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医学の地平線

第131号 アロプリノールとフェブキソスタットの心疾患への影響

アロプリノール、フェブキソスタット、トピロキソスタットなどの痛風・高尿酸血症治療薬は日常臨床で処方されることの多い医薬品です。アロプリノールを除き、日本で開発された点でも重要です。これらの薬剤はキサンチン酸化還元酵素(XOR)を阻害することにより尿酸産生を抑制し、痛風および高尿酸血症に対し治療効果を発揮します。

最近、スキャンダルを報じることで有名な雑誌がフェブキソスタットとアロプリノールの循環器疾患に対する記事を掲載しました。それには私へのインタビューの内容も含まれていますが、言ったこととは全く異なる内容になっています。このような雑誌の医学記事の信頼性については多くの人たちが疑問を持っていることは確かですが、信じてしまう人たちもいるのではないかと考え解説したいと思います。

このような記事を掲載した編集者と雑誌社は、もし理解能力が低いため書いているのならそれも大きな問題ですが、専門家が居て知っていて掲載したとすると、プロとしての良心を強く問いたいと思います。

アロプリノールとフェブキソスタットが心血管障害と心血管死を抑制するという論文が多数出ている

アロプリノールが心血管障害を改善し、心血管死を抑制するという論文は多数発表されています。2010年にLancetに発表された論文では、プラセボを対照として慢性安定狭心症患者に対しクロスオーバー法で1日600mgのアロプリノールを6週間投与しました1)。結果は、狭心症症状発現時間、ST低下発現時間、最高血圧、B型ナトリウム利尿ペプチド(BNP)に有意な改善が見られました。

2016年には、Propensity score法という洗練された統計的手法を用いた2つの膨大なコホート研究の結果が発表され、アロプリノール投与により心血管イベントは0.61~0.65に減少2)、全死亡は0.68に減少3)すると報告されましたた。また、アロプリノールとフェブキソスタットを含むランダム化比較試験(RCT)のみのメタ解析で、心血管イベントが減少(全イベント0.60、重篤イベント0.56)することが発表されました4)。すなわち、一般にXOR阻害薬は心血管イベントや心血管死を30~40%減少させると考えられます。

New England Journal of Medicineに掲載されたCARES研究

2018年にアロプリノールとフェブキソスタットについて3,000人を超える心筋梗塞後患者を対象とした大規模なランダム化試験の結果が発表されました(CARES研究)5)。発表によると、2つの薬剤間で心臓死、心筋梗塞、脳卒中、再手術などを併合した主要評価項目は二つの薬剤服用者で差がありませんでした。しかし、副次的評価項目の1つである心血管死亡がフェブキソスタットの方がわずかですが有意に多かったと発表されました。しかし、これは既に心臓死をかなり減らすことが多くの論文で報告されているアロプリノールとの比較です。偽薬との比較ではないことに注意が必要です。

しかし、この論文を詳細に読むと50%以上の患者は薬の服用を途中で中止しており、その後、追加調査で判明した199人の死亡例を加えると、アロプリノール群とフェブキソスタット群の死亡率の差は消えたと書かれています(どちらも10%程度)。更に、この論文のデータでは薬を服用している間の死亡率は約0.5%と発表されています。同じ年齢の平均的日本人男性(痛風患者はほとんど男性です)の死亡率が1.33%ですから、薬物服用中の死亡率は驚くべき低さです。これらの患者は重大な心血管障害患者なので死亡率は平均よりかなり高いはずです。

XOR阻害薬服用を中止した後の死亡の増加

CARES研究はその後、さらに脱落症例を含めた詳細な調査が行われた結果、死亡の90%は薬物を服用していない状態(off drug)で起きていたことが判明しました。FDAは製薬会社に全データの公開を要求し、そのデータが公開されています。われわれはそのデータを詳細に分析した結果、アロプリノール、フェブキソスタットを服用中の死亡率と比較して、いずれの薬剤も服用中止後約6か月の間は死亡率が増加していることを発表しました9)。もちろん死亡が近くなった患者は、一般的に重要ではない薬剤の服用率(アドヒアランス)が低下することが分かっていますが、それによる影響は通常1.6程度であり10、18倍もの上昇率や半年にわたる影響はそれだけではないと考えられます。しかし、この試験のように2年以上、死亡率が30-40%抑制されていて、それが中止後、抑制された死亡が現れるとすると18倍というのは妥当な倍率です。

この結果は、アロプリノールもフェブキソスタットも、服用中は大幅に心血管イベントや死亡率が低下しているため、中止すると服用中に抑制されていた死亡が現れるためと考えられます11。前述の通り、この論文の中でも薬物服用中の死亡率はかなり低下しています。

雑誌の記事では「飲み続けるのは地獄、止めるのも地獄」となっています。このようなセンセーショナルなタイトルは、多分、記者ではなく編集長が付けたのだと思います。こんな表現は使いたくないのですが、正しくは「飲み続けるのは天国、止めるのは地獄」という方がまだ正しいと思います。

なお、このような内容の解説記事はメディカルトリビューンにオンラインの記事として掲載しています。結論は雑誌社の記事と反対ですが。

そもそも、この記事を書いた記者は(1)論文をよく読んでない(この試験のドロップアウトが半分以上あり、その後、できるだけドロップアウトを調査し、死亡数を合計したら二剤の死亡率の差は消えたと書かれている)、(2)疫学統計の知識が乏しい(主要評価項目には差はなく、副次評価項目の一つに有意差が見られた)、そもそも、(3)他の文献を知らない(元々多数の論文により、アロプリノールもフェブキソスタットも心血管イベントや心血管死を30-40%減少させることが発表されている)のどれか、あるいはすべてであると思います。それよりも、差が無いという結論ではこの雑誌に掲載されないので結論を捻じ曲げた可能性の方が高いと思います。

もともと、このような雑誌の医学記事は信用すべきでは無いというのが結論ですが、一般の人たちが読んで信じることが心配です。そもそも、このような雑誌の記者に良心を要求する事が間違いだとは思いますが。ただ雑誌が売れれば良い、自分の給与が確保されればよいという事でしょうか。

文献

1)Noman A , et al. Lancet 2010; 375: 2161-2167.

2)MacIsaac RL, et al. Hypertension 2016; 67: 535-540.

3)Larsen KS, et al. Am J Med 2016; 129: 299-306.

4)Bredemeier M, et al. BMC Cardiovasc Disord 2018; 18: 24.

5)White WB, et al. N Engl J Med 2018; 378:1200-1210.

6)Kuwabara M. Arthritis Rheumatol 2019; 71: 479.

7)Kang EH, et al. Rheumatology (Oxford) 2019; pii: kez189.

8)Chen CH, et al. Clin Pharmacol Ther 2019; 106: 391-401.

9)Johnson TA, et al. Arthritis Rheumatol 2019; 71:1966-1967.

10)Granger BB, et al. Lancet 2005; 366: 2005-2011.

11)Johnson TA, et al. Front Pharmacol 2019; 10: 98.

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