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2015年01月19日

第90号 サービス産業の生産性を上げるには?

我が国は欧米先進国と比較してサービス産業の生産性が低いことが問題とされています。製造業従事者が減少し、サービス産業従事者が増加するとともに、日本の産業全体の生産性が低下する傾向が見られるのです。モノづくりである製造業だけでなく、人間を対象としたサービス産業を高度化する事が喫緊の課題です。どのようにすればサービス産業の生産性を上げることができるでしょう。

製造業の生産性が高い理由は、それが科学とそれを基礎にした技術に基づいているからです。科学を基礎にしているため、時代とともに進歩し、系統的に教育を施すことにより、付加価値の高い商品を生産することができるのです。サービス産業の生産性を高めるには、サービス産業のための科学と技術の進歩と教育が最も大切です。

科学には記述的な部分もありますが、何と言っても、唯一の世界共通言語である数学が大切です。しかし、製造業のための数学とサービス産業のための数学は異なるのです。これまで我が国は製造業のための数学に重点を置いてきましたが、これからはサービス産業のための数学にもそれに勝る力を注ぐ必要があります。

製造業の対象である「モノ」は確実で均一です。それに比較して、サービス産業が対象とする「生き物」は不確実で多様です。ここに、違いの本質があります。「モノ」を対象とする物理について考えてみましょう。物理が対象とする時間と空間の最大の特徴は、変数の値が並んでいることです。例えば、時刻の変数をtとするとtの値は連続的に並んでいます。距離をxとするとxの値は連続的に並んでいます。このように連続的に並んだ対象を取り扱うには微分積分が極めて有用です。

しかし、サービス産業が対象とする「生き物」は並んでいません。変数であるxは、例えば個人の身長ということになります。もちろん、背の高い順に並んでもらうことは可能ですが、そうすると体重が並んでいないことになります。このように並んでいない対象物を取り扱う場合、微分積分以外の数学が必要です。それが確率統計学です。物理でも、それぞれの分子を区別して考える場合は並んでいないので、確率統計学が必要となることもありますが、稀と言えます。

確率統計学を学ぶ上で最も大切な事は計算法や数式ではなく、「不確実性と多様性」を科学的に取り扱うための「概念の習得」です。計算や数式はこれからはコンピュータが取り扱います。コンピュータによるシミュレーションなども多く取り入れ、概念を理解し、それを現実世界に適用する事を「実感を持って納得する」ことが重要です。

確実性を前提とした科学に習熟した人々は、しばしば不確実性を前提とした確率統計学には怒りを伴う反発を示します。実感が持てず、納得ができないからです。統計力学の創始者であるボルツマンに対する物理学界の冷たい反応、ハイゼンベルグの不確定性原理に対してアインスタインが示した怒り(神はサイコロを振り給わず)、分子生物学者がしばしば疫学統計の研究に対して示す怒りがそれに相当します。日本の製造業がGoogleやFacebookなどに感じるいらだちも、そのようなものかも知れません。「モノを作らない企業なんて、所詮産業とは言えない」と考えているとしたら、日本にはサービス産業に必要な科学の教育が根付いていないと言えます。

不確実性と多様性を対象とした数学の教育不足は、今や製造業とみなされる企業にも悪影響を及ぼしています。あれだけ機械製造技術が進んだ日本の医療機器がなぜ世界で主流にならないか、あれだけ化学の発達した日本からの創薬がふるわないか、これにも同じような理由が存在すると考えられます。今や、モノづくりである製造業にも、サービス産業のための科学が重要な役割を果たす時代が来ているのです。


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