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2014年08月25日

第79号 新しい産業に対応するための教育(16)日本の産業界が次に目標とすべき企業

今日はNHKスペシャルのお話から始めます。NHKスペシャルはその時々の社会の問題を鋭い視点で描く優れたシリーズですが、時には後々まで禍根を残す内容を放送することもあります。最近のSTAP細胞に対する報道もその一つである可能性があると考えています。今回、まず取り上げるのは1991年、華々しくシリーズで放送されたNHKスペシャル「電子立国日本の自叙伝」についてです。自動車産業と並んで半導体産業は日本の誇る産業の花型である。半導体は産業の米であり、日本の繁栄もそれに支えられたものである。などの、日本の半導体産業の礼賛に終始したシリーズです。

私はそれを見て、日本の半導体産業は大丈夫かな、と感じました。その理由は、つまるところ欧米の後追いであるにも関わらず、繁栄の上に満足し、現状の礼賛に終始しているように見えたからです。半導体産業やリーダー達へのお追従のような表現も気になり、次の世代の産業を貪欲に追う姿勢は感じられませんでした。案の定、この放送終了後の日本の半導体産業の惨状は眼を覆うばかりです。今こそ、半導体産業の衰退の原因を徹底的に分析し、これからの日本のコア産業のありかたを考えるための材料にすべきでは無いでしょうか

泉田良輔氏は日経BizGateで「競争ルールを知りながら負けた、日本の半導体産業の深層」という記事を掲載しています。日本の半導体産業が負けた原因として「日本企業が有形にこだわり、無形であるシステムの思考ができない」ことをあげています。「日本企業は目に見えるハードウェアやデバイスへのこだわりが強い一方、そうしたハードウェアがシステムの中でどのような位置付けにあるのかと考える機会が少ないように思う。」と述べています。

泉田氏の指摘は、私がこれまで指摘してきたことと類似した内容を多く含むと感じます。私は日本痛風財団理事長通信で日本社会がモノやデータは認識できるが、情報を認識する力が弱い事を繰り返し指摘しています(例えば、「情報はデータとは違う」、http://www.tufu.or.jp/bbs/2014/849.html)。モノやデータに基いて行動する場合、「数理と論理」に基づく「情報」を根拠に行動を行うのではなく、「直感や情緒」に基いて行動を選択するする傾向にあることを指摘しています。

情報を認識する能力、即ち、不確実性と多様性を前提にモノやデータの関連を数学的に認識する能力は教育により可能だと考えています。泉田氏の指摘する、「有形にこだわり、無形であるシステムの思考ができない」という日本社会の特徴を「有形であるモノも、無形であるシステムも思考することができる」ようにすることが可能です。

日本の近代科学、産業の多くは近代科学の進歩や産業革命に世界最初に成功した欧米の後追いであり、それは間違ったことだとは思いません。アジアの国々の産業が日本の模倣にすぎないとぼやく前に、日本の産業自体も欧米の産業の後追いであることは認めざるを得ないのでは無いでしょうか。もちろん、日本独自の工夫は加えられては居ますが、後追いによって完成した日本の産業が、アジアの国々に後追いされることは覚悟しなければならないと思います。あれほど日本以外には達成不可能と感じられた造船、家庭電気、半導体の繁栄が現在の状態になると誰が予測できたでしょうか。従って、日本は常に現状に満足せず、危機感を持って次々に欧米の新産業の後追いをすべきなのです。

私は、ずっと前から、日本が次に後追いすべき企業はグーグルであると主張しています。アップルやマイクロソフトではなく、グーグルなのです。絶対に真似できないと感じられる技術こそ、理想的な模倣のターゲットなのです。何とか真似出来そうな技術は、すぐに他のアジアの国々に真似されるでしょう。

グーグルの知識、思考方法、人材、研究開発、事業方針を徹底的に分析し、学び、いずれは追い越すべきなのです。グーグルがもっと小さい時に、いくらお金を払っても買収すべきでしたが、企業買収はもはや不可能でしょう。しかし、人材を引き抜き、退職者を雇用すべきです。グーグルを単なる広告会社や、ただのICTの会社としか捉えられないようでは、心もとない限りです。また、ICTの会社だけがグーグルの研究をするのも十分ではありません。自動車会社、建設会社、電気電子会社、ヘルスケア会社など日本社会のほとんどの会社が、グーグルの研究を行うのです。

グーグルに学ぶためには前述の「情報」を認識できる能力が不可欠であり、今の日本社会では残念ながら特に不足している部分なのです。BrinとPageがPageRankアルゴリズムを基軸に、どのように会社を発展させたかを徹底的に解析し、丸裸にすべきです。

日本がGEに学んで電機産業を繁栄させ、フォードやGMに学び自動車産業を繁栄させ、インテルやテキサスインスツルメンツに学んで半導体産業を繁栄させたように、グーグルに学び超高度の情報技術を取得すべきです。それは、ICT産業だけではなく、製造業や医療を含めたすべての産業に大きな利益を与えるでしょう。そのための教育と研究に資金と労力を惜しむべきではありません。


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