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第39号 応用数学にかかわる日本語と英語の違い

日本人が不確実性と多様性に関する応用数学の分野を得意としない事、それが言語にも反映されている事は前述した。英語に見られる概念が日本語には乏しい。具体的には名詞において、可算名詞、非可算名詞の区別が質的対象と量的対象の区別の概念を、単数、複数の区別や集合名詞の存在が集合と要素の区別の概念を、不定冠詞と定冠詞の区別が変数と値の区別の概念に類似する事は前述した。日本語には名詞に関してこのような概念に乏しく、不確実性と多様性に関する応用数学を理解しにくい。

名詞以外にも英語には応用数学の概念に類似する表現が見られる。「A is a function of B.」はしばしば用いられる文であるが「AはBの関数である。」と訳せば良いであろうか。日常会話の中で「関数」ということばが頻繁に出てくるのは日本人には驚きであるが「function」といえば日常用語とも考えられる。英語の数学用語には日常用語が多く用いられるが、日本語に訳される時は日常用語とは異なる専門用語が用いられることが多い。「binary operation」は「二項演算」、「event」は「事象」である。「impossible event(不可能な出来事)」は「帰無事象」であり「certain event(確実な出来事)」は「全事象」である。日本語訳は数学を現実社会から遠ざける意義があるとしか思えない。

話しを戻すと「A is a function of B.」は一対一では無い因果の概念を含む重要な概念である。ここでAとBとは対称ではなく「Bが動くとAが動くが、Aが動いてもBが動くとは限らない」ことを意味している。このような因果の概念が日本語には乏しい。日本語の因果は一対一対応の時にうまく適用できるが不確実性と多様性を含む現実に適用するには概念の拡張が必要である。英語のfunction ofの表現は、統計学の多変量解析の概念を直接想起させる。

本や新聞でしばしば用いられる「a copy of」の表現も重要である。モノでなく情報として考えると、同じ本に書かれている情報は同じである。このようにモノとしては別であるが、情報としては同じ場合、どのように区別し、どのように数えたらよいであろうか。そこで便利な言葉が「a copy」である。情報としては同じであるがモノとして別な物は「a copy」である。遺伝子の場合も配列が同じDNAを別の人が持っている場合、それはcopyである。従って数はcopyとして数えるか、情報の単位として数えるかにより異なる。同じ情報を持った複数のモノを集合と考えると、一つと考える事ができる。数と量は現実と数学を結びつけるための応用数学において根源的な概念である。対象物の最小単位のモノだけではなく、それらの集合を対象として数学に載せる事は極めて重要である。

英語でしばしば用いられる「one of the」という表現も集合と要素を意識している。また英語ではa few, few, a little, little, a large number ofなど、数や量を明確にする表現が多い。常に対象物を「質的か量的か」「数はどれくらいか」「量はどれくらいか」「複数の対象物を集合として捉えられるか」などを吟味しているように思われる。

日本人が不確実性と多様性に関する応用数学の分野で必要な概念を構築するためには中等教育における英語教育、数学教育が重要であると考える。この中で「集合と要素」「変数と値」「質的対象と量的対象」「因果」「モノと情報」などの概念を生徒が理解できるように教育する事が有効であると考える。

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