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2010年12月27日

第15号 ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン

2010年12月16日、日本人類遺伝学会、日本臨床検査医学会、日本臨床薬理学会、日本TDM学会、日本臨床検査標準化協議会の5者により、「ゲノム薬理学を適用する臨床研究と検査に関するガイドライン」が発表されました。 私は日本人類遺伝学会の薬理遺伝学委員会の委員長として発表に立ち会いました。

ガイドラインの内容は各学会のホームページで見る事ができます。例えば、日本人類遺伝学会のホームページは、

http://jshg.jp/です。

ゲノム薬理学(Pharmacogenomics; PGx)、薬理遺伝学(Pharmacogenetics; PGt)とは、薬物応答と関連するDNAおよびRNAの特性の変異に関する研究です。多くの薬は人によって効き方が違います。また、副作用も全員に起きるわけでなく一部の人のみで起きます。

例えば最近の抗癌薬などは、全員を対象としたものから、特定の薬に反応する一部の人を対象としたものが増えてきています。EGFR遺伝子の変異が起きた肺がんに効果的なゲフィチニブ、K-RASという遺伝子の変異を持った大腸がんに効果的なセツキシマブなどです。今後もこのような薬が増えると予想されています。従って、これらの薬を服用する前に遺伝子検査をすることが望ましいと言う事になります。

更にゲノム薬理学は薬の副作用とも関連しています。例えば薬を服用した後に起きる重症の皮膚副作用としてスティーブンス・ジョンソン症候群やTENという障害があります。これにより命を落とす事もある重要な副作用です。このような重症皮膚副作用を起こしやすい薬があり、日本の統計ではカルマバゼピンとアロプリノールが多い事が報告されています。

HLA-B*5801というアレル(遺伝子の一つの型)を保有する人々はアロプリノールに対しての重症皮膚副作用を起こしやすいことがわかっており、これは医薬品の添付文書に書かれています。ただし、このアレルは中国人(漢人)には多いのですが、日本人には比較的少ない事がわかっています。

抗痙攣薬であるカルマバゼピンの場合は中国人(漢人)ではHLA-B*1502というアレルが重症皮膚副作用と関連する事がわかっていました。しかし、このアレルも日本人には非常に少ない事がわかっています。最近、日本人のカルマバゼピンの重症皮膚副作用にHLA-A*3101が関係している事がわかりました。このように、同じ薬による同じ副作用であっても人種により別の遺伝子が関係している事があるのです。

以上のように、我が国でも有用なゲノム薬理学検査は多いのですが、実際には倫理問題の所在を含め、それぞれの内容の理解が十分ではないため、その使用は限られていました。あるいは、ゲノム薬理学に特化したガイドラインが、一部を除き存在しないため、ゲノム薬理学検査の使用を躊躇する例も多いことが問題でした。そのため、多くの患者が不利益を受けていると推定され、無駄な医療費の使用が行われていると推定されます。

このガイドラインの発表により、臨床現場、新薬開発、臨床研究においてゲノム薬理学が適用されるようになることが期待できます。


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