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2010年02月26日

第11号 痛風と尿酸に関係する遺伝子発見の歴史

2月25、26日に大阪国際交流会館で「日本痛風・核酸代謝学会」が開かれました(会長:山本徹也兵庫医科大学教授)。 非常に活発な集会で、参加者も多く盛会でした。
私も教育講演を行いましたので、その内容を紹介します。 タイトルは、「ゲノムワイドアプローチによる高尿酸血症・低尿酸血症の遺伝素因の解明」です。

痛風や高尿酸血症、あるいは低尿酸血症に関係する遺伝的素因については古くから研究が進められて来ました。 まず、酵素活性測定により高尿酸血症に関係する遺伝子が発見されました。いわゆる糖原病と呼ばれる疾患群です。 即ち、von Gierke病(glucose-6-phosphatase欠損症)、Tarui病(筋phosphofructokinase欠損症)などが代謝物の 異常をきっかけに酵素活性の測定により発見されました。

Glucose-6-Phosphatase欠損症, Cori, GT et al. J. Biol. Chem. 199: 661-667, 1952.
筋phosphofructokinase欠損症, Tarui, S. et al. Biochem. Biophys. Res. Commun. 19: 517-523, 1965.

これらの二つの疾患は、第一次の欠損は糖代謝の異常であり、尿酸を代表とするプリン代謝の異常ではありませんでしたが、 次にプリン代謝の異常症による高尿酸血症が二つ発見されました。 これらもアイソトープを用いた正確な酵素活性測定法があったから発見された疾患です。

HPRT欠損症, Seegmiller, JE et al. Science 155: 1682-1684, 1967.
PRPP合成酵素亢進症, Sperling, O. et al. Biochem. Med. 6: 310-316, 1972.

酵素活性測定は主として赤血球で行われましたが、次の疾患は線維芽細胞の免疫的研究で欠損がわかったものです。

Molybdenum cofactor欠損症, Johnson, J. L. et al. Proc. Nat. Acad. Sci. 77: 3715-3719, 1980.

しかし、酵素活性や蛋白質の研究による遺伝的素因の研究には限界が出て来ました。 そこで、1990年代からは遺伝子を直接調べる事による研究が盛んになりました。 それまではキサンチン尿症という尿のキサンチンの増加と血清や尿の尿酸の低下で知られた病気が二つに分けられ(キサンチン尿症I型、II型)、Ⅰ型がxanthine dehydrogenase遺伝子の異常による事がIchida他により発見されました。

Xanthine dehydrogenase欠損症, Ichida, K et al. J. Clin. Invest. 99: 2391-2397, 1997.

このように酵素欠損症は順調に発見が続きましたが、膜を通して物質を輸送するトランスポーターなどの欠損の解明は困難でした。 しかし、ゲノム研究の進歩によりそれも可能になりました。Enomoto他はゲノム配列のライブラリーを検索し、 機能実験を行う事により腎尿細管において尿酸の輸送を行うトランスポーターURAT1を発見し、 遺伝性低尿酸血症の原因がURAT1をコードする遺伝子SLC22A12の変異によることを発見しました。

SLC22A12変異:Enomoto, A et al. Nature 417: 447-452, 2002.

更に、機能面から全く手がかりが無い遺伝病の原因遺伝子を見つける方法も発達しました。 それは連鎖解析と言う、遺伝子マーカーと数学的方法で遺伝子の染色体上の場所を探す方法です。 我々は家族性若年性高尿酸血症性腎症(FJHN)という病気の連鎖解析により遺伝子の場所が16p12であることを突き止め2000年に発表しましたが、 Hart他はその場所の

Uromodulinという蛋白質をコードするUMOD遺伝子の変異が原因である事を発見しました。
Uromodulin関連疾患, Hart, TC et al. J. Med. Genet. 39: 882-892, 2002.

これまでの発見はすべてメンデル型の遺伝病に関係する遺伝的素因ですが、一般の高尿酸血症、あるいは尿酸値に関係する遺伝子は不明でした。  2002年に理化学研究所ゲノム医科学研究センターで開発されたゲノムワイド関連解析(GWAS:genome-wide association study)という手法は極めて強力で、 多くの多因子病の関連遺伝子を発見しましたが、尿酸値に関係する遺伝子も次々と発見しました。

SLC2A9
Li S et al. PLoS Genet. 2007 Nov;3(11):e194:
Vitart et al Nat Genet. 40: 437-442, 2008
Döring A et al. Nat Genet. 40: 430-436, 2008
WDR1
Wallace C et al. Am J Hum Genet. 82:139-149, 2008.(SLC2A9)
McArdle PF et al. Arthritis Rheum. 58:2874-2881, 2008.(SLC2A9)
ABCG2 , SLC17A3
Dehghan, A et al. Lancet 372: 1953-1961, 2008.
SLC17A1, SLC22A11, SLC16A9, GCKR, LRRC16A、PDZK1 の近傍
Kolz M et al. PLoS Genet 5, Epub 2009.(メタ解析)
LRP2
Kamatani Y et al. Nat Genet. 42, 210-215, 2010

これらの多くは腎尿細管におけるトランスポーターか、それに関連する蛋白質をコードする遺伝子のようです。 即ち、尿酸値に影響を及ぼす遺伝子の多くが腎における尿酸排泄に関連していると思われます。

我々は尿酸の他にも赤血球数、白血球数、ヘモグロビン値、血小板数、BUN、クレアチニン、ALT、AST、CK、ALP、γGTPなど 20項目の検査に関連する46の新たな関連遺伝子を発見し同時に発表しました。 例えば、B型の人々は赤血球数やヘモグロビン値が高いことがわかり、白血球数や血小板数はヒト組織適合性抗原遺伝子に関連している事がわかりました。

46の発見の一つが血清尿酸値とLRP2遺伝子との関係だったのです。 この46個の遺伝子の発見は面白かったのでNHKおはよう日本の朝のニュースで取り上げられたほか、 多くの新聞やネットのニュースでも報道されました。


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