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2015年05月12日

第98号 Change、それともvary

日本社会は「モノ」に比べ「情報」の認識力が弱いという特徴があります。モノと一対一対応をするデータはわかるのですが、そのような対応をしない状態を捉える力が弱いのです。そのため、サービス産業の生産性が向上しないという問題に直面しています。次の成長産業をどう育成するか、それには「情報」を正しく認識する力を社会全体が身につける必要があります。

この問題の本質的な部分に、現実世界において「変数」を認識しにくいという特徴があると言うのが私の考えです。その理由について解説したいと思います。

変数とは何でしょう。変わる数、変われる数、でしょうか。英語ではchangeable numberでしょうか。そうではありません。variableです。でも、variableの動詞形であるvaryも、意味は「変わる」なので同じ事ですね。やはり、「変数」とは「変われる数」なのでしょうか。

変数を現実世界に対応させる時、直感的にわかりやすいのは物理的な対象物の場合です。特に時間(正式には時刻)はそうです。時刻とともに変化する対象物、例えば、モノの位置も変数で代表するに相応しいと言えます。一人の身長は年齢とともに大きくなります。年齢も身長も変数として考えることで、その関係を論じることが出来ます。このように、物理的対象物について、日本人の「変数」の認識には問題はありません。確かに、物理学における数学の応用において、日本人の貢献は目覚しいものです。

しかし、変数、variableの動詞形、varyには、「変わる」以外の、もう一つの意味があります。それは、「異なる」の動詞形です。個人個人の身長が異なる時、これをvaryと言います。そして、その形容詞形がvariableで、数学では同じvariableが名詞として用いられています。日本人にわかりにくいのは、「異なる」の意味でのvariableです。一人の身長が次第に大きくなる場合、「モノ」としての対象物が同じなので、身長を変数とすることに問題はあるません。しかし、「モノ」としての対象物が異なる、複数の個人の身長を一つの変数として捉える事には違和感を覚えるのではないでしょうか。しかし、確率論や統計学で出現する「変数」のほとんどが、このような概念を意味しています。

例えば個人の身長はそれぞれ異なりますが、それをa variableと定義するのです。この場合、むしろ「変化する数」である「変数」より、「多様数」とでも訳すべきかもしれません。Varyの名詞形、variationには「変化」と同時に「多様性」の意味があります。ただし、この「数」という訳にも問題があります。現実の対象物には「数えられるもの」と「数えられないもの」があるからです。これは英語を話していると明確に認識できる違いです。後者には、単数形と複数形の区別が無いからです。

日本の研究者が物理学での数学の応用に優れているのに、医学生物学(多分、人間が関与するほかの分野でも)では劣っている理由はここにあると考えられます。日本の研究者は「変数」を、時間とともに(あるいは空間とともに)変わっていく対象物に適用する事には優れているが、集合の要素一つ一つで異なる対象物に適用することが不得手なのです。

指摘するまでもなく、これには日常生活で現実対象物を「定冠詞か不定冠詞か」「単数か複数か」「数えられるか数えられないか」という吟味を繰り返す習慣が無いことが関係していると考えられます。ある意味では、英語で現実対象物を考える場合、より数学の対象になりやすいと言えます。むしろ、英語(あるいはラテン語系)を話す人々が現在の数学を作ってきたので、現実社会の対象物に数学を適用する場合、彼らに有利になっているのかもしれません。

変数と対応する概念は、値(value)です。変数と値を現実対象物について区別することは最重要の事項ですが、この違いは不定冠詞と定冠詞の区別と類似しています。それも、「変わる」という意味より「異なる」という意味でのvariableに対応します。Height of a Japaneseは変数ですが、height of the Japaneseは値です。

不定冠詞は定冠詞に比較して、このように集合に属する要素の「任意の一つ」という意味合いを含んでいます。「モノ」としての対象を特定せずに、抽象的な実態を対象とします。これが、「情報」を捉えるための基礎になります。この感覚が理解できれば情報を捉えるための大きな一歩を踏み出したことになると思います。対象が集合の中の任意の一つである場合の冠詞は「a」であり、一つの要素に「定まれば」、冠詞は「the」になります。変数が「値」になるのです。

次回は、「変数、値、パラメータの区別」について説明します。


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