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2018年07月17日

第123号 科学の主体を科学する

痛風財団理事長通信、2017.07.12第117号に「データサイエンスの歴史」のテーマで次のように述べました。http://www.tufu.or.jp/bbs/2017/1414.html

現実のデータを、科学を用いて解析する分野である「データサイエンス」は次のような歴史を辿っています。

遺伝学の時代 → 統計学の時代 → 情報学の時代 → 人工知能の時代

遺伝学の時代と統計学の時代の間では、「因果の自明性の放棄」が行われ、統計学の時代と情報学の時代の間では「結果から原因の確率を定義するというベイズの定理の容認」があり、情報学と人工知能の間では「脳がデータを解析する時代から、脳そのものを模倣する時代」に移行したと考えています。

現在は3番目と4番目の時代、即ち、情報学の時代から人工知能の時代に移行する途上にあるわけです。

人工知能は社会や産業に大きな影響を与えると予測されていますが、私はそれに勝るとも劣らず、科学そのものに大きな衝撃を与えると考えています。その理由は、科学を行ってきた主体が人間の脳であり、そのデータと情報の処理装置である「インテリジェンス」だからです。これまでの科学は、すべて脳にあるインテリジェンスを用いて、これを行ってきたのですが、今、そのインテリジェンスそのものを解析し、模倣する時代に入ろうとしているのです。すべての科学が脳にあるインテリジェンスに依存するにもかかわらず、これまでそれが脳に依存していることは不問にしてきました。その脳のデータと情報の処理方法を解析し、模倣する時代に入りつつある事は、科学が大きな変換点に差し掛かっていることを示唆します。

例えば、科学全体の論理構造を支えている「代数構造」があります。これは、最小単位である要素の集合から、要素間の二項演算、結合則、交換則、単位元、逆元などを定義していくものであり、数学や物理学だけでなく、生物を対象とする統計学の基礎を支えていることがわかっています。この構造は、脳の神経細胞群の構造と酷似しています。また、当然のことですが神経系を模して作られたニューラルネットワークや深層学習も同様の構造をしています。

人工知能はまず、神経系の構造を模して作られ、次に作られた人工知能の効率的な構造が神経系にも存在することが模索されます。このように、人工知能の研究と神経系の研究はエコーのように互いに共鳴しながら進歩すると予想されます。

それではそのような脳を作った主体は何かと言えば、ゲノムシステムです。アインスタインの脳であれ、ハイゼンベルクの脳であれ、ワンセットのゲノムデータを有する受精卵から、環境の影響を受けながらできたのです。そしてまた、進化を通じて選択され、増殖するゲノムのシステムもまた、上記の代数構造と類似したシステムとなっています。深層学習は基本的に最尤法を用いていますが、脳の学習も同様に最尤法に類似の方法を用いていることが示唆され、ゲノムシステムの選択と増殖も、同様の最尤法が用いられています。

人工知能や科学は脳が作ったものですが、脳はゲノムシステムが作ったものです。即ち、因果関係から見ると。

ゲノムシステム → 神経系システム → 人工知能、科学

という因果関係が存在します。

科学そのものの性質として、脳が認識できる対象しか取り扱えない、という特徴があります。そして、認識できる対象は、脳により時代により変化します。例えば、素粒子や宇宙の科学で取り扱う対象は、過去には脳が認識できなかったと考えられます。そのように脳の進化に影響しなかったと考えられる対象を、なぜ脳が力学などと同じ数学を用いて説明できるのかは興味ある問題です。

今後、科学には、それを行う主体である脳の科学が大きく影響すると考えています。そして、その脳を環境に影響され、ゲノムシステムがどのように作っていったのが次の研究対象となると考えられます。


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