痛風・尿酸ニュース

がんにおける高尿酸血症

山内 高弘(福井大学 病態制御医学講座内科学(1) 血液・腫瘍内科 教授)

痛風発作は関節炎ですので、足の親指の付け根など好発部位といわれる関節に赤みと腫れ、そして激烈な痛みを生じます。多くの場合患者さんは整形外科やリウマチ・膠原病専門の先生がたを受診されるでしょう。痛風の原因物質である尿酸はプリン体の最終代謝産物で、肉類やアルコール摂取などに関連します。栄養学、薬学、分析学の先生がたのご指導が必要となります。尿酸が食事摂取等と関係するとなれば、高尿酸血症はいわゆる生活習慣病の周辺疾患とみなされます。糖尿病、代謝内科の先生がたの守備範囲になります。尿酸はその名の通り腎臓から排泄される物質であり、腎機能と密接な関係があります。腎臓内科、薬理学、生理・生化学の先生がたのご専門領域です。尿酸値が上昇すれば尿路で結石となって激痛を生じます。泌尿器科の先生がたのご加療が必要です。さらに近年、尿酸そのもの(あるいは尿酸代謝にかかわる酵素)による血管内皮や心筋などの細胞障害作用が見出され、尿酸と高血圧、心不全、心房細動との関連が注目されています。循環器内科の先生がたにお願いすることになります。また、消化器疾患でのトランスポーター機能低下が高尿酸血症につながることが明らかにされました。さらに、アルツハイマー病やパーキンソン病などの神経変性疾患では尿酸値と発症率の間に負の相関が認められています。このように尿酸はありふれた物質でありながら、かくも多くの専門領域に関連する、非常に特殊な存在であることがわかります。

尿酸は私が専門としております血液学・腫瘍学の領域でも重要です。がんの治療は大きく、手術、放射線照射、薬(抗がん剤)の3種類に分かれます。私は内科医で、薬を用いてがんを治療することを生業としています。手術で取り出すことのできない白血病などの血液がんでは抗がん剤や骨髄移植が治療の根幹ですし、固形がんの中でも進行の早い肺がんでは手術可能例の割合は多くなく、同様に抗がん剤治療が主体となります。白血病は血液がんの代表で、急性白血病ですと発病時には体内に約1 kgのがん細胞が存在すると考えられます。これは細胞数1012個に相当します。抗がん剤によりがん細胞を死滅・崩壊させるのですが、その際がん細胞の内容物が体内に流出します。その流出物の一つにプリン体があるため、抗がん剤治療に際して高尿酸血症を生じる危険性があります。これを腫瘍崩壊症候群といいます。腫瘍崩壊症候群での尿酸値は40 mg/dLといった一般には見られないような高値となることがあり、急性腎不全を生じ致死的となるため、極めて迅速な対応が必要になります。近年、従来とは全く作用メカニズムの異なる新規抗がん剤が次々と登場し、いままで薬が効かったがんに対しても驚くべき効果を発揮できるようになりました。しかし、効果が出るとはがん細胞が死滅する、すなわち高尿酸血症の危険性が高まると推測されます。私達は従来腫瘍崩壊症候群の危険性が低いとされる多発性骨髄腫で新薬使用により高尿酸血症発症率が高まることを報告しました(Oiwa, et al. Anticancer Res 2016)。これは我が国の「腫瘍崩壊症候群治療ガイダンス改訂第2版(発刊予定)」にて「Oiwaらは自施設で治療を行った多発性骨髄腫64例について腫瘍崩壊症候群発症についての解析を行っている」と以下8行に亘り引用されました。ところでがん細胞は倍々に分裂増殖する一方、数パーセントはアポトーシスで自滅しています。そうなるとがん細胞量が多ければ死滅細胞も多くなり、高尿酸血症が生じやすくなるはずです。この点について、私達は白血病患者で尿酸値が高いほど治療成績が良くないことを報告しました(Yamauchi, et al. Anticancer Res 2013)。この論文は米国のNCCN guideline acute myeloid leukemia (米国での急性骨髄性白血病治療ガイドライン)2020で「Serum uric acid and lactate dehydrogenase have prognostic relevance and should be evaluated、尿酸値と乳酸脱水素酵素値は予後に関わる因子であり、測定されるべきである(文献:Yamauchiら)」と引用していただいています。

このように血液やがんの分野も、高尿酸血症が合併症であったり、尿酸値が予後因子であったりと、尿酸と深い関わりがあります。これからも公益財団法人 痛風・尿酸財団や日本痛風・尿酸核酸代謝学会の皆様からたくさんのことを学んで血液・がん診療に応用し、そののち血液・がん診療で得られた新知見を尿酸の分野に還元することができればと考えております。今後ともどうぞご指導のほどよろしくお願いいたします。

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