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2013年12月25日

第51号 30年来の楽しみ

研究には色々なやりかたがある。現在、学会等で最も注目されているテーマに挑む研究もあれば、将来を見越して先取りする研究法もある。私はどちらかというと後者が好きである。先取りした研究成果を発表しておけば、将来、それが脚光を浴びる可能性も低くない。その間、楽しみに待つ事が出来る。現在、注目されている研究に挑めば競争相手も多く、成功するにはハードワーク、研究資金、運などが必要である。現在あまり注目されていないが将来注目を浴びるテーマを対象とすれば必ずしもそれらは必要でない。しかし、最初は注目されていない分野をテーマとするので、将来、それが実現した時、以前の自分の成果を社会に知らせる必要がある。もちろん、将来注目される事を予測できなければいけないので幅広く深い知識と洞察力が必要である。

1980, 1981年に私はヒトの悪性細胞株の23%に核酸関連酵素、methylthioadenosine phosphorylase (MTAP)が完全に欠損している事を発見し、この欠損が癌の増殖と関連している事を示した(1,2)。1982年、この欠損は患者体内の悪性細胞で起きている事を発表した(3)。この研究は登氏(三重大学教授)に引き継がれ、多くの悪性細胞で(Gliomaの75%, 非小細胞肺癌の31%, 白血病の10%)染色体9p21の領域の欠失が見出された(4)。欠失の無い場合はメチル化の変化によるmRNAの発現低下が見出された。この領域にあるCDKN2A, CDKN2Bは機能から癌抑制遺伝子である可能性が疑われたが、MTAPについてはそれほど注目が集まっていなかった。しかし、多くの癌ではMTAP遺伝子も同時に欠失しており、MTAP遺伝子も癌抑制遺伝子である可能性が高かった。しかし、その証明は容易では無かった。

2012年に特殊なhistiocytomaの5家系にMTAP遺伝子の変異が発見され、発見以来30年以上後に、MTAPが癌抑制遺伝子である事が確実になった(5)。ヒト癌細胞におけるMTAPの完全欠損が発見されたのは最初の癌抑制遺伝子RBの発見(6-8)より前の事である。

実は私にはもう二つ楽しみがある。一つ、即ち第二の楽しみはMTAP欠損癌細胞をターゲットにした癌の個別化医療である。1981年にin vitroでMTAP欠損癌細胞のみを選択的に殺す治療法を発表していた(2)。これは、癌の体細胞変異をターゲットにした最初の個別化医療の提案ではないかと思う。現在、この治療法は治験第II相の段階である(9)。現在の薬物でこの個別化医療が成功するかどうか分からないが、いずれ有効な治療法が開発される可能性は高いと思っている。

第三の楽しみは正常体細胞の体細胞変異についての論文であるが、これについては詳しく述べない。これは癌ゲノム、iPS細胞の臨床応用の研究により、その重要性が明らかになると予測している。

  1. Kamatani N, Carson DA. Abnormal regulation of methylthioadenosine and polyamine metabolism in methylthioadenosine phosphorylase-deficient human leukemic cell lines. Cancer Res. 1980 Nov;40(11):4178-82.
  2. Kamatani N, Nelson-Rees WA, Carson DA. Selective killing of human malignant cell lines deficient in methylthioadenosine phosphorylase, a purine metabolic enzyme. Proc Natl Acad Sci U S A. 1981 Feb;78(2):1219-23.
  3. Kamatani N, Yu AL, Carson DA. Deficiency of methylthioadenosine phosphorylase in human leukemic cells in vivo. Blood. 1982 Dec;60(6):1387-91.
  4. Nobori T, Miura K, Wu DJ, Lois A, Takabayashi K, Carson DA. Deletions of the cyclin-dependent kinase-4 inhibitor gene in multiple human cancers. Nature. 1994 Apr 21;368(6473):753-6.
  5. Camacho-Vanegas O, Camacho SC, Till J, Miranda-Lorenzo I, Terzo E, Ramirez MC, Schramm V, Cordovano G, Watts G, Mehta S, Kimonis V, Hoch B, Philibert KD, Raabe CA, Bishop DF, Glucksman MJ, Martignetti JA. Primate genome gain and loss: a bone dysplasia, muscular dystrophy, and bone cancer syndrome resulting from mutated retroviral-derived MTAP transcripts. Am J Hum Genet. 2012 Apr 6;90(4):614-27.
  6. Benedict WF, Murphree AL, Banerjee A, Spina CA, Sparkes MC, Sparkes RS. Patient with 13 chromosome deletion: evidence that the retinoblastoma gene is a recessive cancer gene. Science. 1983 Feb 25;219(4587):973-5.
  7. Cavenee WK, Dryja TP, Phillips RA, Benedict WF, Godbout R, Gallie BL, Murphree AL, Strong LC, White RL. Expression of recessive alleles by chromosomal mechanisms in retinoblastoma. Nature. 1983 Oct 27-Nov 2;305(5937):779-84.
  8. Friend SH, Bernards R, Rogelj S, Weinberg RA, Rapaport JM, Albert DM, Dryja TP. A human DNA segment with properties of the gene that predisposes to retinoblastoma and osteosarcoma. Nature. 1986 Oct 16-22;323(6089):643-6.
  9. Kindler HL, Burris HA 3rd, Sandler AB, Oliff IA. A phase II multicenter study of L-alanosine, a potent inhibitor of adenine biosynthesis, in patients with MTAP-deficient cancer. Invest New Drugs. 2009 Feb;27(1):75-81.

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