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2014年09月11日

第83号 がんゲノム研究の現場と大局(2)

前回はMTAP欠損が1982年に人間の体内のがん細胞で証明されましたが、29年後にMTAP欠損家系が発見され、GWASでがんとの関連が発見され、初めて統合的意味が理解できたことを述べました。

それでは私の研究のきっかけになったKnudsonによる網膜芽細胞腫の遺伝子はどうなったでしょうか。実は家系の分析から1986年に実際にKnudsonの予言した遺伝子、Rbが取り出されたのです。最初のがん抑制遺伝子の発見です。Knudson発表の15年後です。Rbの場合は家系があったのでがんに対する関係はゆるぎないものだったのですが、MTAPの場合はRb遺伝子発見より4年早いのですが家系が見つからなかったので完全な証明には至らなかったのです。

Rb遺伝子発見後、中村先生達のAPC、三木先生たちのBRCA1遺伝子発見がなされましたが、いずれも家系が先に存在したから可能だったのです。このように、がんゲノムの研究においては遺伝病とがんからの統合的理解が重要です。これからはGWASのデータも統合する必要があります。

我々がMTAP欠損がんに注目した理由は、個別化医療が可能と考えられたからです。1981年にSelective killing of human malignant cell lines deficient in MTA..という論文を発表し、in vitroでMTAP以外のATP供給経路を抑制すればMTAP欠損癌細胞だけを選択的に殺すことができることを示しました。今から33年前です。最初のがんの個別化医療の提案だったと思います。この治療法は現在海外で第II相試験が終了したところです。

私は多数の新薬の治験調整医師、治験責任医師などを務めましたが開発の最初から関わったものはMTAP欠損がんの個別化医療を含め3つです。他の2つは、白血病治療薬cladribineと痛風治療薬febuxostatです。この2つとも世界で承認され広く用いられています。3つの新薬とも疾患と遺伝子との関係が重要な役割を果たしています。そこで、疾患と遺伝子との関係に学べば、新薬開発成功率2.5/3 = 5/6と自称しています。新薬開発の成功率が低い理由は「ボールの周りに群がる」からです。新薬開発は着想から実現まで10年、20年の長丁場です。その時ボールがある場所に行っても遅いのです。次にボールが来る場所で待ち、10年、20年後に評価されるものをターゲットとする必要があるのです。

新薬が承認される唯一の根拠は人間における有効性と安全性です。In vitroの実験や動物での結果はほとんど役に立ちません。非臨床から臨床に入る時点で、第三相試験の結果である有効性と安全性を予測できなければいけないのです。第三相の結果で、安全性に大きな問題がなく有効性の検定でP < 0.05となることを非臨床の段階で予測できなければならないのです。10年、20年後を予測できずに成功率を上げることができるはずはありません。それを支えるのは人間における因果についての洞察力です。

 

(続く)次は、「次にボールが来る場所はどこか?」です。


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