制力を伴う「指示」に近い響きがあります。しかし、Recommendationの本来の日本語訳は「推奨」のはずです。
医学の領域では、各疾患に対して診療ガイドラインが作られており、その中に「勧告」とか「推奨」という言葉がたびたび出てきます。日本の診療ガイドラインを作る時に、欧米で作成されたガイドラインに記載されているRecommendationを参考にすることも多いのですが、その際に「推奨」と訳す人と、「勧告」と訳す人がいます。本来は、すべて「推奨」と訳すべきなのですが、世の中には、「推奨」よりも強めの「勧告」と訳したがる人がいます。おそらくrecommendationされている内容が、自分ないしは自社の利益につながると考える人が、強めの和訳をするのでしょう。例えば、自社の製品に関係のあるrecommendationを、「推奨」と訳すと使ってもらえないかもしれないが、「勧告」と訳せば使ってもらえるかもしれない。これはある意味で、意図的な利益誘導ではないかと思います。海外の情報を正しく人々に伝えることは、我々の責務でもありますので、我々は、Recommendationを「勧告」と訳した文章には、何らかの利益相反があると考えて、注意する必要があります。
今年はとても暑い夏でした。日本国中を騒がせた台風10号ですが、何とか夏の暑さを運び去ってほしいものです。
2024年9月5日
公益財団法人 痛風・尿酸財団 理事長
医療法人財団順和会山王メディカルセンター院長
山中 寿