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2013年12月17日

第49号 近藤誠氏の「がんもどき」理論について

慶應大学の近藤氏が「がんもどき」理論を展開している。近藤氏の本を読んだことが無いので誤った解釈があれば訂正してほしいが、早期がんは進行がんにならないという理論のようである。従って、放置した方が良いという説のようである。

これに対し、多くのがん治療の専門家からは強い反論が提出されている。そのような誤った理論により多くの早期がん患者の寿命が短縮されている、という批判である。

近藤氏の説は全く誤りであり、論じるに値しないと主張する医師もいる。しかし、私は、近藤氏の説を否定することは容易ではないと考える。そこには、人間に関する情報、特に医療と健康に関する情報に常に付きまとう大問題があるからである。個人の多様性を考慮すれば、記述による命題の真偽判定は、常に矛盾をはらんでいる。

がんもどき説はある患者には正しく、別の患者では間違っている。もし、近藤氏が、早期がんが進行することはないと断言するなら、それは余りにも傲慢な態度と言えるであろう。人間の多様性を認めるならば、一部の観察から全てを予測することの危険性が理解できるはずである。逆に、全ての早期がんが進行がんになるという主張も承諾しがたい。進行がんになる前に死亡する場合もあるであろう。

従って、近藤氏の、早期がんは進行がんにならない、という説は正しい。実際にその様な患者がいるからである。しかし、早期がんが進行がんになるという説も同時に正しい。実際にその様な患者がいるからである。このように、個人の多様性を認めると、どのような命題の真偽判定も不可能となる。

このように、医学的判断の多くは量的解釈がないと無意味である。即ち、統計的解釈が必要である。もちろん、個人の患者にとっては進行がんになるかならないかは決まっている可能性がある。しかし、問題はそれを事前に知ることが可能かどうかである。多くの場合、事前に結果が予測できることは稀であり、予測できるという主張も科学的な根拠に乏しいことも多い。個別化医療は確かな統計学に基づいたものでなければならない。

ただ、問題は、このような統計学に基づいた説明を患者が理解できるかどうかということである。実は、医師もそれを適切に説明できるかという問題もある。分子の話や、少数例の証拠に基づき断定的な説明をしがちである。

これからは、医師の説明にも統計的解釈が必要になる。日本の教育に不確実性と多様性を理解するための内容を増やすべきである。


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