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2019年11月06日

第130号 ライオンの脳は微分方程式を解いている

これから書くことは現在の科学の常識とかなり離れているので、読者が私の頭がおかしくなったと誤解しないことを望みます。科学的主張ではなく、単なる私の予測です。

私は以前から、将来、物理学、数学、生物学は融合すると予測していました。生物学の中でも、特に脳科学とゲノム科学が物理学と数学の理解のために必須となってくると予想しています。物理学や数学が脳の働きに依存していることは多くの人々が認めるでしょう。脳がゲノムシステムに依存して、これまで進化してきたことも自明です。しかし、人間の脳とは関係なく、正しい物理学や数学が存在するという考えも理解できます。

そこに最初の疑問符を突き付けたのはアインスタインによる相対性理論でしょう。例えば質量、距離、時間と言った物理学の基本的概念さえ、観察者と対象の関係によって異なるという主張です。どのような条件下でも、個々の観察者には物理法則が同じに見えるという事は、互いに静止状態に無い複数の観察者の観察データ間の整合性をとるためには、質量、距離、時間の相対性を仮定せざるを得ないという事実です。しかし、ここには人間の脳を関与させる必要は必ずしもなく、脳を持たない、光に反応する観察機械のようなものを仮定しても説明可能だったかもしれません。

物理学は必ず数学を使います。数学は基本として数の集合から二項演算、演算法則、単位元、逆元などを定義していく代数構造に依存しています。これにより群、環、体などの代数構造が定義されます。数の集合としては有限整数、整数、有理数、実数、複素数などを使います。物理学で一般に用いる実数は自然な数の集合である整数の有限の四則演算では定義できず、コーシー列の収束点、つまり無限級数の収束点として定義されます。我々はこのような数の集合と代数構造を自然に用いていますが、それはなぜなのでしょうか。

宇宙の歴史は46億年で単細胞生物は比較的早期に出現しています。しかし、ミトコンドリアを獲得し、巨大なエネルギーを消費できるようになった生物は多細胞化し、ついに感覚器、脳、筋肉を備えた動物に進化しました。そして外界から入力される情報に従い、移動できるようになったのです。

動物となった生物は、捕食者から逃げることと、自らが捕食者となり獲物を獲得する事が生死を分けるようになり、そのために感覚器、脳、筋肉のシステムは最適化されていったと考えられます。これは、入力、学習システム、出力、を含んだ人工知能システム、特に深層学習に極めて類似した構造と言えます。

例えば捕食者として考えると、獲物を捕食できた生物の脳のシステムは、その生物のゲノムを通じて子孫に伝えられます。それは出力の結果を成功と失敗に対応させ、成功する確率を最大にするシステムを構築していく学習機械に類似しています。

深層学習において出力により失敗、成功を判断するには線形回帰、ロジスティック回帰、またはクロスエントロピーを用いますが、それらはすべて基本的に最尤法を用いた尤度関数最大化です。数多くの成功例(教師)が例示された場合、それを達成する確率が尤度関数であり、その対数は負のクロスエントロピーとなります。負のクロスエントロピーの最大化、即ちクロスエントロピーを最小化する方向でのパラメータの最適化により尤度関数が最大化されるのです。成功例が例示されていない場合はエントロピーの最小化(教師無し学習)が行われます。ここで、正と負を間違えないようにお願いします。

捕食者が獲物を獲得するための方法を最適化するため、どのような方法を用いれば良いでしょうか。外界から得られる光のデータを網膜で受信し、その信号を脳で処理して筋肉に伝えるでしょう。獲物も捕食者も等速運動、あるいは加速度運動の末、捕食に成功、あるいは失敗するわけです。もちろん獲物はじっとしていませんし、捕食者の動きにより動きを変えます。どちらも等速運動ではない運動をしている場合、正しく獲物を捕らえるには無限級数の収束点を予測する必要があります。間違いなく、刻々と入ってくる光の情報を脳で処理し、ニュートン力学のようなものをもとに微分方程式のようなものを解き、その結果をもとに筋肉に出力する必要があります。微分方程式の解をまちがえた獲物と捕食者は死に、正解した獲物と捕食者は生き延び、そのゲノムを次世代にわたします。

私は、基本的に数学と物理は、人間が上記の捕食と獲物の関係で進化させた脳の構造をモデル化したものであると考えています。もちろん、人間はその構造を記号として書き表す能力を備えていますが、ライオンもその構造を脳内に備えている可能性があると考えています。

以上の予測は今のところ単なる私の想像です。しかし、それを確かめる手法が整ってきていると考えています。最大の手段はセンサー、コンピュータとロボットの高度化です。特に、深層学習とGPUは脳のシステムのシミュレーションを行うために大きな力を発揮すると考えられます。獲物捕食ロボットの研究からは、獲物と捕食ロボットのシステムに上記のような微分方程式を解く(数値的、数理的を問わず)ような構造が必然的に出現するでしょう。高度の数学的構造を備えた捕食ロボットは獲物を獲得でき、それができなかった捕食ロボットは獲物を獲得できません。今後、このような研究に量子コンピュータが大きな役割を発揮するのではないでしょうか。

ここで、獲物捕食ロボットシステムで、光を入力源としてセンサーからコンピュータに信号が送られ、出力をもとにロボットが動きますが、等速運動、加速運動時に異なったシステムが効果的かどうかは重要な関心事です。また光の速度も等速度と判断した方が良いかどうかも重要だと思います。おそらく、どのような捕食ロボットも獲物ロボットも互いの運動にかかわらず光の等速性と物理法則の等価性を仮定する事が最適行動になるのではないでしょうか。光があまりに早すぎるなら、遅い速度の情報伝達手段を用いて実験できるでしょう。これらの実験から得られる結果は特殊相対性理論、一般相対性理論にこれまでとは別の解釈を与える可能性があるのではないでしょうか(超相対性理論?)。

我々が日常生活で外から影響を受ける様々な効果は、動物がこれまで進化で受けてきた効果と類似しています。しかし、量子の世界や宇宙の世界は進化にあまり影響を与えていないと考えられます。従って、それらを記述する数学や物理学が常識では考えられない様相を呈する事は当然のことのように思われます。獲物と捕食の関係に最適化された数学と物理を用いて、それとは関係のない対象を取り扱っているからです。

私は今後、ゲノム学、脳科学、人工知能などの生物学の分野で、75年前、量子力学の扉を開いたシュレディンガーが予測したように、負のエントロピーの概念が重要になってくると予測しています。ゲノム、進化、脳活動の原理を示す尤度関数より、その対数である負のエントロピーの方が、はるかに生物が取り扱いやすいからです。また、それと対照的に宇宙論を含む非生物の分野で正のエントロピーの概念がこれまで以上に重要になっていくと考えています。例えば最近の、エントロピー増大法則により重力を説明するエントロピー重力(entropic gravity)の理論に注目しています。正のエントロピーが増大する宇宙の中で、負のエントロピーを生み出すシステムである生物が出現し、そこから進化した脳が外界を観察して解釈してきました。そしてこれから、外界を観察し、解釈する自分自身を理解し、解釈する事が重要な研究テーマになってくると予測しています。

クラウジスにより熱力学で定義され、ボルツマンとギブスにより統計力学的意義が明らかになり、シャノンにより情報学的解釈を加えられたエントロピーの概念と、フィッシャーにより遺伝法則に基づいて定義された尤度関数・最尤法の概念との等価性が認識され、無生物と生物を統一的に解釈する超理論が出現すると考えているのです。

最後に念を押すようですが、これを読んだ読者が、私の頭がおかしくなったと誤解しない事を切に望みます。おかしくなったのではなく、もともとおかしいのです。


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