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理事長通信

第6号 新春雑感―いつもと違うお正月を迎えて

明けましておめでとうございます。お正月は晴れやかな思いで迎えるものですが、今年ばかりは晴れやかな気持ちになれません。昨年1月に生じた新型コロナ感染が大きな影を落としており、しかもその影がますます濃くなってきていることに不安を感じ、本来は明るいはずのお正月なのに気分が晴れません。

今回のコロナ禍で、社会全体が大きな打撃を受けました。新型コロナによる米国の死者数は、第二次世界大戦の戦死者数を上回ったとの報道がありました。新型コロナは、世界中に感染症が広がるパンデミックで、地球規模の大災害です。平和な世の中で人生を謳歌していた世界が、瞬く間にパンデミックが支配する世界に変貌した。もはや「平時」ではなく「戦時」であると言っても過言ではないと思います。あまりに平和で安定した世界になりすぎていることへの、目見えぬ力の反逆かもしれません。皆、危機感がなかった。特に新興感染症に対する危機感がなかったことは明らかです。

今回のコロナ禍で、皆はいろいろなことを学びました。今回のパンデミックが収まったとしても、また同じようなパンデミックが起こる可能性は高いと思われますので、今回のコロナ禍で得た学びを将来に活かすことは極めて重要です。

医療の業界も大きな打撃を受けました。なかでもCOVID-19の診療に当たる医療関係者のご苦労は大変なものがあります。コロナ対応病床の病床占有率が限界に達している状況で、緊急の措置がとられねばなりません。

なぜこんな状況になってしまったかをよくよく考えてみると、効率性のみを評価してきた社会の在り方に起因しているのではないかと思います。大学病院や地方の基幹病院は、手術や検査をたくさん行い、入院期間を短縮して、病床稼働率を上げることが評価につながる。しかも、短い入院期間と高い病床稼働率を維持することで、かろうじて経営が成り立つような診療報酬体系になっています。これは、何も起こらないことを前提にした「平時」体制です。災害が生じた時の「戦時」には対応できるはずがありません。また、医療が専門分化しすぎていることも、組織の硬直化を招いています。大学病院をはじめ基幹病院ほどその傾向が強く、COVID-19に対しては限られた診療科の限られた医療関係者が、限られたベッドや施設で対応しています。他の診療科が参加しようとしても、通常診療の患者さんで手いっぱいの医師が参入できない、できたとしても知識がない、技術がない。専門性は冷酷な二面性を持つのです。さらに指定感染症であるため入院診療が前提であり、かかりつけ医は参加できません。つまり、高い効率性を保たないと回らない「平時」体制が、今回の「戦時」に対応できないことが、現在の混乱を招いています。

まず今は、何とか感染の広がりを防ぐことに全力を挙げねばなりません。幸いなことにバイオテクノロジーの進歩により、驚くほど短期間のうちにmRNAワクチンが完成し、複数の国で接種が始まってます。ワクチン接種が広がることにより、集団免疫が形成されることを祈ります。しかし、現在の問題点を明らかにし、現状を変える大改革の準備を始めないといけない千載一遇の時期だとも思います。

医療の世界だけでなく、一般社会でも、消費行動の変化により経営が立ちいかなくなり、会社が倒産したりして失業者も出ました。消費者の行動が、「平時」と「戦時」で異なることを、皆が身に染みたことと思います。この教訓は、必ず時代に反映されると思います。コロナ禍が克服されたとして、決して同じ世界には戻らないと思います。アフターコロナ世界では、レジリエンス(復元力)がキーワードになると思いますが、グローバル経済が進歩し、サプライチェーンが複雑化した現状で生じたコロナ禍による経済の落ち込みから回復させるレジリエンスは何か。多くの人々が議論していますが、しばらくは新自由主義経済の反省に立った脱グローバリズムの流れになるでしょう。ただし、時代の振り子は、時として大きく振れすぎる場合があります。各国が自国中心的ナショナリズムに走り、少数の人々が大きな発現力を持つ時代が到来するかもしれません。

コロナ禍は地球規模の災害であり、現在は「平時」ではなく、「戦時」であると書きました。「戦時」であるほど、独裁者が登場することは歴史が証明しています。我々も、バランス感覚を磨いて、世界の動きに注目しなければなりませんが、特に、医療の世界に必要な改革において、一部の声の大きな人の意見のみで体制が変わることを阻止せねばなりません。

年頭のご挨拶としては重すぎる内容でしたが、なにとぞご寛容のほど。本年一年間もよろしくお願い申し上げます。

2021年1月1日

公益財団法人 痛風・尿酸財団 理事長
医療法人財団順和会山王メディカルセンター院長
山中 寿

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