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第60号 新しい産業に対応するための教育(2) 情報の価値の変化

インターネットの発達により重要な情報が変わった

インターネットを始めとする様々な情報伝達ツールの発達により、情報の意味は大きく変わりました。これまで情報は、確実なものが多かったと思います(中にはインチキ情報もありましたが)。確実な情報を知るか知らないかが極めて重要でした。情報伝達手段が発達していなかったので情報を知るか知らないかについて大きな不均衡があったわけです。そのような情報の不均衡を利用して、特定の集団が大きな利益を上げることが多かったものです。

しかし、情報伝達ツールの発達により状況は激変しました。特定の集団が情報を独占することが極めて悪いことだと考えられるようになっています。例えば公表していない会社の情報を特定の人々に伝えることはインサイダーという犯罪と認識される可能性があります。公共工事の情報を特定の集団に伝えることは汚職のおそれがあります。医薬品の副作用の情報を隠せば製薬会社の命取りにもなりかねません。医師が治療前に、安全性や有効性に関する情報を患者さんにできる限り開示することは当然の義務になっています。つまり、情報は出来る限り公開すべきであるという原則が出来上がっているのが現在です。

情報公開が進んだ現在、情報についてもっとも重要な点は「情報の正しさを判定する方法」と「解明により得られる情報」です。これが個人にとって重要であり、またこれからの日本の産業にとって最重要の課題です。まず、公開されている情報のそれぞれが正しいかどうかを判定することが重要になっています。これまでは、誰が言うから正しいという他人依存的な方法で情報の正しさを判定していたと思います。お上の情報を信じていればまず間違いないと言えたかもしれません。自分で判定する必要がある場合、「直感と情緒」を用いることが多かったのではないでしょうか。しかし、これからは論理と数理によりその正しさを判定する必要があります。正しい判定ができる方法を保有したり提供したりする企業は大きな利益を得ることができます。また、そのような方法により得られた情報を利用する企業も大きな利益を得ることが期待されます。

次に重要な点は「解明により得られる情報」です。データは原則として公開されているのですから、それは隠すほうが悪いのです。しかし、それらのデータを用いて論理と数理により得られる情報は価値があります。例を言えば暗号解読です。暗号文自体は単なるデータで公開が原則ですが、それを論理と数理により情報に変える事ができれば大きな力となります。時には国家の命運を左右するほどの影響力があるでしょう。インターネットの世界では、個人個人の見たいホームページをデータの数理的解明により提供する企業があります。グーグルです。この方法によりグーグルは大きな利益を得、その情報を利用した企業も利益を得ることができます。新薬の開発には安全性と有効性の予測が肝要です。得られるデータから、それらを予測し、成功確率の情報を得られれば製薬会社にとっても患者さんにとっても大きな利益となります。医師にとって、それぞれの患者さんの治療結果を予測できれば最適な医療を行うことができます。現在では他人の推薦をそのまま信じたり、直感と情緒に頼って治療を行ったりしているのが現状だと思います。以上のような、データを解析して得られる情報は単に観察されたデータを眺めるだけでは得られません。論理と数理を駆使した解明が必要です。

残念なことに現在の日本社会は、このような「価値ある情報の変化」に対応していません。つまり、「情報の正しさを判定する方法」の価値を高く評価せず、「解明により得られる情報」を得るための活動が弱いと考えられます。情報産業というと、単にデータを伝達したり(情報土管産業)、データを蓄積したり(情報溜池産業)に重点が置かれているのではないでしょうか。

なぜ日本ではこのような活動が低調なのかを次回から説明し、それを克服する方法を提示したいと思います。

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