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2014年05月26日

第73号 新しい産業に対応するための教育(13)深刻な問題の解決には論理と数理を

日本人は、モノは明確に認識できるが、情報を認識することが不得意であると前述しました。情報を論理的、数理的に認識せず、直感的、情緒的に認識する傾向があると述べました。そして、その傾向が、「確率」の概念の認識不足に起因するものであり、言語にも反映されていることも述べました。確率の概念は人間が関与する出来事に不可避な、不確実性と多様性の把握に必要です。それを克服するために教育を変えるべきだと言う私の主張を述べました。

これに対しては反論もあるでしょう。もしそうであっても、それでいいではないか、と言うご意見が出そうです。確かに、全国的な「ゆるキャラ」の大人気などを見ると、直観と情緒も悪くないと思わないわけではありません。私は娯楽や恋愛などに直感と情緒がいけないと言っているわけではありません。論理と数理を娯楽や恋愛に応用するべきだというような野暮なことは言いません(恋愛が深刻な結果をもたらす場合はこの限りではありません)。しかし、「深刻な問題」に直感と情緒で対処することが問題だと主張しています。これから、深刻な問題に、直感と情緒より論理と数理を重視すべきという具体例を述べたいと思います。その典型は例えば戦争です。

第二次世界大戦では連合国側に3人の天才数学者が参加していたと考えられています。チューリング、ウィナー、ネイマンです。チューリングは暗号解読、ウィナーは機械制御、ネイマンはデータの統計解析を行っていたと考えられます。現在のコンピュータはチューリング機械と呼ばれます。また、今でもチューリング賞はこの分野で最も栄誉有る賞の一つです。機械が計算できるものとできないものを判別する理論を構築したのがチューリングです。彼の所属する英国の暗号解読部隊は早々と敵国の暗号を解読し、小出しに米国にも教えていたようです。ウィナーはサイバネティックスの創始者です。フィードバック制御の概念を打ちたて、様々な分野に影響を与えた偉大な応用数学者です。ネイマンはヨーロッパから米国に初めて統計学を伝えた人物です。現在の統計学における検定と推定理論は基本的にネイマンの提唱した理論に基づいています。カリフォルニア大学バークレー校が今でも応用数学の拠点となっているのは、ネイマンの功績も大きいと考えられます。

日本ではモノに注目が集まる傾向があるので米国の兵器や弾薬などの物量が最大の勝因であるような印象が強いのですが、私はこのような「情報」も大きな影響を与えたと考えています。しかし、日本人にはチューリング、ウィナー、ネイマンに代表される「情報」の部分は見えにくいのではないでしょうか。

暗号が解読され、自分たちの作戦が敵国につつぬけの状態で戦争に勝つことは難しいでしょう。機械制御理論についても同様です。日本人は自分たちが最高と考える機器を作るためだけに集中する傾向があります。しかし、兵器には相手があります。攻撃と防御の結果のデータを常にフィードバックして修正を行う必要があります。現場でデータを瞬時に論理的、数理的に分析し情報に変え、最適化を繰り返す必要があります。ウィナー流の制御理論を応用する側に、職人芸的な傾向を持つ側が時が経つに連れかなわなくなるのは理解できます。作戦の立案についても同様です。大和魂が作戦立案に影響する側が、予期せぬ出来事の可能性も取り入れてネイマン流に統計学に基いて作戦をたてる側より不利になることは理解できます。そして重要な事は、当時の日本側にはチューリング、ウィナー、ネイマンに代表される情報の重要性が理解できなかった可能性があるということです。自分たちに認識できるモノとデータのみを重視し、それらをコントロールする情報が理解できなかった可能性があります。それは実は、現在でも同じことが言えるかも知れません。

以上は戦争の例ですが、わかりやすいと思うので戦争を例に説明をしました。私は戦争には大反対です。論理と数理を本当に理解する人は、戦争をせずに対話と交渉で解決することを最優先すると思います。戦争が始まるのは、政治家が直感と情緒に基づいた決定を行うか、社会の人々の直感と情緒に押し流され、あるいはそれを利用して政治家が決定を行う場合です。我々有権者は、直感と情緒により行動する傾向にある政治家を選挙で選ばないように注意すべきです。また、社会が直感と情緒に支配され好戦的にならないように注意すべきです。

次回は戦争以外の例を出して説明します。


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