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2014年09月01日

第80号 半導体産業の衰退から学ぶこと

前回、半導体産業の衰退について述べた理由は、同じ構造の現象がこれから日本の他の産業にも起きる可能性があると考えるからです。大成功を収め、世界の半分以上の市場を支配し、そろそろ成功体験に基づいた自叙伝でも語ろうかなと考えた頃には、既に崩壊の危機が足元まで迫っている可能性があります。

これまで何人かの人達による半導体産業衰退の原因分析がなされています。共通して指摘される要因は、有形のものへのこだわり、物作り偏重の考え方です。

半導体産業の競争力激化により大規模で、巨大投資ができ、設計変更にも迅速に対応できるファウンドリーと、設計とソフト力に優れ、製造ラインを持たない複数のファブレス企業に分離すべきでした。つまり巨大なモノづくり部門と、軽量の設計部門に分離すべきだったのです。しかし、日本企業はそれがわかりながら、ファウンドリーを手放すことを拒否するのです。

日経テクノロジーOnlineの「ものづくり礼賛が阻んだ半導体産業復活の道:電子立国は、なぜ凋落したか」、という記事の中で、西村吉雄氏は次のように嘆いています。

日本では「ものづくり」の礼賛が神話的、信仰的だ。「日本経済を発展させるためには『ものづくり』の力を強化しなければならない」。相変わらず産学官挙げて、こう合唱している。…日本の総合電子企業は「生産現場を持っていないと『ものづくり』の強さを維持できない」と言い、ファウンドリーに固執する。そうして経営陣はファブレスの切り離しを見送る。日本企業は、設計と製造を統合したまま、半導体事業全体を切り離す。そしてひたすら衰退した。

http://www.nikkei.com/article/DGXMZO75789720Y4A810C1000000/

また、日経BizGateの中で、泉田良輔氏は「競争ルールを知りながら負けた、日本の半導体産業の深層」と題し、次のように述べています。

日本企業は有形なもの、つまりハードウェアへのこだわりが強すぎるのではないかと考えている。…日本企業の負けパターンを見る限りでは、日本企業がハードウェアそのもので優位性を確立していても、競合企業や新規参入企業が仕掛ける「高次元化による競争領域のシフト」で負け続けている気がしてならない。これは、ハードウェアの優位性を取り込みながら、システムで競争優位を確立するという戦い方である。日本企業は目に見えるハードウェアやデバイスへのこだわりが強い一方、そうしたハードウェアがシステムの中でどのような位置付けにあるのかと考える機会が少ないように思う。

http://bizgate.nikkei.co.jp/article/77521815.html?n_cid=TPRN0002

私は日本企業がモノづくりに固執する要因に、モノづくりが好きなだけではなく「情報の価値を認識する力が弱い」ことがあると考えています。これは日本社会の特徴であり、困難ではありますが問題点を正しく認識した上で教育により改善できると考えています。例えば、半導体産業の例で言えば、企業はファブレスに専念しても世界で競争力を保つための設計能力に関する自信が無かったため、ひたすらファウンドリーの切り離しを拒否したのではないでしょうか。ファブレス企業として成功するためには並外れた独創的な企画力、設計力、ソフトウェア開発力が必要なためです。それにはモノとデータだけではなく、情報を認識する能力が不可欠です。

確かに我々が確実に認識可能なモノやデータに固執し、認識困難な情報を拒むことは心地よい事かもしれません。しかし、モノにひたすら固執し、情報の認識を拒めば半導体産業だけではなく多くの産業に衰退の危機が訪れる可能性があります。そうすると日本の産業の未来図を描くことが困難になります。自分たちの心地よさのために我々の子孫に犠牲を強いることが本当に良いことなのでしょうか。モノやデータに比較して情報が嫌いな理由は、単にそれを認識する力が弱いからだけなのです。それは教育によって改善できます。今や、日本はこの問題に対し、全力で取り組むべきです。


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