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2009年06月17日

第6号 不確実性と多様性

私の現在の最も重要な研究テーマは「不確実性と多様性」です。現代社会が直面する重大な問題の多くが、この不確実性と多様性にあると考えるからです。

世の中にはもちろん、確実なものも均一なものもあります。例えば、明日になったら太陽が東から上る(雲に隠れているにせよ)ことは確実です。日本の優れた製造業の製品の製造過程もほぼ確実です。最近では人間の手が入ることは稀で、ロボットとコンピュータが製造を担当するので、以前よりもさらに確実性は増していると思います。確実なことを繰り返すと、均一のものができます。だから、確実性と均一性は表裏一体のものです。これこそが製造業の真髄でしょう。

例えば、同じ型番のニコンのカメラでも、今日東京で買ったものと、来月大阪で買ったものが、ほぼ全く同じだからこそ高い評価を受けるのです。製造過程が確実だからこそ、均一のものができます。

ところがそうはいかないのが人間です。人間は絶対に同じものができない。これは遺伝の原理を知れば誰でもわかる事実です。これがサービス業が苦労をする大きな原因です。例えば、医師が薬を投与する。しかし、AさんとBさんでは効き方が違います。Aさんには効くのにBさんには効かない。もちろん、AさんにもBさんにも効く薬を開発するのが理想ですが、現実にそのような薬がなければ、現在の薬で対処するしかありません。

更に混乱することに、人間は自己の主観的判断も個人個人はなはだしく違う。本当は効かない薬なのに(新薬の開発では、そのような薬が用いられます)、主観的に効いたと判断する人は必ずいるのです。

好みも人によってまるで違いますね。肉が好きな人もいれば、魚が好きな人もいる。人間を対象とした仕事は本当にやっかいなものです。しかし、先進国はこれから、そのような事を真剣に考える必要が出てきているのではないでしょうか。そして、できるだけ個人個人が満足するようなサービスを提供することが大切です。

それでは、どのような方法で個人個人の好みを判断すればよいでしょう。これがわかれば、サービス業は大成功です。しかし、これがわからないからこそ、サービス業は難しいのです。多くの人は「勘」と答えるでしょう。それは、個人の勘で判断するしか無いのでしょうか。もう一つの方法は「データ収集と解析です」。データをいっぱい集めて、個人の好みを判断するのです。

これと同じことが医療にも言えるでしょう。薬が効くかどうか、副作用がでないかどうか、更には手術がうまくいくかどうか、個人によって違うでしょう。それを事前に判断できれば、こんな素晴らしいことはありません。しかし、それが難しい。医師の勘も大切でしょう。しかし、勘にだけ頼りすぎるとえらい目に会います。勘で手術をして、結果が良くなかったら、どう説明するのでしょう。「勘で手術をしたけど、うまくいかなかった」とは言えないのです。やはりデータをたくさん集めて、個々の例を予測するしかないのです。

このように、サービス業でデータをたくさん集めて、それを分析して個々の例の対処法を判断することは特に日本人は苦手なのではないでしょうか。私は、日本人は特に「確実性と均一性」を好む傾向があると思います。だからこそ、製造業で大成功を収めたのでしょう。たぶん、ドイツ人にも同じ傾向があるのでしょう。

これからの日本の産業がどうなっていくか、判断が難しいところがあると思いますが、これまでよりサービス業を増やす必要があるという意見があります。製造業が大切なことは誰にも異論がないのですが、国民の働く場を増やすためにはサービス業が重要だという意見が強いのです。そのようになるとすれば、不確実性と多様性への対処法が日本でも重要になるでしょう。


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