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2013年02月04日

第32号 不確実性と多様性にどう対処するか(8)

Googleの勢いが止まらない。株価が急落したAppleを尻目にMicrosoftを抜き去った時価総額は世界トップを狙う勢いである。彼らの強みは一体何であろうか。

Googleを検索と広告の会社と捉えると本質を見誤る。かつてのIBMは大型コンピュータの会社であった。引き続き出たDECはミニコンの会社であり、Sunはワークステーションの会社であった。かつてのAppleはパソコンの会社であったしMicrosoftはソフトウェアの会社である。しかし、Googleは応用数学の会社である。

Googleはスタンフォード大学の大学院生、BrinとPage(現CEO)の取得したアルゴリズムの特許、PageRankをもとに設立された会社である。PageRankはマルコフ連鎖の推移行列から求められるinvariant distributionをもとにホームページをランキングするというアルゴリズムである。これを現実のインターネットでアクセスできる全データに適用すると、数学的に最も適切なホームページのランキングを行う事ができる。

個人個人の好みは多様なので、同じキーワードに関係したホームページでもどれが良いのかわからない。即ち不確実である。不確実である時、どのように対処すればよいであろうか。その分野で権威とされる人々により評価を行うと言うのが一つの方法である。実際に、初期のYahooなどはそのようにホームページのランキングを行っていたようである。しかしGoogleの方法は異なる。個人の好みは多様なので、求めるホームページは不確実である。従って、万人に共通の一つのホームページを提案する事はできないが、確率は計算できる。つまり、ある個人がホームページを次々にたどっていくとき、最終的にたどりつくホームページは決められないが、確率は計算できる。その確率の高さによりホームページをランキングする方法がPageRankアルゴリズムである。即ち、専門家による判断ではなく、応用数学的に膨大なデータを解析する事により不確実性と多様性に対処する方法を提供する会社である。

Googleは次の目標を個人データの解析に定めたように見える。その理由は、AmazonやFacebookなどの会社が個人データの解析をビジネスに利用する事で大成功を収めているからである。AmazonとFaceBookは、それぞれ商品販売とソーシャルネットワークをビジネスの中心に据えておりGoogleと分野は多少違うが、膨大なデータの解析を最大の戦力としている事は同じである。

FaceBookやAmazonは、膨大なホームページのデータに加え、個人から得られる膨大なデータを利用しようとしている。Googleも端末などから得られる膨大な情報を用い始めている。例えばAmazonは膨大な顧客のデータを用い、個人が要求しそうな、必要としそうな商品を提示する。FaceBookは個人が好みそうな話し相手を提案する。Googleはタブレット端末の個人の位置情報から移動速度を推定し、渋滞情報などに利用する。なぜ膨大なデータを解析すると好都合な事があるのか。それは個人個人の顧客に合ったサービスが可能であり、それが最も競争力のある方法だからである。

これらのビジネスモデルは実は医療におけるEBMや個別化医療と極めて類似している。Googleの膨大なデータを用い、人々が最も必要なホームページをランキングする方法は、EBMの考えと酷似している。即ち、専門医による提案やコンセンサスではなく、膨大なデータから得られるエビデンスを重視するからである。その両方に統計学と情報解析が重要な役割を果たしている事は言うまでもない。更にAmazon、FaceBook、更には最近のGoogleによる個人情報を利用したビジネスモデルは個別化医療のモデルと酷似している。どちらも個人から膨大なデータを収集し、それぞれの個人に最適な提案を行うからである。前者ではインターネット上で得られる個人のデータを、後者は個人のゲノムデータや属性のデータと治療結果などのデータを用いる。

日本がGoogleのような本格的なICT(Information and Communication Technology)の会社を生めない根底に、このような考え方に極端に弱い事がある。膨大なデータを客観的に分析するより、専門家の判断に頼りがちである。医療の世界では医療従事者個人の良心や英知に頼りがちである。しかし、そのような傾向は今の日本の行き詰まりに大きく関係している。政策決定、会社の方針決定、医療、メディア、スポーツ、マーケティングなど色々な分野で、意思決定を行う事が困難になっている。困難の原因は、情報開示が進んだからである。膨大なデータ解析による客観的な意思決定の手法が十分取り入れられず、個人の熱意や感情に依存した決定や、集団のコンセンサスにゆだねられる場合が多い。例えば、スポーツ分野では精神論や体罰が成績向上の重要な手段と考えられ、科学的な方法の導入が少ない。会社の方針決定でも日本の会社は欧米や韓国に後れを取っているように見える。メディアでも客観的な値より、情や好みに訴える事が多い。医療の分野でも医療従事者の主観的、希望的判断が重視される傾向がある。

現在は日本がどのような道を選択するかを決める上で重大な時である。不確実な過程で意思決定を行う時、個人の主観的判断に委ねるか、集団のコンセンサスに基づくか、膨大なデータの客観的分析を中心に判断するかを決めなければならない。日本社会の情や好みを判断材料にするなら、個人の主観的判断や集団のコンセンサスに基づく方が良い。それは多くの人々にとって、特にある程度以上の年齢の人々にとって心地よい事であろう。しかし、我々に心地よいからと言って、それにより若い人々の未来を奪うことはあってはならない。


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