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2013年09月25日

第41号 グーグルが本格的に医療に進出

グーグルは新たにヘルスケアの新会社、Calicoを設立すると発表し、現アップルの会長アーサー・レビンソンをCEOに置く人事を発表した。レビンソンは最も成功した創薬ベンチャーの一つであるジェネンテック(もう一つはアムゼン)の会長(前CEO)でもある。レビンソンはアップルとジェネンテックの会長を継続すると言う。

Calico設立に際し、グーグルのCEOであり創設者の一人であるラリー・ページは「病気や老化は我々のすべての家族に影響を与える。しかし長期的な視点から画期的な考え方をもってすれば、医療やバイオテクノロジーを進化させて、我々は何百万もの命を改善できる」とのコメントを発表している。またアップルのCEOであるティム・クックも声明を寄せて「友人や家族の多くが、早く亡くなったり、困難な生活を余儀なくされている。レヴィンソン氏はこうした状況をどうにかしたいと考えている人物の1人である。この使命をリードするうえで、彼ほどの適任はいないだろう。」としている。クックの頭には偉大なアップルの創始者の一人であるスティーブ・ジョブズの早すぎた死があったに違いない。

多くの人々は唐突に感じるかもしれないが、私は以前よりこのような方向性を予測していた。グーグルの設立者の一人、ブリンの妻、アンが社長を務める23andMeにグーグルは多額の出資をしていたからである。23andMeは99ドルで消費者の遺伝子解析を行う業務を遂行している。しかも、個人からの膨大な情報を収集している。この金額で利益が出るはずは無いので、何かに使おうと計画していたに違いない。

更に、医学や医療における情報の重要性が急上昇している事を考えればグーグルのヘルスケアへの進出は自然な流れとも言える。例えば、近年、製薬会社において最も重要な事項は薬そのものより、薬に関する情報である。化合物より、その化合物がどの分子に影響を与え、その結果、人体でどのような変化が起きるかと言う情報である。そして、同じ化合物が異なった個人に別の影響を与える事がしばしばあるので、そのような人間の多様性を理解した上での薬物の有効性と安全性の情報が重要なのである。化合物などの「モノ」の合成や製造はコンピュータと機械により自動化される傾向にある。

アップルとグーグルが主導するITの世界ではすでに情報重視の傾向が先行している。グーグルはもとより、アップルでさえ、米国内では製品の製造を行わず発展途上国に委ねている。製品の設計やソフトウェアの開発、つまり情報こそが会社の業務の中心となっている。製造はアジアなど人件費の安い地域で行うと言う分業が完成している。

創薬でもそのような分業は十分可能である。製薬会社は既にモノ作りの会社ではなく、情報収集と解析、更にはマーケッティングの会社になろうとしている。欧米の製薬会社は既にそのような傾向を大幅に取り入れているが、日本の製薬会社の意識改革が遅れているように見える。近年、日本の製薬会社から新薬が出なくなった理由の一つに、このような大きなトレンドがある。現在、薬に関する貿易は輸入超過が1兆円を超えている。

これから先進国では高齢化が進む。多くの人々の関心事は「健康」になる。しかし、それを支える医療や介護の経費は増えるばかりである。このような経費は、本当に効率的に使われているのであろうか。例えば、製薬会社は新薬開発や情報提供に膨大な経費をかけているが、もっと効率的な業務ができないのであろうか。その膨大な経費が世界中で薬価を釣り上げており、医療費を圧迫していないであろうか。もう少し情報を効率的に使えば、もっと安く、もっと良く効き、もっと安全な薬ができるのではないだろうか。

例えば、かつて我々は情報を得るために膨大なお金を使っていた。情報発信や広告のためにはもっと多くのお金がかかった。しかし、iPhoneの登場、グーグルに代表されるインターネットの登場により状況は一変した。情報伝達、情報収集、情報分析、情報利用は大幅に容易で安価になり、効率的になった。これからますますこの傾向は続く。

Calicoが誕生しても、既存の製薬会社はこういうだろう。「薬作りを甘く見ている。薬作りには膨大な経験と日常業務が必要なのだ」と。しかし、アムジェンやジェネンテックが登場した時も同じような声が聞こえた。しかも今回の参入者は並大抵な相手では無い。今やアップルは時価総額で世界最大の会社、グーグルは世界第3位の会社である(第2位はエクソン・モービル、第4位はマイクロソフト)。Calicoの設立は医療や創薬の世界を一変させる可能性があると思う。かつてアップルとグーグルが人々の生活を一変させたように。


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