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第119号 田川高校での講演

2017年10月21日、母校の福岡県立田川高校で講演した内容を書きます。

皆さんこんにちは、私は鎌谷直之と言います。この高校を丁度50年前に卒業した、あなた達の先輩です。今日は、田川高校の前身である田川中学が設立されて100周年になります。それを記念し、お話をさせていただきます。

 

最初に生徒の皆さんに質問をしたいと思います。

この中で、田川高校に誇りを持てるという人、手を挙げてください。

それでは、自分の将来に自信が持てるという人、手を挙げてください。

最後に、日本の将来に希望が持てるという人、手を挙げてください。

 

今日の講演の目的は、あなた達全員が、この三つの質問に本心からイエスと答えられるようにすることです。また、今日の講演が、あなた達一人一人の人生に少しでも役立つことを願っていますので、しっかり聞いてくださいね。

田川高校について

それでは、まず、田川高校についてお話します。

省略

日本の未来、世界の未来について

それでは、ここで日本の未来、世界の未来についてお話したいと思います。

あなた達が世の中で活躍する時は早くて5年後、実際に活躍する時は10年、20年後でしょう。その時、日本はどうなっているでしょう、世界はどうなっているでしょう。これは、あなた達の将来に大きく関係することですよね。将来がわからないで行動するのは不安なものです。未来をある程度わかれば準備ができます、計画も建てることができます。

未来を予測する上で最も良い方法は、過去から現在までどのように経過したかを調べることです。かつて、田川は炭鉱で栄えた地域でした。多くの人は炭鉱で働いていました。我々の生まれる前には、田川から日本一のお金持ちが出るほど、炭鉱が栄えていたんですよ。当時、石炭産業は鉄鋼、繊維産業とともに日本の産業の中心でした。しかし、その後、炭鉱は急速に衰え、現在、筑豊に炭鉱はありません。鉄鋼産業、繊維産業もその後、下火になっていきます。日本の産業の中心は、その後、造船、電気、半導体と移っていき、現在は自動車産業が中心になっています。石炭産業のように完全に無くなったわけではありませんが、産業の中心はこのように急速に変化して来ました。

産業だけではなく、我々の生活も急速に変わって来ました。パソコン、携帯、インターネット、スマホ、これらは全て、我々が高校生の頃は、無かったものです。我々が小学校の頃はテレビもありませんでした。皆さん、これらが全くない生活を考えてみてください。このように、産業も日常生活も気づかないうちに大きく変わってきたんです。ということは、これからも現在から未来に向かって、産業と生活は大きく変わると予想されます。10年後、20年後の産業と日常生活は現在とはかなり違うものになっているでしょう。

それでは、これから具体的にどのように変わっていくかをお話ししましょう。未来を予測する上で私が大切にしている法則が二つあります。

第一の法則は「悲観的な予測は外れることが多い」、「楽観的な予測は当たることが多い」と言うことです。これは経験的法則ですが、考えてみれば当然のことです。なぜかと言うと、我々は未来を予測する時、現在得られるデータだけで予測するからです。これから未来に向かって新しい発見、新しいアイデア、新しい技術の発明がでてきます。今後、出て来る新しい発見、アイデア、技術により悲観的予測の中の大きな問題が解決される事はしばしばあります。従って、「悲観的な予測は外れることが多い」、「楽観的な予測は当たることが多い」と言うのはある意味では当然のことです。それに関して、これから日本に関して悲観的予測をする人が多いですよね。これからの日本は人口減少社会、少子高齢化社会が来るであろう。そうすると働く若い人が減ってきて、産業も衰えていくだろう。そうすると不況になり、失業も増えて日本は衰退するであろう。

確かに、人口減少と少子高齢化については、私もそれは正しいと思います。しかし、その後の予測は全く違います。少なくとも皆さんは、間違いなく仕事にありつけると思います。むしろ、皆さんの仕事はいくらでもあるでしょう。安心してください。その理由は働く若い人の数が減るからです。しかも、これから無くなる仕事がありますが、新しい仕事がでてきます。そして新しい仕事は若い人しかできないことが多いんです。だから、あなたがたには必ず仕事はあります。安心してください。ただし、あなた達がやりがいのある仕事につけるか、ある程度報酬の良い仕事につけるかは別の話です。

それでは、どうすればやりがいのある仕事、ある程度報酬の良い仕事につけるでしょうか。それはあなたが10年後、20年後の社会が要求する能力をこれから身につけることができるかかどうか、そしてあなたがチャレンジできるかどうかにかかっています。後ほど、どのような能力が要求されるようになるかについて解説します。またチャレンジの大切さについても解説します。

未来を予測する上で大切な第二の法則は「最先端の技術が大衆化する」と言うことです。例えば、40年前、私は大型コンピュータを使っていろいろな研究をしていました。また、30年前にはアメリカと日本のコンピュータを結んで通信を行なう研究をしていました。しかし、そんなことをやっている研究者は科学者の中でもほんの一部でした。これを科学者のほとんどが、ましてや一般の人々が行うようになろうとはほとんど研究者は考えませんでした。しかし、皆さん、今は誰でもパソコンを使い、スマホで自由に通信してますよね。あなた達のスマホは当時の最先端のコンピュータよりはるかに性能がいいコンピュータなんですよ。あなた達のスマホを使った通信環境は当時よりはるかにいいんですよ。つまり、過去の最先端の科学研究が、現在大衆化しているということです。ということは、現在の最先端の科学研究が未来に大衆化すると予想できます。

我々は現在、人工知能を様々な分野に応用するという最先端の研究を行っています。ということは、10年、20年後には人工知能が全員のスマホに入って、皆がそれを自由自在に使うことになると思います。あなた達が仕事にも、遊びにも、日常生活にも自分で人工知能を自由自在に使う日が来るということです。

次に、我々は多くの人の遺伝子とデータをコンピュータで分析して治らない病気の薬を探しています。また、それぞれの人の遺伝子からどの薬が合うかを予想する研究を行っています。ということは、将来、一般の人々が自分の遺伝子の配列をスマホに保管し、治らない病気の薬を探す仕事を手伝うようになると思います。そして、自分が病気になった時、家族や友人が病気になった時も、それぞれに合った薬や治療法を自分たちで探すために、スマホに入ったあなた達の遺伝子を使うようになると思います。更にスマホに入ったあなたの遺伝子と日常生活の詳細な記録を元に、人工知能を使って、健康な日常生活、最適な行動を予測するようになるでしょう。

もう一つ、あなた達の将来に大きな影響を与える可能性が高い内容についてお話します。それは、組織と働く人の関係です。50年前に田川高校を卒業した私たちの同級生のほとんどは、一生、同じ職場で定年まで勤めることは当然のことでした。それぞれは予め引かれた一本のレールの上を進むような人生だったわけです。しかし、あなた達が仕事で活躍する10年20年後には、職場を変えるのは当たり前のことになるでしょう。仕事の内容さえ、途中で大きく変えることになるかもしれない。例えば一つの会社に就職しても仕事がつまらないため辞めることもあるだろうし、リストラされることも、あるいは会社自体が無くなることもあるかもしれない。更には、会社に務めるのではなく、自分だけで、あるいは少数の仲間と仕事をする人も増えるでしょう。つまり、これまでとは違って、変化に富む、ある意味ではこれまでより不安定な人生になる可能性があります。従って、あなた達はそれに備えた心構えが必要になると思います。

未来に必要な心構えについて

それでは、未来に必要な心構えについて次にお話しします。これから、日本は大きく変わると言いました。そこで、あなた達には変化に強い、変化に動じない人間になって欲しい。むしろ変化を楽しむような心構えを身に着けてほしいと思います。

人生は長い。これからあなた達は、私もそうであったように大変な精神的ストレスに合うこともあると思います。落ち込むこともあるでしょう。絶望的になって、もう生きていてもしょうがないと思うこともあるかもしれない。失敗して行き詰まることもあるでしょう。そういうとき、どうしたら良いか。

どうしようもなく落ち込んだ時は、自分の人生をゲームのようなものだと思ってください。パソコンゲームやスマホゲームのようなものだと思ってください。ゲームであればリスタートボタンがあるでしょう。あれを押してください。あなたの人生は、いつでもどこでもリスタートボタンを押せるんです。そうして、次の環境で、また全力を尽くして頑張ってください。そうすると必ず誰かがあなたを助けてくれます。これを是非、覚えていてください。

未来に必要な能力について

次に、10年後、20年後の社会が、あなた達にどのような能力を要求するかについてお話します。それは「自分で考える能力」です。考える能力の他に記憶する能力が有ります。記憶する能力も非常に大切な能力です。しかし、今後、記憶することは我々の脳に代わって、スマホやコンピュータがしてくれます。

でも「自分で考える」といっても難しいですよね。そこで、これから、「考える」という事を分解します。我々は自分の脳だけでは考えられません、何かを外界から脳に入れて考える必要があります。外界には何があるでしょう。外界には「モノ」があります。モノを我々の脳に入れて考えます。しかし、モノは脳には入りません。脳には「データ」が入ります。コンピュータも同じです。コンピュータには「モノ」は入れることができません。「データ」がコンピュータの中に格納されます。しかし、データを入れただけでは考えた事にはなりません。データはいくらでもコピーすることができるからです。これからは三次元プリンターを用いれば、モノさえもコピーすることができるでしょう。コピーできるモノとデータの価値は段々と下がっていきます。

「モノ」や「データ」の価値が下がっていくとすると、これから価値が出るのは何でしょう。これからは、データとデータの組み合わせ、あるいは関係づけによってできる「情報」が最も価値ある存在になります。従って、あなた達に必要とされる能力はこの「情報」を理解し、「情報」を生み出す能力です。

それでは「情報」を理解するために、あなた達は今、何を勉強したら良いのでしょう。数学でしょうか、理科でしょうか。高校の教育でも最近は情報の科目があると思います。しかし、実は高校の色々な教科の中に「情報」を理解するヒントがあります。例えば、英語の中にヒントが有ります。

先程、外界には「モノ」があると言いましたよね。日本語では「モノ」は一つの種類ですが、英語では二つの異なった種類の「モノ」を明確に区別します。それは数えられるモノと数えられないモノです。例えば、りんご、appleと、水、waterです。りんごはapplesと複数になれますが、水はwatersと複数になれませんよね。つまり、モノにはりんごのように数えられるものと、水のように数えられないものがあります。可算名詞、非可算名詞と言います。

情報を理解するためには数学そのものでは無くても、ある程度、数学的な考えかたが必要です。数学は「数」を取り扱います。数には、整数、分数のように数えられる「有理数」と、ルートやパイのように数えられない「無理数」があります。このように、外界の「モノ」を「数」に対応させるためには、数えられるか数えられないかを把握することが非常に重要です。これが、情報を理解するための第一歩です。

次に、りんごの代わりに生徒について考えます。あなた達は、studentsですよね。しかし、単数になるとstudentです。単数のstudentにも二種類があります。定冠詞と不定冠詞の区別ができます。a studentまたはthe studentです。

はい、そこの一番前の君、あなたはa studentですかthe studentですか。もちろん、あなたは特定の生徒ですから、the studentですよね。それではa studentとはこの中のだれでしょう。誰でもありませんね、この中の一人の誰かということになります。しかし、特定の生徒ではありません。不特定の一人です。それではthe studentの身長はいくつでしょう。君の身長はいくつですか。171cmですか。The studentの身長は171 cmです。それでは、a studentの身長はいくつでしょう。そう、a studentの身長はxです。変数xです。The studentの身長は171 cmという値です。しかし、a studentの身長はxです。この変数(x)の概念をモノとの関係で理解して初めて、データとデータの組み合わせや関係づけと言う概念を理解できるようになります。つまり、情報が理解できるようになります。

はい、私はここで、英語と数学を「がっちんこ」、しました。これでみんな情報がよくわかるようになったでしょ?

今、あなた達の言いたい事を代弁しましょうか。「鎌谷先生の言うことは難しすぎて、いっちょんわからんばい」

わかりました。それでは、わかるようにヒントをあげましょう。これは数学の勉強のコツにも関係します。

以前は、数学を勉強する目的は計算能力をつける事でした。しかし、計算は最近はスマホでできます、コンピュータでできます。新しい数学の目的は、あなたの頭のなかに、考えるための構造を作る事です。つまり先程の、情報を理解し、生み出すための構造をあなたの頭のなかに作ることが数学の目的です。

そこで、今日は数学を勉強するための秘密のコツを教えます。正確に計算する能力を身につけるためには、完全に理解した上で次に進んだ方がいい。しかし、頭のなかに考え方の構造を作るためには着実に進むことより、むしろ全体の構造をぼやっとでもいいから先に理解したほうが良いといえます。実は、数学は理解する前はこんな難しいものはない。しかし、理解した後はこんなに簡単なものはないという教科です。

皆さん、建物を建てるときのことを考えてください。ぼやっとでもいいから全体の構造がわかったほうがいいですよね。全体の構造がわからず建てていくのはしんどい。実は数学は、少しでもわかりそうなら、わかったふりをすることが大切です。自分を騙してわかったと思いこめば成功です。わかったふりをして先に進んでみてください。先のことがちょっとでもわかると、以前勉強したことはずっと簡単になります。わかったふりをするというのは、自分を騙すのです。そうすると、先の勉強をしているうちに、それがわかるようになります。

ほらね、もう私の言った、英語と数学の「がっちんこ」がよく分かるようになったでしょ。ちょっとでもわかるところがあったら、わかったと思いこんで他の勉強をしてください。そうすれば、いずれ、もっとよく理解できるようになります。

実は、生物学の中にも情報を理解するための重要な素材があります。皆さん、遺伝子について知っていますね。遺伝子は生物の中でも一番大事ですよね。それでは、この遺伝子は「モノ」でしょうか、「データ」でしょうか、それとも「情報」でしょうか。実は、遺伝子は「モノ」であり、「データ」であり、そして「情報」です。遺伝子は、「モノ」としてはDNAという物質です。しかし、データとしてはTCGAの配列です。

しかし、モノやデータだけでは遺伝子の意味はありません。病気などの表現型との関係が大切です。この病気などの表現型とデータとの関係が「情報」です。遺伝子の配列も、表現型もどちらもデータですが、その関係づけが実は重要な「情報」なんです。DNAや配列がわかっただけではあまり役立たないですよね。

今回は英語、数学、生物学について話しましたが、高校の教科の中にはこの他にも「情報」を捉える素材が一杯あります。是非、皆さんも自分の見るもの、読むものを「モノ」「データ」だけではなく「情報」として考える習慣を作ってください。そうすれば新しい社会で飛躍的に能力を発揮できます。

ここで、情報を考えるために一つの良い具体例を示したいと思います。あなた達はiPhoneを知っていますよね。iPhoneは今から10年前にApple社から発売されました。もう亡くなりましたがSteve Jobsが指導して発売したスマホがiPhoneです。発売直後に日本の大手電気会社ではiPhoneを購入して分解して徹底的に調べたらしいです。そして、日本の技術者は分解されたiPhoneを見てこういったそうです。「何だ、他社の部品を寄せ集めただけじゃないか。こんなものなら誰でもできる」と。これは単に「モノ」としてみた場合のiPhoneの価値です。しかし、日本の技術者のことばを伝え聞いたSteve Jobsはこういったそうです。「だから、あなた達にはiPhoneはできないんだ」と。これは、色々なところで書かれている内容なので本当の話かどうかわかりません。しかし「モノ」を重視する日本の大手電機会社の技術者と、「情報」を重視するSteve Jobsの大きな違いがよく分かるエピソードです。iPhoneの中に入っているパーツの組み合わせと、それに搭載されているソフトウェア、更にはiPhoneを活用こそが「情報」なのです。みんなは、モノが良いからiPhoneを買っているのじゃないですよね。自分にとって価値が高いから買っているんです。これからは「モノ」や「データ」の価値だけではなく、「情報」の価値が重要な社会になります。

チャレンジする事の大切さについて

最後に、みなさんにチャレンジすることの大切さをお話したいと思います。100%うまく行くとわかっていることをやるのはチャレンジとは言いません。うまく行く可能性はあるが100%うまく行くかどうかわからないことをやるのがチャレンジです。

これまでの日本社会ではチャレンジすることはあまり歓迎されませんでした。それは、これまで日本が安定して、非常にうまくいっていたからです。既に敷かれた一本のレールの上を着実に進むような人生が歓迎されました。安定した社会では「出る杭は打たれる」といいます。「若者がトンピンだして、いらんことしてかきまぜる」と言われがちでした。しかし、しばらくすると、日本は今までより不安定な社会になると私は予測をしています。行き詰まる可能性もあります。しかし、あなた方は心配ない。大人は困るかもしれませんが、私は若い人はむしろ活躍できる時代になると考えています。

こういう社会ではチャレンジは社会全体にも歓迎されます。不安定な社会、行き詰った社会ではチャレンジすることが有利です。そういう時は、若い人たちにはチャンスです。是非、チャレンジをしてほしいと思います。私は60歳でチャレンジをはじめました。若いあなた達にチャレンジができないわけがない。チャレンジすれば失敗することもあります。失敗したら落ち込みます。その時は前に言った「リスタートボタン」を忘れないでください。

そしてチャンジに有利なのは、あなた達のような田舎もんです。変革は辺境から生まれると言うのは、例えば明治維新を見ればわかります。あの時も、非常に安定してうまくいっていた江戸時代から、急激に不安定な社会になって、日本は行き詰った。それを改革したのは皆な端っこの人々です。本州の端っこの山口、九州の端っこの鹿児島、四国の端っこの高知に住んでいた田舎侍たちがチャレンジして日本の危機を救ったんです。中枢にいる人達には大きな変革はできませんでした。その理由は、中央にいると問題の本質がわからない。また失うものが多すぎて現状を変えられません。更にはお互いが足を引っ張りあって前に進めません。つまり、あなた達田舎者がチャレンジするためには最も有利です。

今の、日本の状況は私がアメリカに住んでいた30年前とよく似ています。私がアメリカにいる頃、アメリカは社会全体が衰退していました。その理由は、産業が衰退していたからです。それは日本に負けたからです。まず繊維産業で日本に負けました。鉄鋼で日本に負けました。造船でも負けました。引き続き、電機産業で日本に負けました。そして、半導体産業で日本に負けました。最後に、自動車産業でも日本に負けました。当時のアメリカは、先端産業で日本に徹底的に負けていました。それまではアメリカは世界最高の電気産業を、半導体産業を、自動車産業を誇っていたのに、日本に完全に破れたのです。アメリカにはもうめぼしい産業はあまり残っていませんでした。

産業が壊滅的な打撃を受けたため、アメリカ中の都市で混乱が起きていました。多くの都市では犯罪が頻発し、アメリカ最大の都市の一つロサンゼルスでは暴動により1週間に渡り全都市が無法地帯になりました。軍隊が出動し、ようやく暴動を鎮圧することができたのです。このような混乱がアメリカの各都市で起きていました。世界の殆どの人達は、そしてアメリカ人たちも、アメリカはこのまま衰退していくと思っていました。

当時、日本は逆にライジングサンともてはやされ、ジャパンアズナンバーワン、つまり世界一の国になると考える人達もでるほどでした。日本企業は世界のトップに君臨し、アメリカの多くのビルや土地を買い占めました。東京の山手線の内側の土地の値段で、アメリカ全土を買えるという試算もなされました。それに比較し、アメリカは老大国で復活は難しい国とみなされていました。

しかし、アメリカは復活しました。どうして復活したのでしょう。日本に負け衰退した電気産業、半導体産業、自動車産業を復活させたのではありません。復活を主導したのは若い人たちです。あなた達のような若い人たちがチャレンジしてアメリカを復活させたのです。若い人たちが大人にはできない、全く新しい産業を起こして復活させたんです。多くは情報産業と呼ばれる産業です。チャレンジしないとこんなことはできませんよね。具体的にはアップルのスティーブ・ジョブズ、マイクロソフトのビル・ゲーツ、グーグルのブリンとページ、アマゾンのベソス、フェイスブックのザッカーバーグなどなどです。他にも数え切れない若者たちがチャレンジをしました。すべて、若者が自分の創意工夫で会社を起こし、アメリカの産業と経済を完全に建て直したのです。

実は、今の日本の状況は20年から30年前のアメリカによく似ています。新興国に負け、従来産業が衰退していっているように見えます。せっかくアメリカから奪い取った産業が、今度はアジアの新興国に逃げていっているようにも見えます。それはアメリカが自分たちで作った産業を日本に奪い取られた歴史を繰り返しているようにも見えます。当時、衰退したアメリカの復活はもうないとほとんどの人が考えていました。このまま徐々に衰退を続けるものと思っていました。しかし、あれだけダメだと思っていたアメリカは若者のチャレンジ精神により完全に復活しました。

歴史を調べれば、アメリカの産業や社会現象のほとんどが10年か数十年遅れで日本にやってくることがわかります。それによると、これから10年後くらいから日本の若者がチャレンジ精神で日本の産業を復活させると予想されます。その内容はアメリカのような情報産業かも知れないし、場合によっては現在存在しない産業かもしれません。その主体は、もちろんあなた達です。私は根拠の無い予想をしているのではありません。いい加減な希望的観測を話しているのではありません。過去の歴史に基づいて、過去に起こったことと同じようなことが起こると言っているのです。産業や日常生活の分野で、アメリカで起きた事は、ほとんど必ず10年20年後に日本で起こると言っているのです。

日本の戦後の復活を主導したのも新しい産業を起こしたチャレンジャー達です。例えば松下幸之助、本田宗一郎、井深大、盛田昭夫、かれらがチャレンジ精神で会社を設立し、日本の産業を復興させたのです。

はい、これで今日の私の話はおしまいです。今日の話が、皆さんのこれからの人生に役立てば幸いです。

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