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第44号 DiversityとVariationの違い

二つの対象の間が異なる状態を示す名詞として「差異(difference)」ということばが用いられるが、二つ以上の対象が存在する場合、diversityということばとvariationということばが用いられる。その他にもvarietyなどのことばがあるが、これらの名詞の日本語訳は「多様性」である。日本社会では対象物が「様々」であることへの関心は高くなく、「均一」を良しとする傾向がある。例えば全員が同じ制服を着て、そろって行動する事を美しいとみなす傾向が無いだろうか。従って多様性に関する概念は充実していないし、訳語も一つぐらいしか思いつかない。

英語もdiversityとvariationの間には多少のニュアンスの違いがある。日本語ではどちらも「多様性」と訳される。生物多様性の場合、「diversity」が用いられるが、同一種(例えば人間)の中の違いは「variation」の方が好んでもちいられる。前者の方が対象物間の違いが大きい傾向があり、後者は対象物間の違いが小さい傾向がある。Diversityは対象間の違いを強調した概念であるが、variationは共通性の中の対象間の違いを表わしている。

個人の間の違いを表わすにはやはりdiversityよりvariationの方が適当だと思う。個人の違いは確かにあるが、元はと言えば共通祖先に由来するわけだし、色々な面で共通性も多い。利害が対立する場合もあるが、話し合いで解決できないわけではない。かつての日本のように共通性ばかり強調し、「均一」を最大の善とする社会は最悪であるが、かといって個人の間があまりに離れたり、分集団化して対立が深まったりするのも困りものである。

Diversityとvariationのもう一つの違いは、対象物の分析に有効な手段の違いである。Diversityの場合、対象間の違いが大きいため、分析には記述的な方法がもちいられる事が多い。つまり、文章である。それに比較してvariationは数学的方法がもちいられる事が多い。即ち、統計学である。統計学は「variationを対象とする科学である」とされるが、diversityは対象としにくい。統計学に必須の「分布」の概念は、対象物間で共通に成り立つ理論の存在を要求するからである。遺伝学(genetics)は「遺伝(heredity)」と「多様性(variation)」を対象とする科学であるが、diversityを対象とするのはむしろ生態学や動物学か?

均一が望ましくないのはもちろんである。しかし、多様性が大事な事はわかるが、その後の事も考えておいた方が良い。社会が分断して対立するような事は避けておいた方が良い。特に、人間社会の場合は多様性と同時に共通性の重要性を認識する必要があると思う。しかも、情緒的、感情的にではなく客観的、理論的に多様性と共通性を把握する必要があると思う。前者の把握で不十分な理由は、感情や情緒は状況により強い影響を受け、激しく振動するからである。

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