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2014年04月22日

第66号 新しい産業に対応するための教育(8)敵の情報と顧客の情報

情報の中でも、自分たちに都合の良い情報と都合の悪い情報があります。都合の良い情報は「チャンス」です。チャンスは重要な情報です。しかし、自分たちに都合の悪い情報も大切にすべきです。即ち「リスク」です。都合の悪い情報があれば不利益を避けることが出来るかもしれません。しかし、未来の不都合な情報は不安の元にもなります。リスクは正しく把握し、それに対処する必要があります。大きなリスクを見逃すことは破滅につながりますが、微細なリスクに過剰反応することは無用の不安のもとです。しかし、日本人はリスクの大きさを判断するのが不得意だと思います。そのため、無用な不安に陥ることが多いのではないでしょうか。

最大のリスクは自らの生命に関するものです。敵が攻めてくるというのは人類の歴史で最大のリスクの一つだったと思われます。この場合の情報の伝え方について日本語と英語で比較してみます。日本語だと「敵が来る」ですが、英語だと「 An enemy comes.」か「Enemies come. 」のどちらかを使い分けなければなりません。特定の敵である「 The enemy comes.」という表現もあります。しかし「敵が来る」では対処のしようがないのではないでしょうか。 An enemyなら当然、戦います。相手が一人なら、勝てる可能性は十分あります。 Enemiesなら逃げる事を考えなければならないでしょう。多勢に無勢です。それなのに、「敵が来る」では不安が増すだけです。それはリスクの大きさがわからないからです。迫り来るリスクの情報が十分でなければ、その場にいる誰かに従うしか無いでしょう。自己判断より群集心理が働きやすい環境ができると考えられます。このように日本語はリスクが「あるかないか」を伝えるのに適当かもしれませんが、リスクの大きさを判断するために必ずしも有効ではないように思われます。何回も繰り返しますが、このように 100%では無い場合、その大きさを判断する習慣が日本社会に少ないように思われるのです。正しい情報は自己判断を行うために不可欠なものです。

日本人が敵の情報を分析する事に最大の関心を払わない傾向があるという事実は、戦争中の暗号解読にかける熱意、体制、成果を欧米と比較するとわかります。第二次世界大戦中にイギリス軍が敵の暗号解読にかけた体制は並大抵のものではありませんでした。実際に、日本の暗号は簡単に解かれていましたが、敵の暗号を日本軍が解いていたという例は知りません。日本国内では敵の情報より内部の論理が優先する傾向にあるのではないでしょうか。暗号解読はまさに敵の情報を知るための最大の手段です。情報の公開が原則の社会では、以前の「正しい情報を独占していること」から、「情報の正しさを判定する方法」と「解明により得られる情報」に重点が移ったことを前回述べました。これはもちろん、暗号解読を意識してのものです。暗号解読においては偽の暗号を見破ることが何より大切です。また、暗号そのものには意味はなく、解明して得られる情報に意味があるのは当然のことです。

このように相手の出方をあれこれ分析するよりも、内部の整合性を優先する傾向は、国内では評価が高く仕事の効率も上がるでしょう。しかし、それは相手の動向が重要になってきた最近の産業では大きな問題ともなりかねません。競争企業に命を奪われることはありませんが、売上や利益を奪われることから考えると、敵と言えます。敵軍の情報解析技術は、そのまま競争企業の情報分析に応用できるでしょう。更に、他人は敵とは限りません。敵の情報を分析する技術は敵以外にも有効です。そのまま顧客の情報を分析する事に応用できます。近未来にどのような商品を顧客が欲するかを予測することは、近未来に敵がどのように攻めてくるかの予測に似ています。

頑強な予測は不確実性と多様性を前提とした論理と数理により可能です。しかし、日本では直感と情緒に頼ることが多いのではないでしょうか。それは不確実性と多様性を前提とした概念に、実感と納得が得られないからではないでしょうか。論理と数理で推定された確率はデータが増えれば増えるほど正確になります。それに反し、直感と情緒はいつまでたっても改善されることはありません。

「敵が誰であろうが大和魂で団結すれば負けることが無い」という信念は、「良いものを作れば必ず売れる」という信念と似ていないでしょうか。敵が攻めてくるというリスクの客観的解析は、顧客が商品を欲するというチャンスの客観的解析に通じると思います。大和魂は確かに日本軍にパワーを与えたと思いますが、敵の情報を詳細に、客観的に分析する事において、日本軍は遅れをとっていたのではないでしょうか。職人気質は確かに良い物を作るためのパワーになったに違いありませんが、近未来の世界の顧客の好みの客観的分析が多少日本の産業に欠けていたのではないでしょうか。

 

次回は、日本の科学、教育における不確実性と多様性の概念の不足です。


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